【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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リゼ3

2.疾駆

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 翌朝、まだ日も上らないうちにケイブ邸に向かう。
 ロランツもローラもすでに起きてリゼを待っていてくれた。


「リゼ、大丈夫だよ。子爵はまだ若いんだ。きっと君の帰りを待ってくれている。
 だから気を確かに持って向かうんだよ」

「ご心配をお掛けします。向こうに着いたら状況をお知らせしますね」


 挨拶を終えて邸を出る。
 裏手にまわり、貸し馬屋から借りた馬に跨がって早朝の王都を駆けた。
 後ろではリゼより遅れて邸から出てきたロランツが大きく手を振っている。
 リゼは束の間振り向いて一度手を振り、ルースライン領に続く街道を目指した。



 リゼが街道を通るのは四度目だが、通る毎に良い道だとの思いを新たにする。
 街道の周辺には宿や食事処なども増え、ルースライン領のみならず他の二領の人々にとっても、もはや欠かすことのできない道路になっている。

 逸る気持ちを抑えつつ夢中で馬を走らせていると、いつの間にか隣の領に入っていた。
 リゼはそこでようやく、以前あった関所がなくなっていることに気がついた。


 もしかして、と不安がよぎる。

 アルフレートはあの法外な補償金を支払ったのかもしれない。そして一人無理をして、体を壊してしまったのではないか。
 前回会った時の兄の酷い顔色を思い出し、リゼは悔やんだ。

 自分が商家に嫁いでいれば、関所の騒動も兄が倒れることもなかったのだろうか。
 今からでも間に合うのなら、兄がどう言おうとも縁談を進めよう。自分の婚姻で兄や領民の生活が守れるのなら安いものだと思った。




「リゼ、早すぎないか。もしかして馬で来たのか!?」

 ルースライン邸に着くとアルフレートはベッドで体を起こし目を丸くしていた。


「お兄様! 起きていて大丈夫ですか! ご病気だと聞きました」

「わざわざ知らせまでやって心配かけたね。すまなかった。
 ほら、子どもの時にかかると成人後にぶり返すあの病だよ。睡眠が足りていなかったようでね、よく寝たらすっかり治ってしまった」

「リゼさんおかえりなさい。あなたにもお仕事があるのに早馬なんて送ってしまって申し訳ないことをしたわ。
 この人が執務室で倒れていて、どうやっても目を覚まさないものだから動転してしまったの」


 兄も義姉も少しばかりばつが悪そうにしているが、リゼは二人を責めるつもりなど毛頭ない。
 兄の無事を確かめると力が抜けて座り込んでしまった。


「お兄様が回復されていて何よりだわ。
 でも元気になったからといって、また無理などしないでくださいね」

「それはどうだろう。せっかく補償金の件が片付いたから、私としてはこれから本腰を入れて領を盛り立てていこうと思っているところなんだ。多少の無理ぐらい……おっと、それはまあ追い追い考えようかな」


 リゼの視線に気づいたアルフレートは慌てて口をつぐむ。

「お兄様、補償金が片付いたとは支払ったということですか?」

「ま、まさか!そんな無駄なことはしないさ。
 ギルベルトさんが商人を追っ払ってくれたんだ」


 リゼはアルフレートから経緯を聞いた。
 前回の査察の際の出来事だという。

 またギルベルトはルースラインを助けてくれた。しかも今度は任務外のことだ。


 感謝の気持ちを伝えたいが、もうリゼは気安く彼に話し掛けられる関係ではないと思い出し、胸が痛んだ。
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