涙に溺れた秘密【百合】

やらぎはら響

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涙に溺れた秘密

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そんなこと無理ってわかってる。
でも、思うだけなら自由でしょう?



「妊娠したんだ」
何のへんてつもない五人組の女子会。
唐突に口を開いたのは私の親友あきな。
途端、この店のどこよりもかしましいテーブルに変貌した。
「えーあきな、おめでとう」
「おめでとう。今の彼氏だよね?」
「つか出来婚かよ。いいなぁ~」
「ありがとうー」
祝福されるあきなは頬を染めてくふくふと口元を緩めている。
どんぐりみたいに丸い目が一度も口を開けずにいた私へと注がれた。
「ともえは?おめでとうって言ってくれないの?」
冗談まじりに笑う親友は、見たことがないほどの笑顔で笑う。
「いや、おめでとう。でもいいの?出来婚なんて」
後悔する日が来るんじゃない?
希望を隠した本音は口に出来なかった。
「なに言ってるの。今は授かり婚って言うのよ」
「どうせ結婚決まってたんだし、ダブルでめでたいじゃん」
私のほの暗い気持ちなんておかまいなしに、周りは祝福ムードになっていく。
愛想笑いで頬がつりそう。
小学校三年間。
中学校三年間。
高校三年間。
大学も今もーーー。
ずっと好きだった。
でも言えなかった。
関係が壊れるくらいなら、優しくて理解ある親友になろう。
そう決めてたのに。
「あきなの彼氏ずっと子供欲しいって言ってたもんね」
「そうなんだよー結婚と同時に欲しいとか、隙あらば狙ってきて大変だったぁ」
「そのわりに顔が笑ってるぞ~」
「そりゃあ、おめでたいことだもん。ねえ?ともえ」
「そう、そうだね。おめでたいことなんだから…」
笑うあきなが直視出来ない。
結婚すると聞いたときに、とうとう来たかと思った。
当たり前に彼氏がいて、当たり前に結婚して。
それが普通なんだって言いきかせて。
花嫁姿を見る覚悟を決めた。
花嫁になったからって、あきなが変わる訳じゃない。
でも子供は別だ。
そりゃいつかは覚悟しなきゃと思ってたけど。
今じゃない。
そんなに一気に耐えられない。
子供を産んだら女は変わる。
子供を産んだら、立ってる世界が変わってしまう。
遠くなる。
「男と女どっち欲しい?」
「え?そうだな~」
楽しそうにはしゃぐ声が、ガラス一枚隔てたみたいに遠く聞こえる。
子供が産まれるなんて、誰もが祝福することなのに、心からおめでとうを言えない私は、人として何かが欠けてるんだろうか。
そんなことも出来ない自分が嫌になる。
賑やかに話す輪にも入れない。
泣きそうな目に力を入れて、ひたすら笑顔を貫いた。
無理だとも人でなしともわかってるけど、今だけは思わせて。



女を孕ませられる男なんて、みんな死んでしまえばいいのに。

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