突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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朝になって双子が部屋に訪れたときに、とても心配されてしまったけれど。
朝食も断った。
いつも一緒に食べるルキアージュが仕事があると言って現れなかったのだ。
昨日の今日だ。
顔を合わせにくくて、少し尚里は安心した。
そして、そんな自分に嫌悪感が募る。
ソファーで寝不足顔でぼんやりと指輪を眺めていると、アーリンがリラックスが出来るからとハーブティーを持ってきてテーブルへと置いてくれた。
それにぼんやりと返事をして、ねえと呼びかける。

「どうしました?」
「これ、何で大事なものなのに俺に渡したままなんだろ」

 花嫁のものだと言っていたけれど、それでも国宝だと言っていた。

「イシリスから聞いていませんか?」
「花嫁の指輪って聞いた」

 はいとアーリンが頷く。

「花嫁を守るし、花嫁以外が手にすると黒ずむんだそうです」
「黒ずむって……俺が持っててもならないってことは、指輪に認められてるってことなのかな」

 そんな不思議なことがあるのだろうか。
 ぽつりと言った言葉はアーリンには聞こえなかったらしい。
 尚里は自分の中の鬱屈を吐き出すように深々と息を吐いた。

「よし!」

 パチパチと自分の両頬を叩く。

「尚里様?」
「ブレスレット仕上げる。出来上がったらルキに会いたいんだけど、できるかな?」

 真剣な気持ちには真剣に返せ。
 日本で黒崎に言われたではないか。

(まったくもってその通りだよな)

 だから伝えようと思った。
 ルキアージュが好きなこと。
 自分に自信がないこと。
 それでも傍にいたいこと。

「ではブレスレットが出来たら、イシリスをお茶に誘いましょう。きっと喜ばれますよ」
「そうだといいんだけど」
「絶対です」

 元気づけるアーリンに、苦笑を返して尚里は作りかけのブレスレットを持ってきてもらってそれを仕上げた。
一時間ほどで仕上がったブレスレットは、艶々と黒曜石が輝いている。
アーリンにお茶の準備を頼み、尚里は中庭のガゼポでルキアージュを待つことにした。
テーブルの上には焼き菓子が並べられている。
アーリンはお茶の準備に席を外していた。
尚里はブレスレットがズボンのポケットにあることを確認して、控えているリーヤへと声をかけた。

「仕事が大丈夫そうならルキを呼んできてくれないかな」
「しかし俺が傍を離れるのは……」

 他に召使はいないので、尚里が一人になってしまう。
 リーヤは眉を寄せてしぶった。

「アーリンもすぐ来るよ。早く渡したいんだ、お願い」

 頭を下げられては断れず、リーヤは後ろ髪を引かれながらもその場を後にした。
 そして予想どおりにアーリンがワゴンを押してお茶を運んできた。

「あれ?リーヤは」

 護衛なのに尚里を一人にするなんてと憤るアーリンに、自分が無理を言ったのだと宥めていた時だ。
 ザッと風が吹いたかと思うと、アーリンに体当たりをされた。
 なんだと思っていると、ガゼポのテーブルに裂いたような跡が残っている。
焼き菓子や食器が無残に粉々になっていた。
 今の風が切り裂いたのだと認識したのと、アーリンにテーブルの下へ押し込まれたのは同時だった。

「何者だ!」

 現れたのは顔の下半分を黒い布で隠した男達、八人だった。
 それぞれ刃物を手に持っているけれど、今のはマナを操った風だったのだろう。
先頭にいた一人が右手をこちらに向けると、再びかまいたちのような風が襲い掛かる。
思わず目を閉じたけれど、自分の前にアーリンがいることを思い出して。

「アーリン!」

 恐怖を感じながらも無理矢理に目を開いた。
 そこにはアーリンが水を操って壁を作っていた。
 そういえばアーリンもマナが使えると聞いたことを思い出す。
 それでも八人も周りにいるのだ。
 他の男が火の矢を飛ばして水の壁を蒸発させていく。
じりじりとアーリンが後退しながら、マナの猛攻撃を防いでいるとその合間を縫ってナイフを持った男が切りかかった。

「尚里様!」

 マナの攻撃に足を止められるアーリンが油断した刹那、少年の額を風が切り裂いた。

「アーリン!」

 思わずテーブルの下から這い出て名前を叫ぶ。
 その刹那、首筋をナイフの柄でしたたかに打ち据えられた。
 痛みと遠のく意識の中、アーリンが名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
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