毒が効くまで長すぎる

ねね

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16 手足の痺れ

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 翌朝、顔合わせをしたのと同じ場所で話し合いが始まった。

 話し合いは開始早々、異変あり。

 どうやら"白鳩"側のメンバーが、お家に帰りたくなったらしい。

 当主代理もあっさり乗っかって、"白鳩"たちは引き揚げモードに突入。

 これもハトの帰巣本能なんだろうか。

 それを領主の左右に控えるおじさん達が引き留めて、さっきからずっと揉めている。

 《調停者がいない以上、我々がここにいる意味はない。帰ります。》

 《お待ち下さい!領主の許可なくここを立ち去ることは許されません!》

 《そうです。魔物の被害を抑える為に、我々が話し合いをしなくては。いずれ"白鳩"の家にも被害が出るかもしれないんですよ!》

 うーん、何を喋っているんだろうなー。

 言葉も解らないまま眺めていると、サルマが状況を説明してくれた。

 「先生が亡くなったことを伝えたら、"白鳩"側が、話にならない、帰ると言い出したんだ。

 今のところ、魔物の被害は"赤熊"寄りの集落に偏ってる。"白鳩"にとっては他人事なんだろう。」

 「ふうん。」

 サルマの声が大分低い。ご機嫌斜めであるようだ。

 まあ、仕方ないか。村1つ潰れているのに、鳩さんのこの態度はちょっと冷たいよな。

 話は揉め続け、やがて"赤熊"側からもヤジが飛び始めた。

 《こいつらは賊だ、犯罪者だ!我々の家族を狙って魔物を放っている!》

 《何を根拠も無いことをー!》

 ええと、よくわからないけれど。

 「随分、白熱した話し合いだね?」

 「いや、議題に入れてもいないから。」

 あ~、そんな気はしてた。

 何にせよ、全力で怒鳴っている間はろくに暴力も振るえないだろう。声が見せ場だなんて、言ってしまえば平和なものだ。

 では好きに怒鳴りあいたまえ、諸君。

 私とサルマは昨日と同じく、壁際にひっそり立っていた。この位置からは広間全体がよく見える。

 向かって右に"白鳩"。左に"赤熊"。
 正面にご領主。

 全員立ち上がり、床には放置されたクッションがバラバラと散らばる。

 …あれで寝床を作って居眠りしたら、流石に目立つだろうな。

 そんなことを考えていると、広間で怒鳴りあっていた連中が、何人かポツポツと座り始めた。

 えっ。気持ちはわかるけどさ。
 怒鳴りながらダルくなるとか、器用だね?

 広間の空気は一気に冷えて行き。
 いつしか辺りは静かになった。

 ふむ。深刻そうだな。

 「何かあったの?」

 「足が痺れたらしい。」

 フツーに立ってただけで?
 そしてこの空気は何なんだ。

 私のわかっていない様子を察してか、サルマがさらに説明してくれた。

 「麻痺魔法が使われたかもしれない。」

 おや、麻痺魔法!なるほど。

 いかにも便利に攻撃できそうな魔法だ。それで、ちょっと使われただけでも緊迫した訳ね。

 試しに自分の手の指を動かし、その場で足踏みをしてみる。どちらも感覚に異常なし。

 「私は平気だよ。サルマは痺れてる?」

 「今のところ大丈夫。」

 ふむ。座りこんだのは、赤熊と白鳩がそれぞれ1~2名。領主たち3名、私たちと並んで立ってる兵士が4名か。

 中央付近の被害が酷いけど。
 まあ部屋中、満遍なくやられているな。

 あれ?おかしくない?
 誰だよ、これやったの。

 満遍なく麻痺させたい人なんて、この場にいるの?

 戸惑っているのは皆も同じであるようだ。誰もが盛んに目線を動かしながら、口をつぐんでいる。

 そんな中、サルマが私にぽつりと呟いた。

 「おかしい。」

 おや。出会って数日、彼は大概な状況を経てきたと思うのだが。

 こんな自信なさそうな顔をするのは、初めて見るな。

 何も言わずに顔を見詰めて先を促すと、サルマは一段と声を落としてこう言った。

 「結界の両側に影響が出ているのに、結界に異常がない。麻痺が出る前後で、魔法の光も見られなかった。

 これは麻痺魔法じゃなくて、ただの毒かもしれない。」

 彼の目は、自分の右手の手首に巻いた真っ黒い紐を見詰めていた。

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