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案内されたホールは扉が開かれた瞬間、なんというか非現実的だった。
複雑な形から輝きを放つシャンデリア。
右側の方には楽団が滑らかな音階を耳に心地よく奏で、左を見れば長いテーブルに色とりどりの料理が並べられている。
室内は花と緻密な模様の描かれた天井や壁に囲まれていて、どこを見てもキラキラしている。
場違いなんじゃとひるんだ尚里だったけれど、きゅっと左手をルキアージュに握られて少しほっとした。
この体温に、何だかだんだん違和感を感じなくなっている気がしてしまう。
ホールに一歩足を踏み入れると、ザッと二対の目達が尚里を貫いた。
あれが、とか、まさかなどという声が聞こえてもくる。
ひえ、と口の中で悲鳴を上げてしまうと、握られていた手に力が込められた。
そのまま手を持ち上げられ、手の甲に唇を寄せられる。
その瞬間にざわわと周囲が一気に騒がしくなった。
けれどそれよりも、尚里は堂々と人前でも好意を隠さないルキアージュにドキリと胸が高鳴った。
(ドキッてなんだよ)
一瞬自分でも驚く反応に、考えを払おうと内心で首を振る。
(人前だからだ、きっとそうだ)
けれど周りはざわざわと先ほどの比ではないくらいにざわついている。
何でだろうとと思っていると、ピルケットがにこやかに笑って近づいてきた。
「尚里様、いらしていただきありがとうございます。イシリス、生誕おめでとうございます」
深々と頭を下げたピルケットに、慌てて尚里も頭を下げようとしたけれど聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「生誕……?」
「? ええ、今日はイシリスの誕生日を祝うパーティーなのですが……」
ピルケットが不思議そうに目をまばたくけれど、そんなことは気にしている場合ではなかった。
「誕生日なのか?」
「まあ、そうですね」
「言えよ!」
大きな声はまずいと思いひそめたけれど、それでも強い口調になってしまった。
「気にしたことがなかったので」
尚里の反応に、ルキアージュがわずかに眉を下げる。
しかし尚里にとっては一大事だ。
これだけさんざん世話になっているのだ。
誕生日が来訪と重なっていたのなら、日本で何かプレゼントを買ったのに。
といってもささやかな物しか無理だけれど。
教えてもらえなかったことに、なんとなく面白くなさを感じてしまう。
「イシリス、生誕の贈り物を用意しました」
新たな声にそちらを向くと、初めて王城に来た時に一瞬だけ顔を見た短髪に顎髭の男がいた。
誰だろうと思ったけれど、完全にルキアージュにしか目線が行っていないので、歓迎はされていないのだろうなと当たりをつける。
「まずは私の花嫁に名を名乗るのが先だろう」
男のににやにやとした顔が一瞬、ルキアージュの冷たい声に引きつった。
そしてどこか悔しそうな表情を瞳に乗せて、ようやく目線が尚里に向けられる。
「第一王子のブラコスタ・アルバナハルです」
第一王子という言葉にアクセントをつけた物言いだ。
「暁尚里です」
ぺこりと頭を下げるけれど、ブラコスタは下げる気配はない。
ルキアージュの視線に気付いて、慌てて小さく頭を下げてきた。
「それで、イシリスには生誕のプレゼントを用意したのですが……ああ、花嫁様のプレゼントが一番最初の方がいいでしょうな」
急に水を向けられて、尚里はぎくりと背中に緊張を走らせた。
「花嫁様はプレゼントは何を?よほど素晴らしいものをプレゼントするのでしょう?」
尚里はブラコスタの言葉に口ごもった。
プレゼントなんて用意していないどころか、たった今誕生日だと知ったのだから。
「あの、誕生日、知らなくて……」
「おや、花嫁ともあろうお方が!」
ことさら大きな声をブラコスタが出すと、小さくくすくすと笑う声がそこかしこから聞こえてくる。
カッと恥ずかしさで頬に朱が走った。
笑いものにされている自分をルキアージュに見られるのが嫌で、ホールを出ようと一歩後ずさる。
すると、ルキアージュが柔らかく微笑んだ。
「プレゼントならいただきましたよ、尚里」
身に覚えのない言葉に尚里が目を丸くする。
プレゼントなんて何も、と言いかけるとルキアージュが尚里に跪いて左手を取った。
「あなたに会えたことが何より一生の宝になりました」
トゥルクロイドの指輪にキスをされたあと、ルキアージュが左手の甲を額に押し当てる。
するとあのイシリスが!と悲鳴のような声が上がった。
この行為は忠誠と服従のポーズだ。
しかもマナを持つ者は額にマナが宿ると考えられており、触れられるのを嫌がるらしい。
「ば、ばか、こんなところで」
あわあわと観衆の眼差しに耐えられなくなった尚里に気付いて、もう一度今度は手の甲に唇を押し当てるとルキアージュは立ち上がった。
複雑な形から輝きを放つシャンデリア。
右側の方には楽団が滑らかな音階を耳に心地よく奏で、左を見れば長いテーブルに色とりどりの料理が並べられている。
室内は花と緻密な模様の描かれた天井や壁に囲まれていて、どこを見てもキラキラしている。
場違いなんじゃとひるんだ尚里だったけれど、きゅっと左手をルキアージュに握られて少しほっとした。
この体温に、何だかだんだん違和感を感じなくなっている気がしてしまう。
ホールに一歩足を踏み入れると、ザッと二対の目達が尚里を貫いた。
あれが、とか、まさかなどという声が聞こえてもくる。
ひえ、と口の中で悲鳴を上げてしまうと、握られていた手に力が込められた。
そのまま手を持ち上げられ、手の甲に唇を寄せられる。
その瞬間にざわわと周囲が一気に騒がしくなった。
けれどそれよりも、尚里は堂々と人前でも好意を隠さないルキアージュにドキリと胸が高鳴った。
(ドキッてなんだよ)
一瞬自分でも驚く反応に、考えを払おうと内心で首を振る。
(人前だからだ、きっとそうだ)
けれど周りはざわざわと先ほどの比ではないくらいにざわついている。
何でだろうとと思っていると、ピルケットがにこやかに笑って近づいてきた。
「尚里様、いらしていただきありがとうございます。イシリス、生誕おめでとうございます」
深々と頭を下げたピルケットに、慌てて尚里も頭を下げようとしたけれど聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「生誕……?」
「? ええ、今日はイシリスの誕生日を祝うパーティーなのですが……」
ピルケットが不思議そうに目をまばたくけれど、そんなことは気にしている場合ではなかった。
「誕生日なのか?」
「まあ、そうですね」
「言えよ!」
大きな声はまずいと思いひそめたけれど、それでも強い口調になってしまった。
「気にしたことがなかったので」
尚里の反応に、ルキアージュがわずかに眉を下げる。
しかし尚里にとっては一大事だ。
これだけさんざん世話になっているのだ。
誕生日が来訪と重なっていたのなら、日本で何かプレゼントを買ったのに。
といってもささやかな物しか無理だけれど。
教えてもらえなかったことに、なんとなく面白くなさを感じてしまう。
「イシリス、生誕の贈り物を用意しました」
新たな声にそちらを向くと、初めて王城に来た時に一瞬だけ顔を見た短髪に顎髭の男がいた。
誰だろうと思ったけれど、完全にルキアージュにしか目線が行っていないので、歓迎はされていないのだろうなと当たりをつける。
「まずは私の花嫁に名を名乗るのが先だろう」
男のににやにやとした顔が一瞬、ルキアージュの冷たい声に引きつった。
そしてどこか悔しそうな表情を瞳に乗せて、ようやく目線が尚里に向けられる。
「第一王子のブラコスタ・アルバナハルです」
第一王子という言葉にアクセントをつけた物言いだ。
「暁尚里です」
ぺこりと頭を下げるけれど、ブラコスタは下げる気配はない。
ルキアージュの視線に気付いて、慌てて小さく頭を下げてきた。
「それで、イシリスには生誕のプレゼントを用意したのですが……ああ、花嫁様のプレゼントが一番最初の方がいいでしょうな」
急に水を向けられて、尚里はぎくりと背中に緊張を走らせた。
「花嫁様はプレゼントは何を?よほど素晴らしいものをプレゼントするのでしょう?」
尚里はブラコスタの言葉に口ごもった。
プレゼントなんて用意していないどころか、たった今誕生日だと知ったのだから。
「あの、誕生日、知らなくて……」
「おや、花嫁ともあろうお方が!」
ことさら大きな声をブラコスタが出すと、小さくくすくすと笑う声がそこかしこから聞こえてくる。
カッと恥ずかしさで頬に朱が走った。
笑いものにされている自分をルキアージュに見られるのが嫌で、ホールを出ようと一歩後ずさる。
すると、ルキアージュが柔らかく微笑んだ。
「プレゼントならいただきましたよ、尚里」
身に覚えのない言葉に尚里が目を丸くする。
プレゼントなんて何も、と言いかけるとルキアージュが尚里に跪いて左手を取った。
「あなたに会えたことが何より一生の宝になりました」
トゥルクロイドの指輪にキスをされたあと、ルキアージュが左手の甲を額に押し当てる。
するとあのイシリスが!と悲鳴のような声が上がった。
この行為は忠誠と服従のポーズだ。
しかもマナを持つ者は額にマナが宿ると考えられており、触れられるのを嫌がるらしい。
「ば、ばか、こんなところで」
あわあわと観衆の眼差しに耐えられなくなった尚里に気付いて、もう一度今度は手の甲に唇を押し当てるとルキアージュは立ち上がった。
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