暖炉が好きなシンデレラ

ねね

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20 シンデレラは逃げ帰る

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 ゴーン……ゴーン……ゴーン……。

(えっ。いま時計が十二回鳴った?)

 昨夜もその前も、真夜中が来る前にはカボチャが迎えに来てくれておりました。

 だから今夜もそうなのだろうと、シンデレラは思っていたわけで。

 つまり彼女は盛大に油断していたのです。

 まだ、カボチャが来ていないのに。広間の時計の針は既にピタリと十二を指しています。

(ぎゃあああ、時計見て考え事すれば良かったーー!)

 シンデレラは飛び上がりました。

 右、左、右、後ろ、前。
 ーーーカボチャなし。

 そして時間切れです。シンデレラにかけられた魔法が、みるみるとけていきます。

 ウェディングドレスは、濃い灰色のお仕着せに。髪はあっさりしたひとつ結びに。

 そして背がぐんと伸びて、王子さまより頭が上に。

 王子さまは、ポカーンとシンデレラを眺めていました。

「あれ、こんなに背が高かったっけ?」

 シンデレラも首をひねります。

 よく見るとガラスの厚底ブーツのみ、なぜか元の靴に戻っておりません。ブーツは厚底はそのままにサイズが大きくなっていたのでした。

 これは……魔法がとける前とは別の意味で、まずい格好でしょう。

(思いきりフツーの服じゃん。日常的というか生々しすぎる!舞踏会の会場に合わないよーー!!)

 早急に退散しなければ。

 シンデレラはするっと屈むと、目を見開いて固まった王子さまにキスをしました。

 ふにっと唇に。

(うーん。これは少し卑怯かな。)

 ………男性はイヤだと思ってもコレくらいで大騒ぎができません。いわば弱い立場であるわけで。シンデレラとしても多少は良心に咎めます。

 でも、下手をするともう会えなくなるのですよ。シンデレラはちょっとくらい記念が欲しいのでした。

「ええと、それではまた。」

 シンデレラはクルッと後ろを向くと、フリーズした王子さまを置いて脱兎の如く走り去りました。

 カボチャがいない以上、おのれの足で移動するしかなかったのです。

☆ ☆ ☆

「は、走りにくいっ……!」

 さすが厚底。これは全力疾走に向きません。まるで竹馬でスキップしている気分です。

 シンデレラは早々にブーツを脱ぎ去り、腕に靴を抱えて会場の隅を走り抜けました。

 ツルツルの床にもめげず、トップスピードで大階段を転げ降りて暗いお庭へ。

 しかし。

 外に出たので靴を履こうとしたところ、ブーツが片方ありません。

(え。途中で落としてきた!?)

 それでも会場に戻るのはちょっと……。いい加減、不審者として捕まりそうな気がします。

 まごまごしていると、丸い黒目とバチっと目が合いました。

 お庭の茂みから出てきたのは、虎のような大きさの青いネズミ。ネズミはシンデレラの前にうずくまると、“乗ってちょうだい”と態度で促しました。

 これはどうみても魔法のネズミです。偉い魔女は、カボチャにきちんと補欠をつけてくれていたのでしょう。

 シンデレラはありがたくネズミに跨がり、この日も無事、お屋敷に戻ることができたのでした。

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