毒が効くまで長すぎる

ねね

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17 嘔吐

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 参加者の体に謎の麻痺が出たことで、話し合いは一旦中断された。

 サルマによると、調査が終わるまで、私たちは部屋で待機を命じられたそうだ。

 確かに不気味ではある。
 狙いも、誰の仕業なのかもよくわからない。

 おまけに時間が経つにつれ、痺れが出る人の数は右肩上がりの有り様だ。

 それでも、自力で歩けないような人はいないのに。この対応は、何か大袈裟な気もするな。

 よろよろと歩く熊さんたちの後ろから、私とサルマも部屋へと歩く。

 私たち2人とも、足取りに異常はない。

 「アズサ、ちょっと待って。台所に寄って、お昼ご飯をもらって行こう。」

 「は~い。」

 "赤熊"たちの後ろを離れ、台所へ向かう。

 昨日、私とサルマは台所でご飯を頂いた。

 ここの下働きの人は少ない。台所で食事を作るのは、例の人力エレベーターを引き揚げていた2人組だ。

 私がこの体の消化器をゆっくりとしか動かせないせいで、昨日は結局、食事に2時間近くもかかったんだっけ。

 なかなか食器が片付かず、おじさんたちに悪いことをしたな。

 《こんにちは。…?》

 サルマに続いて台所に入ると、そこには誰もいなかった。

 「どうしたのかな?」

 もうすぐお昼時なのに、食事の支度がされていない。

 サルマは、早足で台所を飛び出した。私も、すぐ後ろから着いていく。

 なんとなく、今、サルマを1人で行かせるのは危ないと思った。

 廊下を進み、角を3つ曲がると。

 下働きのおじさん2人が廊下に倒れていた。
 ご両人とも、盛大に吐いている。

 ええと、これは、不味くないか?

 2人とも意識はあった。サルマが屈んで話し掛ければ、ぼそぼそと応えがある。

 《水はどこですか?水を飲んだ方が良い。》

 《………台所の、奥の、部屋に……瓶に、入ってる。》

 ぱっと立ち上がって引き返すサルマに続いて、私も台所に戻る。

 「アズサ、鍋とコップ取ってきて…水は、これか?」

 水瓶を覗きこむと、サルマは固まった。

 「あれ?ほとんど入ってないね。」

 水瓶は空に近い。そういえば、周りの棚もガランとして、物が無いような。

 つまり食べ物が、台所に見当たらない。

 水を持たないまま、サルマは再び廊下に駆け出した。

 《水が足りません。井戸はありますか?》

 《……ない。毎日、下から、引っ張り揚げて、いるんだ……。今日は、手が滑って……、荷を、落として、しまった。》

 《次の荷物が届くのは?》

 《明日の…午前中……。》

 何て言ってるんだろう。ああ、でも、台所に物がない理由は察しがついてしまったな。

 このおじさんたちがいないと、下から物資を引き揚げる人がいないよね?

 もしかしてこのお館は、即席の陸の孤島になってしまったのではなかろうか。

 あの領主、もう迷惑上司でいいや。なにが外からの襲撃を防ぐだよ。

 ここ、不便すぎ!
 これじゃ有事の際に、助けも呼べないじゃないか。

 サルマはぼんやりした顔で立ち上がり、私に付いてこいと促した。

 2人で、誰もいない台所に戻る。
 お館の中が、やけに静かに感じられた。

 「明日になるまで水がない?」

 「そう。彼らは沢山、吐いていたから…脱水症になるかもしれない。」

 「あー、井戸の場所とか教えてくれたら、私が汲んでくるよ?」

 昼間だから、空飛ぶ女の目撃者が出そうだけど。それくらい、たいして問題ないでしょ。

 夜中に空飛んだ首なし死体に比べればね。

 それなのに。

 サルマの返事は、予想外のものだった。

 「それはダメだ。井戸が汚染されたら、絶対にまずい。」

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