突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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 帰ってからは、部屋でブレスレットを早速作り出した。
 細い紐で石をひとつずつ止め縛りながら繋いでると、アーリンが速足でやってきた。

「お帰りになりました」

 その言葉にわたわたとブレスレットをアーリンに渡し、少年が素早く壁にあるチェストの引き出しに隠してくれた。
 すぐに扉が開き、軍服姿のルキアージュが部屋に入ってくる。
 黒く将校らしい丈の長い上着は長身の彼によく似合っていて、仕事着だとわかっていても尚里は見惚れてしまった。

「戻りました」
「おかえり」

 ドキリと高鳴った胸を静まれ静まれと思いながら、平静を装う。
アーリンが部屋を出ていくのをちらりと見て、ルキアージュは口を開いた。

「街に行ったそうですね」
「うん、少しだけ」
「心配しました。双子がついているのは分かっていますが、一緒に行きたかった」

 本当に残念そうに言うので、何だか微笑ましく思ってしまう。

「何か買い物でもしたのですか?」

 何の気なしに聞いた言葉のようだったけれど、尚里はバレやしないかと今度は別の意味でドキドキした。

「カラフルなアイスを食べて散歩しただけだよ」

 ごまかしで口にしたけれど、実際プレゼントを探して歩き回り最後にアイスを食べたのは事実だ。

「尚里が楽しそうで、嬉しい」

 しんなりとたわむ青い瞳。
 ルキアージュが尚里の頬に手を伸ばそうとしたとき、扉の向こうからアーリンがノックと共に呼びかけた。

「どうした?」

 伸ばしかけていた手を下ろしルキアージュが問いかけると、アーリンは室内に入って困ったように眉をハの字にしていた。

「ブラコスタ王子がお見えなのですが、その……失礼します」

 尚里を気にしつつ、足早にルキアージュへぼそぼそと耳打ちする。
 次の瞬間、ピリッと空気が震えた。
 ルキアージュの瞳が先程までとは真逆の氷のように冷徹になっており、表情にはあきらかに不快だと書いてある。

「叩き返せ」

 端的な命令。
 その命令に、アーリンはほっとしたような表情ですぐにと踵を返して部屋を出て行った。

「もしかして、俺のことで何かあった?」

 アーリンが尚里を気にしていたから、自分に対して何かあったのかと思う。

「いえ、すみません。何でもありませんよ」
「本当か?誕生日も知らなかった、何であろうと他人から聞かされるのは嫌だからな」

 キッパリと言い切れば、ルキアージュが思案するように眉根を寄せた。
 彼にしては珍しく言いにくそうに、唇を開く。

「……私の本意ではありませんからね」
「うん」
「男をあてがってきました」

 ルキアージュの言葉に一瞬、頭が真っ白になった。

「それは……」
「男がいいのだろうと思ったのでしょう」

 ルキアージュは忌々しそうに眉根を寄せた。

「度し難い男だ。これ以上神経を逆なですれば、タダではおかない」
「俺を選んだからそんなことになったんだろ、ごめ」

 謝罪は最後まで口に出来なかった。
 長い人差し指が尚里の唇にやんわりと押し当てられて、喋ることを止められたからだ。

「男を選んだのではなく、あなたを選んだのです。コロコロと表情を変えて可愛らしいあなただから。それがわからない人間など捨ておいていい」
「でも」
「黙って」

 指を離されると、代わりに唇がしっとりと合わせられた。
 突然のそれに、尚里の頬がカッと熱を持つ。
 ゆるく下唇を吸われて、何度か啄まれる。

「んひゃっ」

 舌で唇をなぞられて思わず驚いた声を出したら、その隙間をくぐってルキアージュの薄い舌が侵入してきた。

「う、ん」

 ちゅく、と舌を絡めとられて舌先を吸われる。
 ばくばくと心臓が鳴りだし、尚里がルキアージュの軍服へ指先ですがると。

「んんっ」

 ルキアージュの指が首裏を引き寄せて、ますます口づけを深められた。
 それだけでもキャパオーバーだというのに、首裏に回っていた手が頸椎をなぞるように下へと降りていき、背中、腰と撫でて服の裾から指先が素肌に触れた。

「やめてくれ!」

 唇が離れた瞬間に悲鳴を上げると、ピタリとその不埒な手が止まった。

「すみません、性急すぎましたね」

 パッと体をルキアージュが離す。
 尚里は思わず濡れた唇を両手で覆った。

「心臓、破れそう」

 その言葉にルキアージュの瞳がたわむと、ひょいと抱き上げられた。

「ル、ルキ!」

 驚いて声を上げている間にソファーへとルキアージュが腰を降ろす。
 ルキアージュの膝に乗せられた尚里は、もじもじとどうすればいいのか視線を彷徨わせた。
 膝に乗せられたまま、落ち着かせるように抱きしめられ、ゆらゆらと体を小さく揺らされる。
 背中にまわされたルキアージュの手が、薄いシャツ越しに温かい。
 あやすようにゆらゆらと小さく体を揺らされると、だんだんと心地よくてドキドキしていた心臓も落ち着いてきた。

「人に抱きしめられるなんて、思ってなかった」

 家に居場所はなく、母親からの抱擁は幼過ぎて記憶にない。

(安心する)

 ゆらゆらとされていた体がぴたりと止まり、ルキアージュが顔を覗き込んできた。

「これから私がいくらでも抱きしめます」

 こめかみに唇を押し当てられて、またトクンと心臓が早鐘を打つ。
 そのまま頬を滑り唇に辿り着くのを阻止するように尚里はわずかに体を引いた。

「今日はもう駄目だ」
「聞きません。唇は拒むことは許さない」

 ちゅっと唇を吸われ、それでも譲歩してくれているのが、舌をさし込まれることはなかった。
 また心臓が早鐘を打ち出す。
 ルキアージュの唇に酔いながらも、尚里は彼に女や男を宛がわれているという事実が脳裏にこびりついていた。
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