【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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リゼ2

3.家族への思い

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 会食の日から、リゼとギルベルトは多忙の合間を見つけては時々会うようにしている。


 逢瀬はいつも王宮内だ。互いに独身同士ではあるが、婚約もしていない男女のこと。深い仲と見なされるようなことは避けたいとリゼが言い、ギルベルトも同意した。

 時に食堂で、時に庭園で、時に温室で。密室とならない場所で話をするだけの時間が、リゼには待ち遠しくて仕方がなかった。

 短時間の逢瀬の中でも言葉を尽くし想いを重ね、二人はこれまでの距離を埋めるかのように互いのことを知っていった。


 リゼがとりわけ驚いたのは、家族に対するギルベルトの思いを知った時だ。

 彼の母親は、子どもたちに愛情を惜しみなく与えてくれたそうだ。それは幼かったギルベルトの記憶にも確かに刻まれ、彼は今でも母親を大切に思っているという。
 また、亡き妻だけを想い続ける父親のことも、彼は尊敬しているということだった。

 貴族らしく割り切った考え方のように思えた彼の、意外な一面だった。


「母が亡くなってからは邸から家族が遠のいた。父は仕事に打ち込み、三人の兄たちも寄宿舎から戻らなくなってね。
 五歳だった私も長じれば勉学と仕事に明け暮れる毎日だったよ」

「それは、幼子のギルベルト様には寂しい境遇だったでしょうね」

「寂しかった……のだろうか。
 母がいなくなってしばらくは泣いていた気がするが、それからすぐ初等学校に入ったから覚えていないな」

 そう話すギルベルトの目には何の色も浮かんでいない。
 寂しさも悲しみもなく、ただ出来事を淡々と述べていた。

 彼は幼い頃からこんな風に、正面から向き合うには辛すぎる感情をやり過ごしてきたのだろうか。

「やがて兄たちは父が用意した縁談で結婚し、皆うまくいっていて父の見る目に感嘆している。さすが父だと思ったものだ」

「ハイモンド家との縁談があるとお聞きしたのですが、それも侯爵様がご用意されたものですか?」


 リゼはずっと気にかかっていたことを訊ねてみた。
 ギルベルトは少し考えてからはっとした様子で言葉を返す。

「その話なら父が用意したのではなく、先方から申し入れがあったものだ。それももう半年ほど前のことで、音沙汰がないから終わったものだと思っていたよ」

「そうだったのですね。終わったお話を詮索して申し訳ありませんでした」

「いや、まあなんだ。とにかく今は縁談は全て断ってあるから、あなたが気にすることはない」

 言い淀み、話を終わらせようとするギルベルトに違和感を覚える。
 もしかすると侯爵はハイモンド家との婚姻を望んでいるのかもしれないとふと思う。


「不安にさせてすまない。ハイモンド家との縁談についてはしっかり確認しておく。
 それにあなたのことも父に話してくるから、家の了承を得たら先々の話もしたいのだが、いいだろうか」

 その口調には自信のなさや弱さといった、おおよそギルベルトには似つかわしくない感情が垣間見えた。
 また同時に、彼の眼差しはどこまでも真摯で、リゼを心から求めていることが伝わってくる。


 自分には爵位の高い実家も財産もない。家門の格差を思えば決して容易い道ではないだろう。
 それでもギルベルトはリゼ自身を見て、リゼとの未来を望んでくれているのだ。

 リゼはギルベルトの言葉を信じたいと思い、この先も彼と共にありたいと願った。
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