かくりよの花嫁は溺愛される

やらぎはら響

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朝になって制服を持ってやってきた圭介は、理斗の元気のなさに何か言いたそうだったけれど、視線をそらしていたら何も聞かれなかった。
学校での昼休み。
いつも通りに昼食を中庭で広げていると、春がぼんやりしている理斗の目前で手を振った。

「今日ぼーっとしてるけど、何かあった?」

 春をのろのろと見る。
 春も花嫁と言われている。
 秋人とは仲がよさそうに見えた。

「遠伊様も朝なんかピリピリしてたけど、パーティーで問題でもあった?」

 圭介にも問いかけられて、理斗は眉を下げるしかなかった。

「あの、さ」

 どうしようか悩んで、理斗は重々しく口を開いた。

「春は、霊力目当ての花嫁だって言われて、何とも思わない?」
「霊力目当て?」

 春が不思議そうに首を傾げた。

「花嫁は相手のあやかしの妖力を増幅させて強い子共を産むから価値があるって」
「え!それ初耳なんだけど」

 春が素っ頓狂な声を上げた。

「あれ、知らなかったの?」

 圭介が意外そうに眉を上げる。

「秋人の奴黙ってたな!」

しまった、喧嘩の原因を作ったかもしれない。
思わず眉を下げてしまった理斗に、圭介がまあまあと春を落ち着かせる。

「あやかしのあいだじゃ常識だから、説明忘れてたんじゃない?」

 圭介の言葉にハルが鼻を鳴らす。

「なるほど、確かにそれなら霊力目当てだな」
「うん……」

 二人で頷きあうと、待って待ってと圭介が割り込んできた。

「誤解だから。霊力目当てで花嫁を後生大事になんてしないから!」
「でもさっきの説明だと妖力強くして子供産めばいいだけだろ?」

 春の言い分に圭介が深く息を吐く。

「極端なこと言えば、それが目当てなら誘拐監禁して用済みになったらポイだよ。わざわざ大事にして愛なんて囁かない。あやかしにとって花嫁は唯一無二だよ」

 思わず理斗は春と顔を見合わせてしまった。
 確かに遠伊には面倒しかかけていない。
 霊力目当てでもデメリットだらけだろうし、圭介の言う通りやろうと思えば花嫁の意思などあやかしなら無視してしまえる。
 春もそう思ったのか、何ともいえない顔をしていた。

「そもそもあやかしはプライド高いんだよ。力が強ければ強いだけその傾向が強い。そんなのがわざわざ跪いて愛を乞うんだよ?霊力目当てでそこまでしない。二人とも大事にされてるでしょ?」

 確かに大事にされている。
 そう思ったところで、昨夜のことを思い出した。
 乱暴にシャワーを浴びせられ首筋に噛みつかれたことを。
 思わず顔を赤くした理斗に、春が覗き込んできた。

「あれ?なんか無理矢理されたの?」
「され、されてないよ!」

 思わずどもってしまった。

「キスすらしてないよ」

 ぷいと顔をそむけると、圭介がそりゃそうだよと頷いた。

「あやかし同士ならともかく、人間には影響が出るからね」
「影響?」
「寿命に影響が出るんだよ。花嫁は特に顕著だから、慎重になるもんだよ」

 キスひとつでそんなものがあるとは。
 理斗が目を丸くしていると、春がげっそりした顔で呟いた。

「だからあいつ、しつこいくらいキスしてくるのに口にはしないのか」

 どうやら秋人は愛情表現が情熱的らしい。
 けれどそこではたと気づく。
 自分も口以外にはキスをされまくっていた。
 とんだブーメランに頬が赤くなってしまう。
 見れば春も頬を染めていた。

「まあ唇くっつける程度なら大丈夫だけどさ」

 もう圭介の説明に何も返せなかった。
 理斗の視線に気づいた春が、こほんとわざとらしく咳をする。

「じゃあとにかく霊力目当ての線は消えたってことだ。理斗もさ、それが引っかかってたんだろ?」

 引っかかっていた部分は確かにそれだ。
 小さく頷くと。

「それって霊力目当てじゃ嫌だってことだろ。好きだってことじゃん」

率直な意見を言われて、これ以上ないくらい理斗の顔は赤くなった。
春に指摘されたことは、図星だと気づいてしまったからだ。
狼狽えていると、圭介にポンと肩を叩かれた。

「それ、遠伊様に伝えたら喜ぶよ」
「……そうかな」

 自信なさげに呟くと、二人揃って大きく頷かれた。
 それを後押しに伝えてもいいのだろうかと、ほんの少し心が傾く。
 家に帰って顔を合わせたら、言えるだろうか。
 昼食が終わって教室に帰るために廊下を歩いていると、角を曲がったところで人とぶつかった。

「すみま」

 謝りかけた言葉が尻すぼみになる。
 ぶつかった相手は輝子だった。

「あんた!」

 眉を上げた輝子に理斗が一歩後ずさる。
 こんなところで怒鳴られたくはないなと思ったけれど、輝子は圭介を視界に入れてサッと顔色を変えた。
 そのまま何も言わずに勢いよく背中を向けて、速足で歩き去って行く。

「なんだあれ」

 肩透かしな反応に、春が輝子の背中をうろんげに見やった。
 理斗もいつもと違う反応にどうしたのだろうと首をひねる。

「ああ、大丈夫。もう近づかないよ」

 二人の反応に、圭介があっさりとした口調で言った。
 前回炎で脅したからだろうかと思いながら、近づいてこないならそれに越したことはないと小さく安堵した。
 そして放課後、いつものように圭介と車に乗り込むと邸までの道筋ではないことに気付いた。
 あれと思い圭介を見ると肩をすくめて見せる。

「遠伊様のところまでご案内だよ。兄貴から機嫌が悪すぎるって連絡きてるんだ。あの人感情を表に出さないから、よっぽどピリピリしてるんだよ」
「……行ってもいいのかな」

 怒らせたのにと思う。
 膝に置いた自分の手をぎゅっと握りしめた。

「いいに決まってる。ついでに自分の気持ち伝えておいでよ」
「ええ!」
「遠伊様も口数少ないからね。すれ違ってるだけだと思うよ、ちゃんと話してみなって」

 励ますように笑う圭介に、少しの沈黙のあとうんと理斗は頷いた。
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