毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第五章 闇の王国編 闇の住人達

第三十六話 ザザルンの闇

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ザザルン王国の王、ゼフェルント。
若き日には「武王」と称され、戦場に立てば一騎当千の力を振るい、幾千の兵すら凌駕する無類の武闘家であった。
だが、今やその瞳には、かつての熱き闘志はなく、ただ冷ややかな闇が宿っている。

その王の間に、黒装束の男が片膝をついた。
暗殺部隊第一番隊隊長――メザウス。
王国の闇を担う者にして、全十三部隊を束ねる総指揮官でもある。

「陛下。
ヒルネスが何者かによって討たれました。
恐らく勇者、あるいはその連れの護衛の仕業かと。
勇者の身辺は常に監視しておりますが……どうやらこちらの目を察しているようで、目立った動きはありません。」

ゼフェルントは玉座からゆるりと立ち上がる。
その声は感情の欠片もなく、まるで冷たい石を擦り合わせたようだった。

「メザウス――。
勇者に、あれを試す良い機会ではないか。
国を滅ぼすほどの力……それが勇者に通じるかどうか、確かめてみよ。
勇者には女の連れがいたな。
女を捕らえて囮に使い、勇者を誘き寄せるのだ。
そこで“試す”。
もし勇者を殺せたなら……その時こそ、この世界に宣戦を布告する。」

王の黒く曇った瞳には、人の情も理もなかった。
ザザルン王国の光の裏で蠢く、深き闇。
それは十年前、ゼフェルント自らの命により組織された秘密部隊の存在である。
表向きの軍隊の裏で、諜報・暗殺を専門とする十三の部隊がひそかに動いていた。

その頂点に立つのが――今、王に謁見しているメザウス。
歴戦の剣豪や魔導師すら屠る無類の強者にして、王国の“影の刃”であった。


次の日から、ティアは生徒会の仕事をこなす生活が始まった。
放課後は決まって生徒会室に顔を出し、会長秘書としての任務を果たす。

その日も生徒会室を訪れると、役員たちは各々の業務に励んでいた。
ティアは会長席の隣に設置された自分の机に座り、会長へと声をかける。

「会長。私に何か仕事はありますか?」

「ああ、ちょうどよかった。これを頼むよ。」

そう言って、エルリン殿下は彼女の机にドンッと書類の山を置いた。

「……これを全部、チェックするんですか?」
驚くほどの量に、思わず声が漏れる。

するとすかさず、副会長レゼントが口を挟んだ。

「会長。
分かってはいましたが、それは本来殿下の仕事でしょう。
まさか楽をするためにティア嬢を秘書にしたのではありませんよね。」

不機嫌そうな視線を送る副会長に、エルリン殿下は飄々と笑って答える。

「いやいや、そんなつもりはないさ。
俺だってちゃんとやるよ。
ただ、ティア嬢が手伝ってくれると助かるなぁって思っただけだよ。」

ティアは改めて書類に目を通す。
学園内で活動する生徒たちが提出した申請書が大半で、魔道具の研究や使用許可に関するものが多い。
どうやら、この学園で何かをするには生徒会の承認が不可欠らしい。

真剣に読み進めるティアをよそに、エルリン殿下の視線がずっと私に注がれている。

「……会長。
そんなに見られると、少し恥ずかしいのですが。」

「いやあ、思わず見とれてしまってね。
それにしても、本当に完璧な美人だなぁって。
こんな子がクラスにいたら、男子たちは授業どころじゃなくなるだろうなぁ。」

「な、何をしみじみと……。
失礼ですよ、そんな言い方。」

すかさず副会長が突っ込む。

「会長。
観賞用の人形を連れているつもりではないでしょうね。
彼女は秘書であって、飾りではありません。
仕事をしてください。」

「おや、怒られてしまったな。
ははは……レゼント、お前、羨ましいだろ?」

「……。」

副会長は呆れ顔のまま、完全に無視を決め込んだ。

ティアが生徒会メンバーとなり、裏でロイスと連携を取る一方で、表の学園生活は騒がしさを増していた。
ロイスは思った以上に苦戦している。
自分が勇者であることはザザルン王国に知られているに違いない。
監視の目が至る所に光り、自由な行動が取れない。

「これほど監視されていては身動きが取れないな……。
ティアさんが殿下に近づいて探りは入れてくれてるからまだ助かるが、今はまだ目立った動きはできないか。」
そうつぶやいた

昼休み。
突如としてティアのクラスに生徒会長エルリン殿下と、副会長レゼントが姿を現した。

「きゃぁっ! 殿下よ!」
女子生徒たちが一斉に色めき立ち、教室が一瞬で華やいだ空気に包まれる。

「皆さん、こんにちは。
ティア・リブン嬢はいらっしゃいますか?」

その声に、集まっていた女子のひとりが慌てて呼びかける。

「ティア~! 殿下がお呼びよ!」

ティアも人だかりで、すぐに気付いた。
「な、なんでここに殿下が……」

少し困惑していると、隣の席のメリルが小声でささやく。

「ティア。
生徒会に入ったんでしょう? 
殿下とお仕事できるなんて、すごく羨ましいわ。」

「ああ……そうね……」
ティアの返事はどこか浮かない。

「ティア嬢~!」
人だかりの向こうから、殿下が満面の笑みで手を振ってきた。

「……殿下。
いったい何の御用でしょうか?」

「冷たいなぁ。
昼ご飯でも一緒にどうかと、レゼントが言うからさ。」

「はあ? 
殿下が誘いたいから、一緒に来てくれって私に頼んだんでしょうが。」
副会長が即座に訂正する。

「……あれ? そうだったかな?」

とぼける殿下。
ティアは冷ややかな視線を向け、心の中で深いため息をつく。
(何やってるの、この二人……。)

「殿下。
申し訳ありません。
私は親友のメリルと一緒に食事をする予定でしたので、またの機会に。」

「じゃあ、メリル嬢もご一緒にどうかな?」

「えっ、あ……いや、その……」
メリルは完全に固まってしまった。

「殿下。
もう行きましょう。
ティア嬢も“またの機会に”と仰っているのですから。」
副会長がきっぱりと取りなす。

「そうか……。
じゃあ、明日一緒に食べよう。」
そう言い残し、殿下は去っていった。

その直後、クラスの女子たちは一斉にティアへ詰め寄る。

「ティアさん! 
どうして殿下のお誘いを断ったの!?」
「もったいない!」
「私なら即答で行くのに!」

教室は大騒ぎ。
ティアは笑顔で受け流しつつも、心の中ではただただ憂鬱だった。
――放課後、生徒会室で殿下の顔を見るのが少し嫌になってきている。

その日の放課後。
ティアは憂鬱な気持ちを引きずりながら、生徒会室の扉を開いた。

――静かだ。

部屋の中にいたのはエルリン殿下ひとり。
いつもの役員たちの姿はどこにもない。

「……殿下。
お一人ですか?」

「ああ、待っていたよ。」

殿下はいつもと同じ微笑を浮かべていた。
けれど――何かがおかしい。

ティアの背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。
次の瞬間。

床の魔法陣が淡く光を放ち、紫色の鎖が四方から弾け飛ぶ。
「っ……!」
避ける間もなく両足を絡め取り、両手を背にねじり上げ、身体全体を締め上げていく。
力任せに引きずり倒され、ティアは床に膝をついた。

「なかなか良い絵姿だな。
気高いお嬢様が縛られるというのは。」
殿下が口にした声音は、これまでの朗らかさとは似ても似つかぬものだった。

「……あなた……誰?」

じり、と睨みつけるティア。
その瞬間、エルリンの輪郭がゆらりと揺らぎ、みるみるうちに姿を変えていった。
学園の王子然とした気品は跡形もなく、黒尽くめの衣装に身を包んだ異様な男の姿が現れる。

「殿下はどうしたの?」

「心配せずとも、生徒会役員と一緒に隣の部屋でぐっすり眠っているよ。」
男は不敵に笑った。
「私はザザルン王国暗殺部隊第一番隊隊長、メザウス。
……学園の生徒会室なら、お前の護衛どもも気づくまい。」

男はゆっくりとティアの前に腰を下ろし、顎を掴んで強引に顔を上げさせた。
「勇者を誘き寄せる餌になってもらう。」

「勇者を……? 
あなた、何をするつもり?」

「ほう、好奇心旺盛だな。
だが可愛い顔をして、随分と鋭い目をするじゃないか。」
ティアの睨みつける瞳に、メザウスは愉快そうに口角を上げた。

「さて、長居は無用だな。」

その言葉と共に、メザウスの手がティアの肩を押さえ――
次の瞬間、二人の姿は生徒会室から掻き消えていた。

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