突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

文字の大きさ
30 / 35

30

しおりを挟む
 帰ってからは、部屋でブレスレットを早速作り出した。
 細い紐で石をひとつずつ止め縛りながら繋いでると、アーリンが速足でやってきた。

「お帰りになりました」

 その言葉にわたわたとブレスレットをアーリンに渡し、少年が素早く壁にあるチェストの引き出しに隠してくれた。
 すぐに扉が開き、軍服姿のルキアージュが部屋に入ってくる。
 黒く将校らしい丈の長い上着は長身の彼によく似合っていて、仕事着だとわかっていても尚里は見惚れてしまった。

「戻りました」
「おかえり」

 ドキリと高鳴った胸を静まれ静まれと思いながら、平静を装う。
アーリンが部屋を出ていくのをちらりと見て、ルキアージュは口を開いた。

「街に行ったそうですね」
「うん、少しだけ」
「心配しました。双子がついているのは分かっていますが、一緒に行きたかった」

 本当に残念そうに言うので、何だか微笑ましく思ってしまう。

「何か買い物でもしたのですか?」

 何の気なしに聞いた言葉のようだったけれど、尚里はバレやしないかと今度は別の意味でドキドキした。

「カラフルなアイスを食べて散歩しただけだよ」

 ごまかしで口にしたけれど、実際プレゼントを探して歩き回り最後にアイスを食べたのは事実だ。

「尚里が楽しそうで、嬉しい」

 しんなりとたわむ青い瞳。
 ルキアージュが尚里の頬に手を伸ばそうとしたとき、扉の向こうからアーリンがノックと共に呼びかけた。

「どうした?」

 伸ばしかけていた手を下ろしルキアージュが問いかけると、アーリンは室内に入って困ったように眉をハの字にしていた。

「ブラコスタ王子がお見えなのですが、その……失礼します」

 尚里を気にしつつ、足早にルキアージュへぼそぼそと耳打ちする。
 次の瞬間、ピリッと空気が震えた。
 ルキアージュの瞳が先程までとは真逆の氷のように冷徹になっており、表情にはあきらかに不快だと書いてある。

「叩き返せ」

 端的な命令。
 その命令に、アーリンはほっとしたような表情ですぐにと踵を返して部屋を出て行った。

「もしかして、俺のことで何かあった?」

 アーリンが尚里を気にしていたから、自分に対して何かあったのかと思う。

「いえ、すみません。何でもありませんよ」
「本当か?誕生日も知らなかった、何であろうと他人から聞かされるのは嫌だからな」

 キッパリと言い切れば、ルキアージュが思案するように眉根を寄せた。
 彼にしては珍しく言いにくそうに、唇を開く。

「……私の本意ではありませんからね」
「うん」
「男をあてがってきました」

 ルキアージュの言葉に一瞬、頭が真っ白になった。

「それは……」
「男がいいのだろうと思ったのでしょう」

 ルキアージュは忌々しそうに眉根を寄せた。

「度し難い男だ。これ以上神経を逆なですれば、タダではおかない」
「俺を選んだからそんなことになったんだろ、ごめ」

 謝罪は最後まで口に出来なかった。
 長い人差し指が尚里の唇にやんわりと押し当てられて、喋ることを止められたからだ。

「男を選んだのではなく、あなたを選んだのです。コロコロと表情を変えて可愛らしいあなただから。それがわからない人間など捨ておいていい」
「でも」
「黙って」

 指を離されると、代わりに唇がしっとりと合わせられた。
 突然のそれに、尚里の頬がカッと熱を持つ。
 ゆるく下唇を吸われて、何度か啄まれる。

「んひゃっ」

 舌で唇をなぞられて思わず驚いた声を出したら、その隙間をくぐってルキアージュの薄い舌が侵入してきた。

「う、ん」

 ちゅく、と舌を絡めとられて舌先を吸われる。
 ばくばくと心臓が鳴りだし、尚里がルキアージュの軍服へ指先ですがると。

「んんっ」

 ルキアージュの指が首裏を引き寄せて、ますます口づけを深められた。
 それだけでもキャパオーバーだというのに、首裏に回っていた手が頸椎をなぞるように下へと降りていき、背中、腰と撫でて服の裾から指先が素肌に触れた。

「やめてくれ!」

 唇が離れた瞬間に悲鳴を上げると、ピタリとその不埒な手が止まった。

「すみません、性急すぎましたね」

 パッと体をルキアージュが離す。
 尚里は思わず濡れた唇を両手で覆った。

「心臓、破れそう」

 その言葉にルキアージュの瞳がたわむと、ひょいと抱き上げられた。

「ル、ルキ!」

 驚いて声を上げている間にソファーへとルキアージュが腰を降ろす。
 ルキアージュの膝に乗せられた尚里は、もじもじとどうすればいいのか視線を彷徨わせた。
 膝に乗せられたまま、落ち着かせるように抱きしめられ、ゆらゆらと体を小さく揺らされる。
 背中にまわされたルキアージュの手が、薄いシャツ越しに温かい。
 あやすようにゆらゆらと小さく体を揺らされると、だんだんと心地よくてドキドキしていた心臓も落ち着いてきた。

「人に抱きしめられるなんて、思ってなかった」

 家に居場所はなく、母親からの抱擁は幼過ぎて記憶にない。

(安心する)

 ゆらゆらとされていた体がぴたりと止まり、ルキアージュが顔を覗き込んできた。

「これから私がいくらでも抱きしめます」

 こめかみに唇を押し当てられて、またトクンと心臓が早鐘を打つ。
 そのまま頬を滑り唇に辿り着くのを阻止するように尚里はわずかに体を引いた。

「今日はもう駄目だ」
「聞きません。唇は拒むことは許さない」

 ちゅっと唇を吸われ、それでも譲歩してくれているのが、舌をさし込まれることはなかった。
 また心臓が早鐘を打ち出す。
 ルキアージュの唇に酔いながらも、尚里は彼に女や男を宛がわれているという事実が脳裏にこびりついていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

処理中です...