毒が効くまで長すぎる

ねね

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7 操り人形

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 時間がない。さてどうするか。

 爆速の狼は鼻が効く。岩陰の青年にも気付いているだろう。

 少年たちに命令されれば、彼を始末しに来てしまう。

 この青年には和ませてもらったし、私としても本日7人目のスプラッタは遠慮したい。

 どうしよう。どうすればいい?

 焦って辺りを見回すと、首のない囚人の死体が目に入った。

 ええい、アレだ、アレしかない!

 私はすっ飛んで死体の中に飛び込んだ。

 爆速の狼が5匹とも、首で私を追いかける。アテレコすると「ん?」って感じ。可愛い連中だ。

 じゃあなくて。
 悪いな。君らのおやつは、私がもらうよ。

 死体の内側からガンガン気圧(?)をかけて、死んだ体を持ち上げる。

 死体がひょいと持ち上がる。あ、地に足がついてない。

 《なっ、何だ!?》

 《どうした、レド!》

 《気を付けろ!そこに何かいる!》

 手ぇ動くかな?あ、空ぶった。
 もう一度、うおっ危ない!

 腕、千切れそう。つーか手枷が千切れた。

 力み過ぎだ。力を抜いて。

 そろーっと、自分が入った死体の手で、隣にある別の死体を持ち上げる。

 はいオッケー。物が持てれば大丈夫。

 最低限の練習、終了!さあいくぞ!

 私は、首なし死体に入ったまま、ヒュッと空を飛んで岩陰にもどった。

 《ぎゃあああああ!》

 《うわあああああ!》

 《し、死体が、死体が飛んだ!!!》

 やかましい奴らだな。

 青年は、物も言わずに私を見つめている。

 は~い、びっくりしてるとこ悪いけど、もっとびっくりしてもらうからね~。

 私は青年を抱え込み、まっすぐ空に飛び上がる。一気に50メートルくらい、上へ。

 爆速の狼は、爆速だけど低空飛行なのだ。

 せいぜい10メートルくらいの高さでしか飛んでいるのを見たことがないし、口から吐く熱線にだってリーチってものがある。

 距離を取るのは、お手軽だけど有効な対策。
 これでこの子は安全だ。

 余裕を持って下を見ると、真っ青になって腰を抜かした3人の少年たちが見えた。

 あいつら、いい顔だな。

 ふふん、よ~く覚えておけ。
 魔物で遊ぶのは、とっても危ないのだよ!

 爆速の狼たちはこっちをまる無視で、おっさんの血だまりに集って肉をあさっている。

 腕の中の青年が、はっと息を飲んだ。

 《先生!そんな……。》

 素朴な声である。呆然とした響きもある。

 首なし死体に抱っこされ、その胸中で何を考えているのやら。

 後で聞いて見よう。あ、私言葉わからないんだった。ショック~。

 まあ、いいか。ともかく今は、さっさとここを離れるぞ。

 風上へ、君が安全なところまで。

 君がいるからスピードは出せないけれど、爆速の狼たちはきっと追って来ないだろう。

 奴らに命令する立場の少年が、腰を抜かしてしまっているからね。

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