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ギルベルト3
1,案じることしか
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リゼがルースライン領に帰った。しかも一人馬に乗り向かったという。
ギルベルトは思わず飛び出しかけたがロランツに止められた。
それよりもリゼがどうやって馬を調達したのかを調べるように言われ、馴染みの貸し馬屋に向かった。
貸し馬屋で訊ねると、確かに今朝早く若い女性に馬を貸したという。たまたま同じ方面に向かう店主が同行したと聞いて、ギルベルトは心底安堵した。
部署に戻ると心配そうな顔のロランツが声をかけてくる。
「どうだった?リゼが乗っていたのはきちんと世話されている馬だったかい?怪しい馬貸しから借りていなければ良いんだけど」
「私が紹介した貸し馬屋で借りたようです。店主と共に向かったと聞きました」
「それなら少しは安心したよ。彼女、ご当主の知らせを聞いてずいぶん慌てていたからね。誰かと一緒だと一人よりは心強いだろう」
ギルベルトはそこで初めてリゼの帰省の理由を知った。リゼはきっとギルベルトと話した直後に領からの知らせを受けたのだ。それならば彼女は今どれほどの不安の中にいることだろう。
誰のせいでもない事態ではあるが、ギルベルトは己のタイミングの悪さを呪った。
リゼとアルフレートの身を案じながらも、しかしギルベルトに出来ることはなく、結局はいつもどおりに日々を過ごしている。
そんななかハイモンド伯爵と連絡を取り付け、ようやく見合いの運びとなった。
グレイスを連れて侯爵邸を訪れたハイモンド伯爵が長らくの無沙汰を詫び、ヴィンロード侯爵が鷹揚に頷く。
この見合いの結果がどうあれ、ギルベルトが条件の良い家柄の相手と縁付くことは確定事項だ。
父親二人は共に上機嫌だった。
「ギルベルト殿、我が娘グレイスはいかがですかな。なかなか芯の強い娘でして、任務で多忙な貴殿を支えてしっかりと家政を取り仕切ることも出来ましょう」
「そうですか。グレイス嬢の兄君とは最近公務で助け合っていますので、これを機に家同士の繋がりを作るのも良いかもしれませんね」
「なんと! これは嬉しいお言葉ですな。グレイス良かったじゃないか、ギルベルト殿がこのように言ってくださっておるぞ」
満足そうな父親たちを応接室に残し、ギルベルトとグレイスは庭を散策すると言って外に出た。
使用人たちから少し離れると、にこやかな表情を崩さないままのグレイスに話し掛けられる。
「ヴィンロード様、あなたご自分がどんなお顔をなさっているかご存知です?
目に生気が感じられませんわ。兄からも聞いておりましたが、やはりどう考えても私のお願いが発端なのでしょう? お相手の方が怒ってしまわれましたか?」
セインと同じような言葉をかけられ、それほど憔悴しているように見えるのだろうかとギルベルトは自分の頬をひと撫でした。
「いいえ。彼女のせいでも、あなたのせいでもない。私の問題です。気にすることはありません」
「ですがヴィンロード様にばかりそのように負担をかけてしまっては私も心苦しいのです。どうか私をその方に会わせてください。誤解を解けばきっと──」
「必要ありません。もうその話はしないでください。あなたにどうこうできることではないのです」
思わず強く遮ると、グレイスは口をつぐんだ。
そもそもリゼは怒ってなどいない。
怒った彼女を宥めてなんとかなるような事態だったならばどれほど良かっただろうか。
さほど打ち解けた様子もなく二人は応接室に戻り、これから婚約の手続きを進めたいと父親たちに告げた。
ギルベルトは思わず飛び出しかけたがロランツに止められた。
それよりもリゼがどうやって馬を調達したのかを調べるように言われ、馴染みの貸し馬屋に向かった。
貸し馬屋で訊ねると、確かに今朝早く若い女性に馬を貸したという。たまたま同じ方面に向かう店主が同行したと聞いて、ギルベルトは心底安堵した。
部署に戻ると心配そうな顔のロランツが声をかけてくる。
「どうだった?リゼが乗っていたのはきちんと世話されている馬だったかい?怪しい馬貸しから借りていなければ良いんだけど」
「私が紹介した貸し馬屋で借りたようです。店主と共に向かったと聞きました」
「それなら少しは安心したよ。彼女、ご当主の知らせを聞いてずいぶん慌てていたからね。誰かと一緒だと一人よりは心強いだろう」
ギルベルトはそこで初めてリゼの帰省の理由を知った。リゼはきっとギルベルトと話した直後に領からの知らせを受けたのだ。それならば彼女は今どれほどの不安の中にいることだろう。
誰のせいでもない事態ではあるが、ギルベルトは己のタイミングの悪さを呪った。
リゼとアルフレートの身を案じながらも、しかしギルベルトに出来ることはなく、結局はいつもどおりに日々を過ごしている。
そんななかハイモンド伯爵と連絡を取り付け、ようやく見合いの運びとなった。
グレイスを連れて侯爵邸を訪れたハイモンド伯爵が長らくの無沙汰を詫び、ヴィンロード侯爵が鷹揚に頷く。
この見合いの結果がどうあれ、ギルベルトが条件の良い家柄の相手と縁付くことは確定事項だ。
父親二人は共に上機嫌だった。
「ギルベルト殿、我が娘グレイスはいかがですかな。なかなか芯の強い娘でして、任務で多忙な貴殿を支えてしっかりと家政を取り仕切ることも出来ましょう」
「そうですか。グレイス嬢の兄君とは最近公務で助け合っていますので、これを機に家同士の繋がりを作るのも良いかもしれませんね」
「なんと! これは嬉しいお言葉ですな。グレイス良かったじゃないか、ギルベルト殿がこのように言ってくださっておるぞ」
満足そうな父親たちを応接室に残し、ギルベルトとグレイスは庭を散策すると言って外に出た。
使用人たちから少し離れると、にこやかな表情を崩さないままのグレイスに話し掛けられる。
「ヴィンロード様、あなたご自分がどんなお顔をなさっているかご存知です?
目に生気が感じられませんわ。兄からも聞いておりましたが、やはりどう考えても私のお願いが発端なのでしょう? お相手の方が怒ってしまわれましたか?」
セインと同じような言葉をかけられ、それほど憔悴しているように見えるのだろうかとギルベルトは自分の頬をひと撫でした。
「いいえ。彼女のせいでも、あなたのせいでもない。私の問題です。気にすることはありません」
「ですがヴィンロード様にばかりそのように負担をかけてしまっては私も心苦しいのです。どうか私をその方に会わせてください。誤解を解けばきっと──」
「必要ありません。もうその話はしないでください。あなたにどうこうできることではないのです」
思わず強く遮ると、グレイスは口をつぐんだ。
そもそもリゼは怒ってなどいない。
怒った彼女を宥めてなんとかなるような事態だったならばどれほど良かっただろうか。
さほど打ち解けた様子もなく二人は応接室に戻り、これから婚約の手続きを進めたいと父親たちに告げた。
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