暖炉が好きなシンデレラ

ねね

文字の大きさ
28 / 29

27 忘れ物

しおりを挟む
「あー、片付いた。」

 腰を伸ばして息をつくシンデレラ。

 何が片付いたのかと言いますと、引っ越し先の部屋の掃除が済んだのです。

 荷物はまだ箱の中。気付けば時刻はお昼を過ぎています。

(今日で全部荷をほどくのは、きついなー。
 急がないやつは、もう明日かな。)

 そう考えて箒を置いたところ。新居に最初のお客が訪れました。

 コココココココココッコッコッッ。

 ………この、やたら気ぜわしいノック音は。偉い魔女のお出ましです。

☆ ☆ ☆

「あんたが元いた家から、餞別をもぎ取ってきてやったよ。」

 そう言って、魔女は大きな袋を床に下ろしました。

 一番に袋から転がり出たのはカボチャです。カボチャは蔓をにゅーっと伸ばすとシンデレラに葉を振ります。

「台所で新しいやつを貰って来たのさ。ここは庭がないから、腹が減ったら私のところに来させよう。普段は屋根に置いときな。」

「おおおっ!」

 これはとっても嬉しいです。魔法のカボチャは素晴らしい足になるでしょう。

 屋根の上の巨大カボチャはちと目立ちますが、まあそれも自然の景観……と、言えないこともない、ですしね。

「ありがとうございます!」

「礼には早いよ、贈り物はまだあるんだ。」

 次に袋から頭を出したのは、ネズミが二匹。ネズミも袋を這い出すと、たちまち虎のサイズに変わりました。

「こっちは家の番になる。エサは自分で取るから放っといて良いよ。」

「おおおおっっ!」

 よく分かりませんが、なんだか強そうです。ネズミも巨大になると違いますね。

 最後に、魔女は袋を逆さに掴むと暖炉に向かって大きく振りました。

 ええ、この部屋にはちゃんと暖炉があります。そして袋から出て暖炉に吸い込まれて行ったのは。

 ほんの一掴みの、灰でした。

「これは………?」

「あんたのねぐらの灰だよ。枕が変わると寝づらい日もあるだろうと思ってね。」

「あ、地味に嬉しい。」

 たいへん残念ながら、シンデレラは感動しました。

 これは長年の愛着と申しますか。いや灰なんて毎日、新しくなっているモノなのですけどね。何と言うか、馴染んだものが側にあるとホッとするのです。

 自分で持って来ても良かったのですが。引っ越しのバタバタの中で、灰を持って来ることまでは思い至りませんでした。

(あると、こんなに嬉しいのに。……魔女が気付いてくれて良かった……。)

 危うく、忘れ物をするところでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...