毒が効くまで長すぎる

ねね

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5 人間同士の争い

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 風が強い。夜の荒れ地はよく冷える。

 人間の生け贄をもらった後、すぐに辺りは暗くなった。

 あ、私は召喚されたのだから、もちろん生け贄をもらった立場だよ。

 食べられないけどね!いろんな意味で。

 談笑している少年たちは、野宿するつもりなのだろうか。何処かへ帰る気配がない。

 え、なんで私がまだここにいるのかって?

 社会勉強です。私ってば、この世界に関して全くの世間知らずだもの。

 相手は子供たちとは言え、人間様だ。眺めていれば、自ずと社会の一端が見られるだろう。

 お食事とか、暮らしぶりとかさ~。
 うん、情報は大事だよね。

 そうして空から様子を伺っていると、その場に新たな人物が現れた。

 ヒゲを伸ばした中年のおっさんで、人数は1人。暗い色の服を着ている。

 彼は岩陰から出てくると、茂みに身を隠しながら接近して来た。

 少年たちは気が付いていないが、空にいる私からは丸見えだ。夜の闇も、闇の森育ちの私には何の目隠しにもならない。

 やがておっさんは立ち止まると、大声でこちらに呼びかけた。

 《そこの子供たち》

 《私は国選の調停者だ。君たちは無許可で魔物を召喚し、殺人の罪を犯した。法に従い、裁きを受けてくれ。》

 これはまた、お仕事っぽい喋り方だこと。

 何を言っているのかはわからないけど、この少年たちとは他人なんだろうな。

 《ふん、中央の犬か。お前たちの法など、ここで何の意味がある?叔父さんを殺した犯人も捕まえられなかったくせに!》

 《俺たちは、自分の身は自分で守る!犬はすっこめ!》

 《そうだそうだー!》

 突然の声にビビりながらも、反抗期ぽく応える少年たち。

 言葉が聞き取れなくても空気はわかる。これは苦労するぞ、おっさん。

 おっさんは無言で鞭を構えた。さっさと実力行使するつもりのようだ。

 鞭は幅広で、茶色の煙がぐるぐる周りを囲んでいる。魔法の武器であるっぽい。

 ふむふむ、これは武器を見せての牽制か?

 話しかけてからここまで、おっさんの行動はとても事務的だ。

 さてはお仕事による取り締まり?

 ははあ、少年たちの行動は、やっぱりどこか危うい一線を越えていたんだろう。

 だけどこの子たち、考えなしで物騒だよ?
 3対1とかおっさん自信家~。

 と思いきや。意外にも、少年たちの方が焦りだしている。人数差があるのに。

 《おい、お前ら時間を稼げ。》

 《わかった!》

 少年たちのうち1人が、爆速の狼たちのもとへと駆ける。残った2人は前に出た。

 ひょろ長い方の少年が口の前に手を構える。そのままフッと息を吐くと、光の礫が幾つも飛んだ。

 小柄な方の少年は、さっき囚人の首を切った刃を構えて、おっさんに飛びかかっていく。

 礫と切り込みの二重攻撃である。
 礫は上から、切り込みは横から攻める。

 しかしおっさんは鞭を振り回し、礫も特攻も寄せ着けない。

 お、光の礫が岩に突き刺さった。
 アレは鋭いわ。

 光る刃物の方も、かなり切れ味良かったと思うんだけど。

 あの鞭、どっちもアッサリ弾いてるよ。性能いいな~。

 変わりばえのない攻撃が続く。おっさんは崩れない。

 やや経つと、まずひょろ長い少年の息が上がり始めた。

 魔法って体力使うもんなの?走り回ってる小柄な子より先にへばるってどうよ……。

 そんな仲間をチラリと見て、小柄な少年が大きく踏み込む。

 しかし、そこへ真正面に鞭が入った。

 あーあ、吹っ飛ばされちゃってさ。
 受け身もダメっぽい、痛そう。

 この子ら、戦闘力はいまいちだなあ。

 何と言うか、戦うよりつるむスキルはありそうなのに。さっきの連携攻撃も、仲間にあたっちゃいなかった。

 弱くて、集団でーーええと格好よく言えば組織的にーーしか戦えそうにない連中。ある意味すごく人間らしいのかな。

 おっさんは、この手の少年たちに対処できると判断して、1人で出てきたわけか。

 う~ん、慣れてる感じするなあ。
 この世界って不良少年が多いのかね?

 これは、嬉しくない情報だぞ。

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