突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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 たわんでいた眼差しをさっと冷めたものに変えてブラコスタを睥睨する。

「それで?贈り物とは」

 ぐっとブラコスタが声を詰まらせた。
 しかし気を取り直したように、パンパンと手を叩く。
 すると、ぞろぞろと二十人ほどの女達がブラコスタの横で膝をついた。
 だれもかれもが華やかな色合いの衣装を着て、装飾品で着飾っている。
 化粧を施された顔はみんな整っていた。
 全員が若い娘なことに、思わず尚里は自分の左手にある指輪へ右手を重ねた。
 まるでそれを守るように。
 そのことに気付き、馬鹿な事考えるなと自分を叱咤する。
 ただ、それでも手は左手から離せなかったけれど。

「これは?」

 絶対零度の声がルキアージュの唇から放たれた。
 しかしブラコスタは気にした風もなく、にやにやと笑っている。

「私が用意した妻になる花嫁候補達です。一晩過ごせばとりあえず花嫁としての資格ありとみなされますので、好きな娘をお召ください」
「花嫁候補?おかしなことを言う。私の花嫁は尚里だ。こんなくだらないものが贈り物だと?」
「いやあ、あなたのためですよ」

 ねばついた声に、ルキアージュがひとつまばたいた。

「花嫁は花嫁としての力が何もない。まして、男では子供ものぞめないときたものです。イシリスの力が途絶えるのは嘆かわしい事」
「私は血族に関係なく生まれている」

 切り捨てるルキアージュに、いやいやとブラコスタは肩をすくめて見せた。

「結婚した記憶があるのですから子供のすばらしさはわかっているでしょう?ぜひこの娘たちをお召しください。トゥルクロイドを渡すのは時期尚早かと思います」

 結婚。
 子供。
 そんな単語が出てくるたびに、尚里の胸がきしんでいる気がする。

「妻子を持ったことは確かにあるが義務で持ったにすぎない。尚里を見つけた以上、する義務もない」

 ぴしゃりとルキアージュが言い切る。
 ピリリとした空気に、しかし男は尚里を見やって目をにたつかせた。
 そして合図をするように視線を女達へ向けると、五人程がルキアージュの前に進み出る。
 嫌な予感がして尚里はちらとルキアージュを盗み見た。
 けれど冷めた眼差しは変わっていない。
 五人が頭を垂れる。
 顔を上げた時、真ん中にいたのは腰までのまっすぐな髪に長い睫毛の綺麗な女だった。
 滑らかな褐色の肌の上を赤い髪がサラサラと流れている。

「ニニーカも急に花嫁候補から外されたのでは納得できませんよ。何度かお召しになっているのですし、お気に入りなのでしょう?」
「またご寵愛くださいませ、イシリス」

 ブラコスタのねばついた声とニニーカと言われた二十代半ばの女の声に、ひゅっと尚里の喉が鳴った。

(花嫁候補なんていたんだ)

 思い至らなかった自分がおめでたく感じるくらい、ニニーカは外見も年頃もルキアージュにピッタリだった。

(それに寵愛って……)

 体を重ねたことがあるということだろう。
 尚里は指輪に重ねた右手に力を込めた。
 まるですがるように。

「ニニーカは私も目をかけていて」
「だまれ」

 パンッとシャンデリアの大きなクリスタル飾りが音を立てて壊れた。
 まるで狙ったようにブラコスタたちに降り注ぐのを、慌ててそれまで黙っていたピルケットが風を起こして人のいないスペースへと吹き飛ばした。
 彼もマナを使えるらしい。
 真っ青になっていたブラコスタがキッとルキアージュを睨みつける。
 けれどそんなことを気にしている余裕は今の尚里にはなかった。
 ルキアージュのために集められた女たちの中にはニニーカ以外にも体を重ねたり、花嫁候補だったりした人がいるのかもしれない。
 そう思うと、胸が気持ち悪くなって息を詰めてしまっていた。

「尚里様、顔色が悪い。休まれますか?」

 気遣わし気にピルケットが尚里の方へ近寄り声をかけた。
 さらにひそりと囁かれる。

「大丈夫、イシリスはあなただけですよ。服従と忠誠を示したでしょう」

 元気づけるような言葉に、尚里が礼を言おうと口を開きかけたが。

「第二王子ごときがしゃしゃりでるな!」

 ブラコスタが大声で恫喝した。
 びくりと尚里の肩がそのあまりの剣幕に跳ね上がる。

「わめくな。すみません尚里の体調に気付かなくて。部屋に戻りましょう」

 指輪にすがっていた右手をやんわりと取られ、尚里はルキアージュにエスコートされるままにホールを出た。
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