突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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温かい感触に意識を浮上させると、視界のなかでルキアージュが尚里の首元を優しくタオルで拭っていることに気付いた。

「ルキ?」
「目が覚めましたか?」

 パチパチとまばたいた。
尚里は自分だけが裸で、ズボンにシャツを引っかけただけのルキアージュが自分の体を拭いているのだと気づいた。

「わあっ!」

 慌てて起き上がろうとして、下半身の違和感と痛みに枕に撃沈した。

「まだ三時間ほどしかたっていませんよ。眠ってください」
「いやいや、自分の体くらい自分で拭くから!」

 言って気づいた。
 ぐちゃぐちゃだった下半身もさっぱりしていて、すでに清められたあとだということに。

「体は拭き終わりました。水を飲みますか?」
「うん」

 頷くとレモンの香りのする水を渡された。
 サイドテーブルにレモンの輪切りの入った水差しや、お湯の入ったボウルなどが置かれている。

「ルキが用意してくれたの?」
「いいえ、アーリンです」

 ぶふぉっと思わず水を吹き出しかけた。
 慌ててルキアージュが裸の背中をさする。

「もうアーリンの顔見れない……」
「こうなることはわかっているでしょう。外ならぬ尚里が相談したのですから」
「そうだけど、そうだけどさー……」

 それとこれとは違うのだと落ち込んでも、ルキアージュはわからないと言うように首を捻っている。

「お、起きよう!いつまでもここにいたら出た時に気まずい」
「それはかまいませんが、起きれますか?」

 もちろんと答えて、結局足の間の違和感でまっすぐに立てなかった。
 ルキアージュに服の着替えを手伝ってもらい、腰をささえられて部屋を出る。
 ソファーなどのある部屋に入ると。

「どうも」

 テーブルセットでピルケットがお茶を飲んでいた。
 あわわわと尚里が真っ青になったのと、ルキアージュが眉根を寄せたのは同時だった。

「何をしに来たのです」
「報告ですよ」

 にこやかにピルケットが笑う。
 ルキアージュが尚里をエスコートしてイスに座らせると、すかさずアーリンが背中に厚めのクッシュンを入れてくれた。
 キラキラしい笑顔に、自分から相談を持ち掛けておいてなんだが、恥ずかしさで埋まりたい。
ルキアージュもテーブルにつくと、お茶の準備がされた。

「それで?」
「ニニーカは実家は地位剥奪、財産差し押さえ、本人は最南端の修道院に移送されます。ブラコスタは同じく地位剥奪、財産差し押さえに留学という名目で国外追放が妥当かと」
「よろしい」

 あまりにも罰が重すぎるのではないだろうかと尚里は口を開きかけて、ピルケットとルキアージュの目がすでに終わったこととして処理されていることに気付いた。
 思うところはあるけれど、まだアルバナハルの国民でもない尚里が口を出して言い領分ではないだろう。

「父も一度戻るそうです」
「父って、王様?」
「ええ、ぜひ尚里様とお会いしたいと」

 そんなことを言われて、尚里は王様なんて人と会って大丈夫だろうか。
 粗相とかしないだろうかと意識をぐるぐるさせていると。

「結婚式の準備も始めなくてはいけません」

ルキアージュが口元に笑みを刷くと、ピルケットがわざとらしく明るい声を出した。

「いやあ、丸くおさまって何より」
「あー……はは」

 どちらかと言えばひっかきまわされただけのような気もする尚里。
 ちらりとピルケットを見ると、本音なのか建て前なのか、憎まれ役を買って出てよかった。
 なんて言っている。

「邸宅を建てる準備はすでに出来ているでしょうね」
「ええ、イシリスの指示通りに」

 飛び出した単語に、尚里は遠い目になった。

(やっぱり建てるんだ)

 尚里的には今のように客間を借りているだけで充分なのだが。

「もうこちらに滞在されるのでしょう。永住権の手続きは済ませておきますよ」

 ピルケットの言葉にそうかと思う。

(もうずっとこの国にいることになるのか)

 日本を離れることに心残りはあるかと言われれば、正直ない。
 不安は確かにあるけれど。
 ちらりとルキアージュを盗み見れば、機嫌がいいのは一目でわかる。
 それが、尚里との結婚や生活についての話をしているせいだと、少しはうぬぼれてもいいだろう。
 その顔を見たら、何だか異国の地でも大丈夫だと思えるから不思議だった。

「あ、一度は日本に帰らないと、アパートとか」
「我々がやっておきますよ」

 ピルケットがあっけらかんと答えたけれど、そこまで世話になるのは気が引けた。

「荷物の整理もあるし、自分でやるよ」
「では来週あたり、日本に行きましょうか」

 ルキアージュが何てことないように口にした。

「一緒にくるの?」
「当然です」

 当然なのだろうかと内心、首を捻ってしまう。

「仕事は?」

 忙しいのではないだろうかと尋ねると。

「どうとでもなります」
「それは私に皺寄せがくる感じではないですか?」

 ピルケットが尋ねると。

「わかっているではないですか」

 堂々と仕事を押し付ける発言だ。

「まあ焚きつけた自覚はありますし、イシリスと花嫁のためです。わかりましたよ」

 苦笑いでピルケットが頷く。
 それに、いいのかなあとルキアージュを見やれば、青い瞳がしんなりと愛を込めて尚里を見つめる。
その眼差しと左手にある指輪が、混じり気のない青い光りで輝いていた。


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