毒が効くまで長すぎる

ねね

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10 お誘い

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 「俺は、先生のことを領主に報告して、両家の話し合いを見届けようと思うんだが。

 良かったら、あなたも来ないか。特に予定は無いんだろう?」

 おお、可愛い子に誘われちゃったよ。

 君、本当に正気?
 こちとら死体に巣くう魔物なんだけれど。

 「私は問題ないよ。でも、君は私のこと怖くないの?」

 青年は据わった目でニッと笑った。

 「どんな理由であるにせよ、あなたは一度、俺の命を助けてくれた。

 言葉も通じるし、すぐに危害を加えられるとは思えない。」

 「むしろ危ないのは、人間だ。この館には明日から、"赤熊"と"白鳩"の主だった者が集まる。

 話し合いと言っても平和なものじゃないだろう。何しろ双方とも、あわよくば相手に一矢報いるために出て来るだけなんだからな。

 俺は立回りは得意じゃない。流れ弾に当たることもあり得る。

 出来れば一緒に来て、俺を助けて欲しい。」

 まあ。率直なお申し出ですね~。

 そういうのは嫌いじゃないよ。お姉さんは頼られると嬉しくなるからね。

 「わかった。それじゃ私もお邪魔するよ。」

 「ありがとう。俺はサルマだ。あなたの名前は?」

 「私はアズサだよ。よろしく、サルマ。」

 「よろしく。」

 わーい。人間の連れが出来たぞ。

 夜中に館を訪れるのはまずいということで、その夜は館の脇で野宿となった。

 この館に入るには、やっぱり、上から縄で引っ張り上げてもらうしかないらしい。

 だから館の者が寝ている夜に入って来るのは不自然なんだってさ。

 「なんでこんな不便なお館を建てたの?」

 「ここは、領主が普段住んでるところじゃない。元は隠者の館で、それをご領主が買ったんだ。

 外界からは切り離された場所だけど、"赤熊"と"白鳩"の話し合いにはちょうど良い。

 ここなら、外からお互いの手の者が乱入して殺し合う展開は避けられるだろ?」

 なるほどね。しかし血の気の多い奴らだな。

 そんで、空を飛んで来ましたと正直に言わないってことは、サルマは私の素性を誤魔化すつもりなんだろう。
 
 まあね。魔物の被害が酷いって話をする席に当の魔物が参加してたんじゃ、話がカオスになるもんね。

 私としては正体をバラして、どうなるか見てみたい気もするけれど。ここはお行儀よくサルマの仕切りを尊重しておこう。

 一発、君のストーリーで踊ってやるよ。
 面白いことになるといいな~。

 「アズサは俺の仲間で、外国の魔術師だってことにする。」

 「私は魔術とか知らないよ?」

 「見習いだって言えばいい。ともかく、魔術師でもないのに呪語が喋れるのは不自然だ。」

 「呪語?」

 「今、喋ってる言葉のこと。知能の高い魔物が話す言葉なんだ。」

 ほー、そんなものがあるのね。誰に習った訳でもないのに私にわかるこの言葉。不思議だな。

 「サルマは魔術師なの?」

 「俺は薬学が専門だ。魔術もかじってみたけど、適性が無かった。

 だから専ら薬を作るしか出来ない。」

 「魔術の適性があったら、魔術師になりたかった?」

 「ああ。ここが地元だからな。争いから自分たちを守れる力くらい、欲しかったさ。

 もう寝よう。明日はきっときつい……。」

 はい、おやすみなさい。

 サルマは人間だから、眠らないとね。私は朝までどうしよう。

 その辺の草でもかじって、この体の消化機能を動かす練習をしておくか。

 生きてる人間のフリって、人間じゃない者には案外大変なんだよな。

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