【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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ギルベルト3

11,とある噂

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 地方調整室に戻ったギルベルトは、ロランツを探した。

 同僚に聞くと、少し前に慌てて執務室を出て行ったという。


 自席に積み上がった書類に目を通していると、知った声に話しかけられた。

「ギルベルトさんこんにちは。
 あなたがそんなに書類を溜め込むとは意外ですね。お忙しいようなら出直しましょうか」

「ああイアンさん。先程地方から帰ったところです。
 今日は室長への報告で来たのですが不在のようで。イアンさんはどうされましたか」


 彼は時々こうしてふらりと現れては、ロランツやギルベルトと少し話して帰っていく。
 雑談に飢えているというのはあながち嘘ではないのかもしれない。


「そういえば今そこで室長とすれ違いましたよ。リゼ嬢のことで外務部に行くと言っていました。もしや噂の件でしょうかね」

「噂とは何のことでしょう」

「おや、ご存知ないのですか」


 イアンはギルベルトを地方調整室から連れ出し、廊下の隅で声をひそめた。

「隣国の使者が王女宮の侍女を供に連れて帰るという噂がありましてね。部屋付き四人のうち独身の二人が行くと決まったとか。
 まあ噂ですから真偽は不明です」

「そのうちの一人がリゼ嬢ということですか? そんな……彼女が故郷からさらに離れた地に行くだなんて───」

「ないと言い切れますか? あの領はもうリゼ嬢が気にかけずとも栄えるのは必定です。彼女の不安の種はなくなりました。
 この躍進の機会を彼女ほど意欲のある人が逃しますかね」


『新たな場所での仕事に引き立ててもらえるそうで張り切っていますよ』

『別の方を受け持つというわけでもないようですが』

 脳内にアルフレートの言葉が蘇り、イアンの声が素通りする。
 ギルベルトは一つの結論に辿り着こうとしていた。


「ギルベルトさん、大丈夫ですか? まだそうと決まった訳じゃありませんよ。
 ああほら、室長が戻ってきました。聞いてみてはいかがですか」

 イアンが指す方を見ると、確かにロランツが戻ったところだった。心なしかその顔色は優れない。

 イアンが暇を告げ立ち去ると、ギルベルトはロランツの前に立った。


「室長、本日査察より戻りました」

「やあ、ギルベルトか。ご苦労様」


 上の空で返事をするロランツに不安が募る。
 ギルベルトは単刀直入に問うた。

「外務部に行っておられたのは、リゼ嬢の隣国行きの件でしょうか」

「内密の話のはずだが、君は知っていたのかい。そう、そのことで外務部に呼ばれてね」

「私もつい先ほど聞きました。
 では使者殿の部屋付きから二名が隣国へというのは本当なのですか」

 違っていてほしい──そう願いながら訊ねるギルベルトに、ロランツが消沈した声で答えた。

「どこから情報が漏れたのかは知らないが、そのとおりだよ。
 もう僕はショックでしばらく立ち直れそうにない」


 ロランツは頭をかき回したあと、今度は力ない笑みを作ってギルベルトに告げた。

「そうそう、まだ内定だけど君の昇任が決まったよ。
 ルースライン領を含む東部の統括を任せることになりそうだ。式典の前には発令されるだろう」


 待ち望んだはずの昇任。
 しかし今は喜びよりも衝撃が勝った。

「頑張ってね」

 動かないギルベルトにそれだけ告げたロランツは、また物思いに耽り始めた。
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