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ギルベルト1
4,ハイモンド家との縁談
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ある日ギルベルトは、父からの呼び出しを受け侯爵邸に向かった。
父と会うのは実に半年ぶりだ。
ギルベルトは王都を離れる前に挨拶に赴き、留守の間の縁談は断ってほしいと父に伝えていた。
「久しいな、ギルベルトよ。地方調整室での活躍は聞き及んでいるぞ」
「ひとまずの工期を終え、地方より帰って参りました。
早速ですが父上、この度の呼び出しはどのような用件でしょうか」
「まあそう焦るな。お前が王都に戻った途端にもう縁談が来たのだ。留守の間の縁談は断っておいたが、戻ってきたのだから受けても構わんだろう?」
妻亡き後、長らく脇目もふらず仕事に打ち込んでいた父は、子どもが適齢期になってからというもの、より良い縁談を探すことに躍起になっていた。
三人の兄たちはすでに良縁に恵まれ、政略結婚ながら円満に過ごしている。
ギルベルトも父が薦める縁談を受け入れる心づもりでいるが、どんな相手と見合いをしても父が納得することはなかった。
ただいたずらに見合いをこなすことに倦んだギルベルトは、この機に一旦の中断を願い出ることにした。
「そのことでしたら、業務に注力したいと思いますので引き続き縁談は全て断っていただけないでしょうか」
「仕事が楽しい時期というわけか。
ではお前が落ち着くまでは断ることにするが、すでにハイモンド伯爵家からの縁談を受けてしまったのでな。そことの見合いだけは出てくれぬか」
新たな縁談はハイモンド家、つまり同僚のセインの家からのものだった。
業務においてセインの補佐にまわるよう指示を受けたが、彼からは補佐は無用と言われ様子見にとどまっている。
セインから対抗心を感じるのはこの件が一端だろうかとギルベルトは思う。
「そういえばハイモンドの次男はお前と同じ地方調整室勤めであったな。
同僚と縁付くのは不満か?」
「いえ、そうではありませんが、あの家は現当主に関してあまり良い噂を聞きません」
ハイモンド家は由緒ある名家であり、今も様々な事業を行って権勢を振るっている。
しかし現当主になってからは、詐欺まがいの方法で財産を築いているとまことしやかに囁かれていた。
「ハイモンド伯爵はやり手だからな。おおかたやっかまれてそのような噂が出ているのであろう。
まあお前の気が乗らなければ見合いだけして断ればよい」
職務に集中したいギルベルトは、この少々厄介な相手との見合いを早く終わらせたいと心の中で嘆息した。
ハイモンド家との見合いの日となった。
侯爵邸で待つ父とギルベルトのもとに、ハイモンド伯爵が一人で訪ねてきた。
そして父の前に出るなり平身低頭で話し出す。
「誠に申し訳ございません! せっかく会っていただけるというのにこのような事態は無礼千万と存じます! しかし娘が体調を崩しており如何ともし難い状況なのです。
見合いを楽しみにしている娘に免じてどうか! どうか再びの機会をいただけませんか!」
一人で訪れた伯爵を怪訝な顔で見ていた父だったが、女性の体調不良と聞いてにわかに態度を軟化させた。
「それは心配でしょう。わざわざ伯爵自ら来てくださったんだ、日を改めざるを得ませんな。
良いな? ギルベルト」
娘の快復を待って再び見合いをする旨の約束を取り付けると、伯爵は安堵も顕に足取り軽く帰っていった。
しかしその後ぱたりとハイモンド家からの沙汰は止み、日にちばかりが過ぎるのだった。
父と会うのは実に半年ぶりだ。
ギルベルトは王都を離れる前に挨拶に赴き、留守の間の縁談は断ってほしいと父に伝えていた。
「久しいな、ギルベルトよ。地方調整室での活躍は聞き及んでいるぞ」
「ひとまずの工期を終え、地方より帰って参りました。
早速ですが父上、この度の呼び出しはどのような用件でしょうか」
「まあそう焦るな。お前が王都に戻った途端にもう縁談が来たのだ。留守の間の縁談は断っておいたが、戻ってきたのだから受けても構わんだろう?」
妻亡き後、長らく脇目もふらず仕事に打ち込んでいた父は、子どもが適齢期になってからというもの、より良い縁談を探すことに躍起になっていた。
三人の兄たちはすでに良縁に恵まれ、政略結婚ながら円満に過ごしている。
ギルベルトも父が薦める縁談を受け入れる心づもりでいるが、どんな相手と見合いをしても父が納得することはなかった。
ただいたずらに見合いをこなすことに倦んだギルベルトは、この機に一旦の中断を願い出ることにした。
「そのことでしたら、業務に注力したいと思いますので引き続き縁談は全て断っていただけないでしょうか」
「仕事が楽しい時期というわけか。
ではお前が落ち着くまでは断ることにするが、すでにハイモンド伯爵家からの縁談を受けてしまったのでな。そことの見合いだけは出てくれぬか」
新たな縁談はハイモンド家、つまり同僚のセインの家からのものだった。
業務においてセインの補佐にまわるよう指示を受けたが、彼からは補佐は無用と言われ様子見にとどまっている。
セインから対抗心を感じるのはこの件が一端だろうかとギルベルトは思う。
「そういえばハイモンドの次男はお前と同じ地方調整室勤めであったな。
同僚と縁付くのは不満か?」
「いえ、そうではありませんが、あの家は現当主に関してあまり良い噂を聞きません」
ハイモンド家は由緒ある名家であり、今も様々な事業を行って権勢を振るっている。
しかし現当主になってからは、詐欺まがいの方法で財産を築いているとまことしやかに囁かれていた。
「ハイモンド伯爵はやり手だからな。おおかたやっかまれてそのような噂が出ているのであろう。
まあお前の気が乗らなければ見合いだけして断ればよい」
職務に集中したいギルベルトは、この少々厄介な相手との見合いを早く終わらせたいと心の中で嘆息した。
ハイモンド家との見合いの日となった。
侯爵邸で待つ父とギルベルトのもとに、ハイモンド伯爵が一人で訪ねてきた。
そして父の前に出るなり平身低頭で話し出す。
「誠に申し訳ございません! せっかく会っていただけるというのにこのような事態は無礼千万と存じます! しかし娘が体調を崩しており如何ともし難い状況なのです。
見合いを楽しみにしている娘に免じてどうか! どうか再びの機会をいただけませんか!」
一人で訪れた伯爵を怪訝な顔で見ていた父だったが、女性の体調不良と聞いてにわかに態度を軟化させた。
「それは心配でしょう。わざわざ伯爵自ら来てくださったんだ、日を改めざるを得ませんな。
良いな? ギルベルト」
娘の快復を待って再び見合いをする旨の約束を取り付けると、伯爵は安堵も顕に足取り軽く帰っていった。
しかしその後ぱたりとハイモンド家からの沙汰は止み、日にちばかりが過ぎるのだった。
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