48 / 69
リゼ3
7.兄
しおりを挟む
リゼはライナスがくれた本をありがたく受け取り、宿舎に戻ってからさっそく目を通した。
その本は『身近な半貴石』という題名で、五種類の半貴石のことが書かれている。
こう言っては何だが、手に取る人はそう多くはないだろう。探すのに苦労したというライナスの言葉も頷ける。
共通語で書かれているが、専門用語もしくは隣国特有の言い回しなのか難解な部分もある。リゼはわかる部分だけを拾い読みしながらページをめくっていった。
木の化石の項目は五番目、最後にあった。
本には、石のなりたちや採石地のほか、利用価値や加工方法などが書かれていた。
リゼは翌日、ライナスに訊ねた。
「ライナス様、あのような珍しい本をありがとうございました。実は今後あの石を領の特産品にできないかと考えているのです。いただいた本を領の方に送っても構わないでしょうか」
アルフレートの快復後しばらく経ってから、兄より便りがあった。
ルース川の護岸の完成式典と街道の開通式典を同時に行うという。時期は五ヶ月後。何としてもそれまでに木の化石を特産品にする道筋をつけたいと兄は綴っていた。
この本は兄のために必ず役に立つはずだ。リゼはそう考え、ライナスに訊ねたのだった。
「リゼさんに差し上げたのですからあなたの思うように活用してください。あの石を特産品にするのですね。それは素晴らしいことです。きっと人気になりますよ。それならあの石は資源としてきちんと管理した方が良いでしょうね」
「ですが領ではありふれた石ですし、領民はみな自由に拾って磨いているので、管理というのはそぐわない気がします」
「これまではそうでも、今後たくさんの人が領の外から来るようになると、悪いことを考える人も出てくるかもしれませんよ。特産品にするのなら悪用や乱獲を避ける手立ても考えるべきです。専門家を据えて法整備まで出来ると完璧なのですけどね」
リゼはなるほどと思う。
『身近な半貴石』によると、木の化石は川辺で散見されるが一ヶ所でまとまって見つかることはあまりないらしい。ゆえに一般的な認識では“ちょっと綺麗な小石”程度のものだそうだ。
それがたくさん採れて磨くと売り物になるとなれば、また話は変わってくる。
アルフレートは鉱物資源の利権の専門家に伝(つて)はないだろう。あってもおそらくあの商家くらいだ。
リゼはロランツを頼った。
彼は地方調整室長という仕事柄かそれとも人柄か、非常に顔が広い。ロランツは二つ返事で承諾し、数日後には適任という人物に引き合わせてもらえることになった。
その人物は、ロランツの前の職場の部下だという。
都合の良い日を訊ねると、暇な部署なのでいつでも良いと言われたそうだ。
「確かに国史編纂室は暇だけど、言い方ってものがあるよねえ」
そう言ってロランツは苦笑した。どうやらかなりはっきりした性格の人物のようだ。
約束の日の昼休憩にロランツと二人で国史編纂室の会議室へと向かう。目的の人物はすでに部屋の中で待っていた。
「やあイアン君、待たせたかな。この度は仕事に関係のないことを頼んですまないね」
「うちの仕事が暇なのはあなたがよくご存知でしょうに。私も弟も室長にはお世話になっていますから、何なりと申し付けてくださいよ」
「ああ、ありがたいね。ではさっそく話を始めようか。
リゼ、彼の家は鉱山を持っていてね。それに彼自身が法律に詳しい。利権のことを相談するにはうってつけの人物なんだ。
イアン君、彼女はリゼ・ルースライン嬢。私が後見人になっているお嬢さんだよ」
リゼの名前を聞いたイアンは少しだけ眉を上げた後、にこりと笑って名乗った。
「初めましてリゼ・ルースライン嬢。
イアン・ハイモンドと申します」
その本は『身近な半貴石』という題名で、五種類の半貴石のことが書かれている。
こう言っては何だが、手に取る人はそう多くはないだろう。探すのに苦労したというライナスの言葉も頷ける。
共通語で書かれているが、専門用語もしくは隣国特有の言い回しなのか難解な部分もある。リゼはわかる部分だけを拾い読みしながらページをめくっていった。
木の化石の項目は五番目、最後にあった。
本には、石のなりたちや採石地のほか、利用価値や加工方法などが書かれていた。
リゼは翌日、ライナスに訊ねた。
「ライナス様、あのような珍しい本をありがとうございました。実は今後あの石を領の特産品にできないかと考えているのです。いただいた本を領の方に送っても構わないでしょうか」
アルフレートの快復後しばらく経ってから、兄より便りがあった。
ルース川の護岸の完成式典と街道の開通式典を同時に行うという。時期は五ヶ月後。何としてもそれまでに木の化石を特産品にする道筋をつけたいと兄は綴っていた。
この本は兄のために必ず役に立つはずだ。リゼはそう考え、ライナスに訊ねたのだった。
「リゼさんに差し上げたのですからあなたの思うように活用してください。あの石を特産品にするのですね。それは素晴らしいことです。きっと人気になりますよ。それならあの石は資源としてきちんと管理した方が良いでしょうね」
「ですが領ではありふれた石ですし、領民はみな自由に拾って磨いているので、管理というのはそぐわない気がします」
「これまではそうでも、今後たくさんの人が領の外から来るようになると、悪いことを考える人も出てくるかもしれませんよ。特産品にするのなら悪用や乱獲を避ける手立ても考えるべきです。専門家を据えて法整備まで出来ると完璧なのですけどね」
リゼはなるほどと思う。
『身近な半貴石』によると、木の化石は川辺で散見されるが一ヶ所でまとまって見つかることはあまりないらしい。ゆえに一般的な認識では“ちょっと綺麗な小石”程度のものだそうだ。
それがたくさん採れて磨くと売り物になるとなれば、また話は変わってくる。
アルフレートは鉱物資源の利権の専門家に伝(つて)はないだろう。あってもおそらくあの商家くらいだ。
リゼはロランツを頼った。
彼は地方調整室長という仕事柄かそれとも人柄か、非常に顔が広い。ロランツは二つ返事で承諾し、数日後には適任という人物に引き合わせてもらえることになった。
その人物は、ロランツの前の職場の部下だという。
都合の良い日を訊ねると、暇な部署なのでいつでも良いと言われたそうだ。
「確かに国史編纂室は暇だけど、言い方ってものがあるよねえ」
そう言ってロランツは苦笑した。どうやらかなりはっきりした性格の人物のようだ。
約束の日の昼休憩にロランツと二人で国史編纂室の会議室へと向かう。目的の人物はすでに部屋の中で待っていた。
「やあイアン君、待たせたかな。この度は仕事に関係のないことを頼んですまないね」
「うちの仕事が暇なのはあなたがよくご存知でしょうに。私も弟も室長にはお世話になっていますから、何なりと申し付けてくださいよ」
「ああ、ありがたいね。ではさっそく話を始めようか。
リゼ、彼の家は鉱山を持っていてね。それに彼自身が法律に詳しい。利権のことを相談するにはうってつけの人物なんだ。
イアン君、彼女はリゼ・ルースライン嬢。私が後見人になっているお嬢さんだよ」
リゼの名前を聞いたイアンは少しだけ眉を上げた後、にこりと笑って名乗った。
「初めましてリゼ・ルースライン嬢。
イアン・ハイモンドと申します」
8
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~
ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」
その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。
わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。
そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。
陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。
この物語は、その五年後のこと。
※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる