42 / 69
リゼ3
1.領からの報せ
しおりを挟む
ギルベルトとの関係が終わりを迎えた。
胸の奥から熱いものがせり上がり喉を締め付ける。その苦しみは深く心を苛むのに、リゼはどこか安心もしていた。
以前は家族のことを優しい顔で話していたギルベルトが、いつの頃からか父親のことを話す時にだけは翳りを帯びるようになった。
片や国中に名の知れた侯爵家、片や地方の子爵家だ。リゼとの交際が歓迎されていないことは容易に想像がついた。
ロランツ夫妻は、ギルベルトのことを感情がわかりづらいと言う。けれどリゼは、そのわかりにくさの中から彼の想いを見つけることが好きだった。
そんなリゼがギルベルトの苦悩に気づかないはずもなく、別れを切り出されたことに安堵したのは無理もないことだろう。
それにしても、とリゼは思う。
──無表情まで雄弁に思えるなんて不思議ね
ふふっと笑った拍子に涙が溢れる。
その場でうつむいたリゼは、しばらく顔を上げることが出来なかった。
宵闇に助けられ宿舎に戻ったちょうどその時、リゼのもとに早馬の知らせが届いた。差出人はルースライン領の義姉だ。
リゼは不安に駆られながら封を開く。
それはアルフレートが病に倒れたとの知らせだった。
リゼが王都で仕事に注力できているのは、兄がルースライン領を守っているからだ。
後継のいない兄にもしものことがあれば、リゼは一人領外にいるわけにはいかない。
リゼは王女宮へと出向いた。
幸い侍女長とローラはまだ勤務中だった。リゼの顔を見て侍女長が話し出す。
「あらリゼさん。今ちょうどローラさんとあなたの話をしていたところです。
リゼさんなら女官としてもやっていけると思うのですが、目指してみる気はありませんか?」
「それは…もったいないほどありがたいお話ですが、先ほど領地の兄が倒れたと知らせがありました。
誠に勝手なことを申し上げます。今しばらくお暇をいただけないでしょうか」
リゼが申し出ると、二人は顔を見合わせ慌て出した。
「それは大変だわ!
侍女長、彼女の御兄君は彼女のたった一人の肉親なのです。行かせてやってもらえませんか」
「ええ、ええ。行っておあげなさい。リゼさんのお顔を見たらきっとお力も出ることでしょう。
目処がたつまでは休職という形にしておきますからね」
賓客の部屋を担当していれば、こうもすんなりとはいかなかっただろう。
女官にという話には驚いたが、アルフレートの病状次第でリゼの未来は大きく変わる。
今は考えても詮ないことと意識の外に追いやった。
明日は早くに王都を出よう。
宿舎に戻り寝支度を済ませたリゼは固くまぶたを閉じた。
胸の奥から熱いものがせり上がり喉を締め付ける。その苦しみは深く心を苛むのに、リゼはどこか安心もしていた。
以前は家族のことを優しい顔で話していたギルベルトが、いつの頃からか父親のことを話す時にだけは翳りを帯びるようになった。
片や国中に名の知れた侯爵家、片や地方の子爵家だ。リゼとの交際が歓迎されていないことは容易に想像がついた。
ロランツ夫妻は、ギルベルトのことを感情がわかりづらいと言う。けれどリゼは、そのわかりにくさの中から彼の想いを見つけることが好きだった。
そんなリゼがギルベルトの苦悩に気づかないはずもなく、別れを切り出されたことに安堵したのは無理もないことだろう。
それにしても、とリゼは思う。
──無表情まで雄弁に思えるなんて不思議ね
ふふっと笑った拍子に涙が溢れる。
その場でうつむいたリゼは、しばらく顔を上げることが出来なかった。
宵闇に助けられ宿舎に戻ったちょうどその時、リゼのもとに早馬の知らせが届いた。差出人はルースライン領の義姉だ。
リゼは不安に駆られながら封を開く。
それはアルフレートが病に倒れたとの知らせだった。
リゼが王都で仕事に注力できているのは、兄がルースライン領を守っているからだ。
後継のいない兄にもしものことがあれば、リゼは一人領外にいるわけにはいかない。
リゼは王女宮へと出向いた。
幸い侍女長とローラはまだ勤務中だった。リゼの顔を見て侍女長が話し出す。
「あらリゼさん。今ちょうどローラさんとあなたの話をしていたところです。
リゼさんなら女官としてもやっていけると思うのですが、目指してみる気はありませんか?」
「それは…もったいないほどありがたいお話ですが、先ほど領地の兄が倒れたと知らせがありました。
誠に勝手なことを申し上げます。今しばらくお暇をいただけないでしょうか」
リゼが申し出ると、二人は顔を見合わせ慌て出した。
「それは大変だわ!
侍女長、彼女の御兄君は彼女のたった一人の肉親なのです。行かせてやってもらえませんか」
「ええ、ええ。行っておあげなさい。リゼさんのお顔を見たらきっとお力も出ることでしょう。
目処がたつまでは休職という形にしておきますからね」
賓客の部屋を担当していれば、こうもすんなりとはいかなかっただろう。
女官にという話には驚いたが、アルフレートの病状次第でリゼの未来は大きく変わる。
今は考えても詮ないことと意識の外に追いやった。
明日は早くに王都を出よう。
宿舎に戻り寝支度を済ませたリゼは固くまぶたを閉じた。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる