【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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ギルベルト3

12,手を伸ばす

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 リゼが隣国に行ってしまう。
 青天の霹靂とはまさにこのことだ。

 リゼが幸せならば、自分は身を引いても構わないと思っていた。
 彼女の喜びや悲しみを受け止めるのが自分ではなくとも構わないと思った。

 それは紛れもなく苦渋の中の本心だった。
 けれど、リゼへと手を伸ばすことが叶いそうな今、それはひどく受け入れ難いことだと知る。


「室長」

「ん? なんだい? 」

「王女殿下のご出立までにリゼ嬢に会うことは可能でしょうか」

「ご出立までって、あと四日じゃないか。今が一番忙しくてうちの奥さんも帰れていないくらいだ、無理だろうね。
 彼女に急ぎの用事でもあるのかい?」

「はい。一刻も早く伝えたいことがあります」

「うーん。それなら僕と見送りに行こうか。
 うまくいけばその場で一言二言くらいは話せるかもしれない」


 あと一度、リゼに会うことが出来たら。
 その時は伝えても良いだろうか。

 この先もあなただけを想っていると。



  
 いよいよお輿入れ行列が隣国へと出発する。

 よく晴れた空のもと、居並ぶ馬車は壮観だ。
 やがて行列が厳かに動き出した。


 ギルベルトはロランツと共に人だかりの中にいた。
 四日前の衝撃から立ち直ったロランツは、何としても使者の馬車を見つけようと意気込んでいる。

「室長、この状況で彼女を見つけて声を掛けるなど不可能ではないでしょうか」

「そうかもしれないね。それでも僕は見つけてみせるよ。
 何しろ今日を逃せばもうずっと会えなくなってしまうんだ」

 ロランツは行列から目を離さずに答えた。

「ああほら、今そこを通っているのが武官たちだ。次に外務部の官吏と、おそらくその後が使者殿だろう。
 そろそろ前の方に行かないとダメだな」


 同じような馬車が何台も連なり区別がつかない。
 彼はどうやって見分けているのだろうか。

 やがてロランツは「見つけた! 使者殿だ!」と声を上げて人垣の前方を目指す。


 ギルベルトもあとを追いながら人をかき分けその背中に声を掛けた。

「叔父上! リゼ嬢も乗っていますか!」

「いいやリゼは乗っていない! 君はそこにいてくれ!」


 ギルベルトは、泳ぐように人の隙間を縫うロランツを瞬く間に見失ってしまった。

 ここにいろと言われたが、それではリゼを見逃してしまう。

 ロランツを追うのは諦めて、しかしどうにか一人で前方へと進み出た。


 周囲の歓声に応えるように、馬車の窓は全て開かれ中から人が手を振っている。

 ギルベルトは目を凝らしリゼを探した。
 なんとか使者は見つけたが、リゼは同乗していなかった。

 その後も通過する馬車を必死に見続け、しまいには沿道整理の係官に肩を掴まれながら身を乗り出して探した。


 しかしそれでも、リゼを見つけることはついに叶わなかった。



 最後の荷馬車と護衛の騎士たちが通りすぎ、見送りの人々は三々五々に去っていく。


 いつの間にか周囲から人が引き、ギルベルトは長らく立ち尽くしていたことに気づく。

「おうい、ギルベルト。こんなところにいたのかい」

 自身を呼ぶロランツの声に力なく振り返ったギルベルトは目を見開いた。

「リゼ嬢!!」

 ロランツの隣には、こちらを見つめるリゼがいた。

 すぐさま駆け寄って、手を伸ばす。
 きつく抱き締め、彼女の温もりを確かに感じるのだった。
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