異世界転生した世界は男尊女卑。

馳 影輝

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第10話 青春はほろ苦い。

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最大の難関であるお父さんを攻略する為に私は考えに考え抜いた。
朝起きてご飯の準備をして家族揃ってテーブルに着いた。

「ねえお父さんって、どんな歌を聴いてるの?」

「ん?
そうだな。
80年代の洋楽やジャズも好きだぞ。
どうしたんだ?
急にそんな事聞くなんて。」

「うん。
私はね。
友坂ユウリって言う人の歌が好きなの。」

「ああ、知ってるぞ。
とても綺麗な声の女性アーティストだな。」
なんと言う事だろう。
お父さんが最近のアーティスト事情も知っているとは思わなかった。

少しずつ会話に芸能界の話を織り交ぜたり。
ある夜には。

「お父さん。
見て見て!」

「ん?
どうした?」
テレビ番組は音楽番組を一緒に見ると言う作戦だ。

「私が好きな友坂ユウリさんだよ。
良いよね~。」

「そうだな。」
お父さんに芸能界と言うものに関心を持たせる作戦を実行中。

そんな作戦の合間に私はギターの練習をしている。
幸いな事に器用スキルのお陰で上達が早い。
一通りアコースティックギターを弾き鳴らす事ができるようになってきた。

勉強も真面目にやって、放課後の部活も毎日頑張り、帰ってから部屋でギターを練習している。

もう直ぐ夏休みだ。
サッカー部の試合などもあるから意外に忙しい。

そして、お父さんに芸能界の事を知ってもらう作戦も続けている。

「お父さんお父さん。
私ね。
ギター弾けるようになったよ。
聴いてくれる?」

「ギターを弾けるのか?
それは凄いじゃないか。」

ソファーに座ってお父さんとお母さんにギターを弾いて聴かせた。
練習の甲斐があって友坂ユウリさんの代表曲「ヒーリング」を上手に弾けるようになったのだ。

「詩織。
とても上手に弾けるのだな。
歌もプロ並みじゃないのか?」

器用スキルでギターもプロ並み。
美声スキルだが、練習を重ねていたら歌姫スキルになっていた。
称号も知略家と言うものが追加されていた。
効果は思い巡らせた先に光明あり。
と言う曖昧な効果だ。
そろそろかな。

「お父さん。
実は相談があるの。」

改まって真剣な表情でお父さんと向き合った。

「改まってどんな相談だ?」

「うん。
私歌手になりたいの。
その為にオーディションを受けたいの。
応援して欲しい。」

お父さんは腕組みをすると暫く黙って考え込んでいるそぶりを見せた。

「詩織。
ギターはいつから練習していたんだ?」

「2週間くらい前からだよ。」

「2週間でそこまで上達するとは凄いじゃないか。
やるならとことんやりなさい。
お父さんもお母さんも応援しよう。」

「え?
良いの?
ありがとう。」
私はお父さんに抱きついた。
そんなに簡単に理解されるとは思っていなかったので、凄く驚いて涙が溢れてきた。
称号の知略家のお陰なのだろうか?

そして、夏休みに入って部活が忙しくなった。

「詩織ちゃん。
明日の練習試合で使うボールとユニホームを準備しておいて。
ユニホームは先生が後で取りに来るから渡してあげて欲しいの。」
私の側に三上先輩が駆け寄ってきた。

「はい。
わかりました。」
ユニホームはレギュラーに配られる。
クリーニングに出されていたので、まだビニールが被されている。
部室に確かあった筈。

部室に辿り着くと、中から誰かの声がした。
ドアを少しだけ開けると、部室の中にはキャプテンの佐々木先輩と2年のマネージャー木村先輩が話しているようだ。
と思ったら、佐々木先輩が木村先輩を壁ドンならぬ、ロッカーの前で手を着いて密接に寄り添った。

そのまま2人はキスを始めてしまった。
思わず見惚れてしまったが、入るタイミングを失ってしまった。
2人は濃厚なディープキッスへと突入して、舌と舌を絡めあっている。
高校1年生の私にはちょっと刺激的すぎますよ。

更にエスカレートして、佐々木先輩が木村先輩の制服のスカーフを解くと前開きの上着から制服の中に手を入れて胸を触り始めた。

木村先輩も興奮しているのか、身体をクネクネと悩ましげに動かしている。

見ている私の方が恥ずかしくなってくるほど、濃密に絡み合っている。

「うわぁ~、どうしよう…。」
見てはいけないと思いつつも見てしまう。

まさか、この場所でやる所までやらないよね。
しかし、勉強になります。
木村先輩は凄く感じている様子が、女の子のこう言う時の体の動きや手の動き、キスの仕方を私に教えてくれているようだ。
高校1年生の子供には刺激が強すぎる。

私までエッチな気分になってきてしまった。
下半身や胸の奥が熱くなってくる。
自慰行為に走ってしまいそうだ。
女の子の身体ではまだ経験がないけど、あそこも熱くなってきている。
とは、思ったが。
今は真っ昼間。

コンコン!
仕方がないドアをノックした。

「楢崎です。
入りますが、誰か居ますか?」
少し大きめの声で聞こえるように言った。

「あ、詩織ちゃん。」
慌てた様子で木村先輩がドアを開けた。

「あ、先輩。
明日の準備でユニホームを取りに来たんですけど、部室にありますよね?」
先輩は顔を少しか赤らめていて、恥ずかしそうな感じだ。
私は見てたけど、先輩は私が見ていた事には気づいていない筈。

「あ、ユニホームね。
有るわよ。」

「貰っていきますね。
先生に渡してくれって、三上先輩に言われて。」
部室に入ると椅子に座って佐々木先輩が私の方を見るとバツの悪そうな表情をしている。
そりゃ~バツも悪いよね

「楢崎。
ご苦労様。」

「あ、佐々木先輩。
いらっしゃったんですね。
2人で明日の打ち合わせですか?」
エッチな事をしていたのは知ってますよ。
とは、言えるわけもなく。
お二人の尊厳は守ってあげたくなった。

「ああ、そうなんだ。」

ユニホームは部屋の奥の段ボールの中にクリーニングの袋に包まれたまま置かれていた。

「あ、有りました。
貰っていきますね。」
段ボールから出すと袋に詰め替えた。

「じゃあ、俺は練習に戻るから後はよろしく。」
そう言うと佐々木先輩は部室を出て行ってしまった。
悪い事をしたかな。
でも、部活の最中にエッチな事をしているのは良くないよ。

「詩織ちゃん。
手伝うよ。」

「お願いします。」
可愛らしく微笑んでみせた。
先輩も落ち着いたのか、いつもの様子に戻っていた。

「あのね。」
ユニホームを袋に詰めながら、小さな声で木村先輩が呟いた。

「ん?
はい。
どうしました?」
いつもの様子の木村先輩だが、声が小さくて聞き取れないような優しい声だった。

「私ね。
佐々木先輩から告白されちゃった。」

「……。
良かったですね。」
私は和かに微笑んで先輩の顔を見た。

「あれ?
驚かないの?」
私の普通な反応に驚いた顔をしている。

「佐々木先輩の事、好きだったんですよね。
だから、良かったなぁ~って思って。」

「え?
え?
知ってたの?」

「はい。
凄く分かり易かったから。」
そりゃ~分かりますよ。
あれだけ佐々木先輩を見る目が違ってたら。

「え?
分かり易かったの?」

「はい。
だって、木村先輩が佐々木先輩を見る目が完全に恋してる目でしたから。」
袋詰めの手が止まり先輩を見ると耳まで真っ赤になっていた。
まさか、自分の想いが人に気付かれているとは思ってもいなかったのだろう。

「恥ずかしい…。」

「大丈夫ですよ。
私は応援してます。
想いが届いて良かったですね。」

「うん。
ありがとう。」
私も先輩も満面の笑みに変わった。
良かった。

そして、ユニホームを袋に詰め終わると部室を出てグラウンドに運んだ。

恋か~青春だなぁ。
全てがキラキラして見えるんだろうなぁ。
私も早く恋愛をして見たい。
でも、部室でキスして胸まで触られてするのはやだなぁ。
佐々木先輩も場所と時間は考えてあげて欲しかった。
女の子が他の誰かにそんな姿を見られたら傷つくよ。
説教をしてやりたい所だけど、見ていない事になってるから、それは無理だなぁ。

部活に勉強に恋愛に。
そんな思春期の甘い時間の中に私は居る。
世界が如何とか、魔族が如何とか。
どうでも良い気になってくる。
前世では経験できなかった家族との繋がり。
同級生や先輩達との繋がり。
自分の将来への夢。

前には無いものが今は満ち溢れている。
そういう意味では女神に感謝するべきかも知れない。
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