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次に目を開けたとき、尚里はどこかふわふわとした心地だった。
温かいものに包まれていると気づき、次いで目の前に完璧に整ったルキアージュの顔が目前で甘く微笑している。
「ふわっ」
思わず声が出た。
「おはようございます、尚里」
寝起きの少し掠れている声が、柔らかく挨拶をしてくる。
「おはよう」
なんでこんな間近に顔があるんだと思ったところで、きゅっと抱きしめられていることに気付いた。
慌てて腕のなかから出ようともがくと、ルキアージュが不思議そうに目をまばたいた。
「どうしました?」
「だ、抱きしめてる!」
「? ええ」
ますます不思議そうな顔をされる。
そんな平然としないでほしいと思いながら。
「離せよ」
ますますもがくと、腕の力が強くなった。
「どうしてですか?私に抱きしめられるのは嫌?」
「というか……恥ずかしい」
ルキアージュの疑問に、腕のなかから出ることが出来ないと気づいた尚里は、思わず両手で顔を覆った。
目の前に完璧な美丈夫の顔があるだけでも動揺するというのに、それが好きだと気づいたばかりの人間なのだ。
今さらと思われようが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
尚里はこういったことに慣れていないのだ。
「かわいい、尚里」
こめかみにキスをされて、ますます手を顔に押し付ける。
耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。
「もうひと眠りしますか?」
くすくすと笑うルキアージュの声に、手を顔に当てたままぶんぶんと首を振る。
こんな状態で眠れるわけがない。
よく昨日は眠れたなと我ながら関心してしまう。
「では朝食にしましょうか」
ようやく腕を離してくれたルキアージュに頷きながら、ベッドからのそのそと出る。
手を取られて扉へとエスコートされるのに、初めてでもないのに気恥ずかしさがたつ。
扉を開けてテーブルセットのある部屋へと向かうと、そこにはアーリンとリーヤがにこにこと笑顔で立っていた。
「おはようございます、イシリス、尚里様」
二人がいることに、尚里は思わず硬直した。
何でこの部屋にいることを知っているのか。
(一緒に寝てたのバレてるよなこれ!)
あうあうと、なんと言い訳しようと尚里が口を開閉していると。
「よく眠れたようですね」
アーリンがにこにこと笑う。
いやそんなことは、と口を開くより先に。
「こんなに熟睡したのは、初めてですよ」
ルキアージュがどこか嬉しそうに答えている。
それにおやと思う。
「熟睡って、不眠症かなにかなのか?」
思わずルキアージュを見上げると、彼は一瞬きょとんとしたあとに破顔した。
「違いますよ、眠りが浅いだけです。でも心配してくれてありがとうございます」
「でも、じゃあ俺と一緒じゃ寝付けなかっただろ」
隈がないかとルキアージュの顔を見上げると、何故か満ち足りているような満足気な顔で微笑まれた。
「熟睡したのは初めて、と言ったでしょう。尚里の体温や呼吸を感じているだけで、リラックスできました」
それはリラックスできているのだろうか。
思わず内心首を傾げる。
「さあさ、朝食の準備は整っています。どうぞ」
アーリンに促され、腑に落ちない気分でエスコートされるままにテーブルセットについた。
今朝の朝食はパンケーキだった。
まあるいきつね色のパンケーキが目の前に置かれ、ご自由にどうぞとフルーツの乗った皿や糖蜜の入った壺。
ベーコンやソーセージなどが並べられている。
しょっぱいのから攻めるか甘いのから攻めるかと、目の前の食事に浮足立ってしまう。
「いただきます」
尚里はまずはシンプルに食べようと糖蜜の壺を手に取って傾けた。
黄金色の蜜が月のようなパンケーキに染み込んでいく。
目の前のルキアージュは、分厚いベーコンを一緒に口に運んでいた。
朝から食欲旺盛である。
「本日ピルケット王子から尚里様へお茶のお誘いがきていますが、いかがいたしましょう」
リーヤの言葉に昨日のパーティーでの出来事を思い出す。
尚里の体調を気遣い、ルキアージュのことでも慮った言葉をくれた男だ。
「第二王子って言われてたっけ」
「彼ならかまいませんよ。野心家で才もありますが、分別もわきまえてる。私は残念ながら仕事がありますが」
「そうなんだ」
優雅な所作でいつのまにやら大量の食事を胃に収めてしまったルキアージュが、食後のお茶をこくりと飲む。
カップを花の形に模してあるソーサーへ戻すと、拗ねたように眉間に皺を寄せた。
「あなたを伴って帰国できるとわかっていたら、もっと休暇を確保したのに……」
「いいよ、無理しなくて」
子供のようなセリフに、思わず微笑ましいと笑ってしまう。
朝食を終えてルキアージュを見送ると、尚里もリーヤに先導されてピルケットとの約束の場所へと向かっていた。
温かいものに包まれていると気づき、次いで目の前に完璧に整ったルキアージュの顔が目前で甘く微笑している。
「ふわっ」
思わず声が出た。
「おはようございます、尚里」
寝起きの少し掠れている声が、柔らかく挨拶をしてくる。
「おはよう」
なんでこんな間近に顔があるんだと思ったところで、きゅっと抱きしめられていることに気付いた。
慌てて腕のなかから出ようともがくと、ルキアージュが不思議そうに目をまばたいた。
「どうしました?」
「だ、抱きしめてる!」
「? ええ」
ますます不思議そうな顔をされる。
そんな平然としないでほしいと思いながら。
「離せよ」
ますますもがくと、腕の力が強くなった。
「どうしてですか?私に抱きしめられるのは嫌?」
「というか……恥ずかしい」
ルキアージュの疑問に、腕のなかから出ることが出来ないと気づいた尚里は、思わず両手で顔を覆った。
目の前に完璧な美丈夫の顔があるだけでも動揺するというのに、それが好きだと気づいたばかりの人間なのだ。
今さらと思われようが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
尚里はこういったことに慣れていないのだ。
「かわいい、尚里」
こめかみにキスをされて、ますます手を顔に押し付ける。
耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。
「もうひと眠りしますか?」
くすくすと笑うルキアージュの声に、手を顔に当てたままぶんぶんと首を振る。
こんな状態で眠れるわけがない。
よく昨日は眠れたなと我ながら関心してしまう。
「では朝食にしましょうか」
ようやく腕を離してくれたルキアージュに頷きながら、ベッドからのそのそと出る。
手を取られて扉へとエスコートされるのに、初めてでもないのに気恥ずかしさがたつ。
扉を開けてテーブルセットのある部屋へと向かうと、そこにはアーリンとリーヤがにこにこと笑顔で立っていた。
「おはようございます、イシリス、尚里様」
二人がいることに、尚里は思わず硬直した。
何でこの部屋にいることを知っているのか。
(一緒に寝てたのバレてるよなこれ!)
あうあうと、なんと言い訳しようと尚里が口を開閉していると。
「よく眠れたようですね」
アーリンがにこにこと笑う。
いやそんなことは、と口を開くより先に。
「こんなに熟睡したのは、初めてですよ」
ルキアージュがどこか嬉しそうに答えている。
それにおやと思う。
「熟睡って、不眠症かなにかなのか?」
思わずルキアージュを見上げると、彼は一瞬きょとんとしたあとに破顔した。
「違いますよ、眠りが浅いだけです。でも心配してくれてありがとうございます」
「でも、じゃあ俺と一緒じゃ寝付けなかっただろ」
隈がないかとルキアージュの顔を見上げると、何故か満ち足りているような満足気な顔で微笑まれた。
「熟睡したのは初めて、と言ったでしょう。尚里の体温や呼吸を感じているだけで、リラックスできました」
それはリラックスできているのだろうか。
思わず内心首を傾げる。
「さあさ、朝食の準備は整っています。どうぞ」
アーリンに促され、腑に落ちない気分でエスコートされるままにテーブルセットについた。
今朝の朝食はパンケーキだった。
まあるいきつね色のパンケーキが目の前に置かれ、ご自由にどうぞとフルーツの乗った皿や糖蜜の入った壺。
ベーコンやソーセージなどが並べられている。
しょっぱいのから攻めるか甘いのから攻めるかと、目の前の食事に浮足立ってしまう。
「いただきます」
尚里はまずはシンプルに食べようと糖蜜の壺を手に取って傾けた。
黄金色の蜜が月のようなパンケーキに染み込んでいく。
目の前のルキアージュは、分厚いベーコンを一緒に口に運んでいた。
朝から食欲旺盛である。
「本日ピルケット王子から尚里様へお茶のお誘いがきていますが、いかがいたしましょう」
リーヤの言葉に昨日のパーティーでの出来事を思い出す。
尚里の体調を気遣い、ルキアージュのことでも慮った言葉をくれた男だ。
「第二王子って言われてたっけ」
「彼ならかまいませんよ。野心家で才もありますが、分別もわきまえてる。私は残念ながら仕事がありますが」
「そうなんだ」
優雅な所作でいつのまにやら大量の食事を胃に収めてしまったルキアージュが、食後のお茶をこくりと飲む。
カップを花の形に模してあるソーサーへ戻すと、拗ねたように眉間に皺を寄せた。
「あなたを伴って帰国できるとわかっていたら、もっと休暇を確保したのに……」
「いいよ、無理しなくて」
子供のようなセリフに、思わず微笑ましいと笑ってしまう。
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