冥界の愛

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ホウレン草(報告連絡相談)は、おいしいのよ

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 ヘルメスのホウレン草



 コレーの暢気な寝言を聞いて吹き出した瞬間からこっち、気がつくと地上のデーメテールの野原だった。

(  あいつ!このオレを叩き出しやがったな! )

まぁ、冥界の王に向かって『あいつ』は無い。よほど腹が立ったんだろう。お互いに。

座り込んでいたヘルメスは、ヨッと掛け声と共に立ち上がり
( まずはアポロンのとこに行くかな )と考えていた。
冥界と地上では時間の流れが異なる。少し冥界過ごしたつもりが地上に戻ると浦島太郎の様だ。あれは海中海底の世界からの帰還の話だが。
辺りを見回したヘルメスはあまり変わっていない冬の様子に舌打ちする。

( あのおばさん、何サボってるだよ。こっちは働いてきてやったのに )

この様子では、まずデーメテールにコレーの無事を伝えた方が良いのかと思案しているところに



「  ご苦労様ヘルメス。コレーは大丈夫そうだった?まぁ兄さんのとこにいるのなら間違いないと思うけど。」

そう声がかかり振り返る。


気配を消してらっしゃる?誰に見つかりたくないのか?デーメテールか?
いや、きっとあの鬼嫁にだな。またデーメテールの為に!って機嫌悪くなるものな。
振り返ったヘルメスは天界の王のゼウスに傅いた。

「 こんな所で失礼いたします。」
とヘルメスが言うと、

「 こんな所で悪かったわね ここは私の庭よ」

ゼウスの背後から豊穣の女神デーメテールが姿を見せた。

これは別々であちこちにと報告に行く手間が省けたと思った。
が、あのハデスの過保護すぎる様子をそうまるでコレーを囲っている様な結界を、デーメテールにそのまま報告するのは問題じゃないのかと少し考える。

それが待てない様子で、デーメテールが詰め寄ってくる。


「 ねえ、それでコレーはいたの?無事なの?なんで連れ帰ってくれなかったの?
ちょっと! 」

ヘルメスの首根っこを掴んでグラグラと揺さぶる。
ここの姉妹は本気で手が出るから。美人姉妹じゃなく凶暴姉妹だよな。



ゼウスが焦るデーメテールを抑えてヘルメスを開放してくれる。その後ここで話してもいいですか?と、目で確認を取るとゼウスがスッと辺りに結界を張る。これで盗み耳されない。

「 ご報告致します。
コレー様は確かに冥界にいらっしゃいました。地上に咲いてる界渡りの花に、お役目柄 力を使ってしまい冥界にお渡りになってしまわれた様です。そのおり、その花の作用で一時的に記憶喪失になる様に作られているそうで、コレー様も記憶に混乱が生じてるようでした。ご自分の名前もお忘れになっている様子らしいです。」

ここまで一気に話すと、心配そうに聞いていたデーメテールがハッと声を上げる。よろめいたデーメテールを背後のゼウスがそっと肩を抱きしめている。

結界張ってて良かったよ、こんなとこあの鬼嫁に見つかったらまた、一騒動だぜって思いながら
デーメテールの愚痴や心配は後で聞くとして先を続ける様に目配せされた。

「 ですから、記憶が混乱してしたままで、地上に戻す際の忘却の術を使ってしまっては、地上に戻って来た後も記憶に障害が残ったり、悪くすると人格に問題が生じてしまう危険性があるとの事です。その為しばらく冥界で元に戻るまで様子を見るとの仰せでした。
今、強引に連れ帰るのでなく記憶が戻ってから、冥界に行った時のように界渡りの花の力でお帰りになるのが一番 お体に負担がかからない様だとおっしゃられました。今から界渡りの花に回復する術を行い、全てが元に戻ったら冥界での記憶を消去して送り届けるとお約束頂きました。
元々は界渡りの花の所為でもあり、冥界の王も地上に戻すこと自体には何も弊害は無いような仰りようでしたが、」

そこまで話して少し言い渋るヘルメスを見て、ゼウスが眉を顰める。
( 何か問題があったのか?後で聞いた方がいいか?) と声に出さずにやりとり始めると、デーメテールがキッと背後のゼウスを睨んだ。


「 コレーは私の娘よ!私が聞いて不味い事でもあるの? 教えてくれないのなら、ここでの仕事を全て辞めて冥界に迎えに行くわよ!」

そうデーメテールが脅して来る。って言うか、おばさんこの地上の様子でちゃんとお仕事してたの?生えてる草なんかも微妙なんだけど。ジトーって責める様に生えている小さな草を見ていたヘルメスに向かってデーメテールは言った。


「 これは今度、新しく作られた寒い季節でもできる草で、ホウレン草って言うの。とっても美味しいのよ♪ 」


別れ際に聞いたコレーの「おいしいね~」を思い出す。食いしん坊は母親似だなぁ

デーメテールがちゃんと仕事していたアピールを聞いて話す事を決意した。

「 コレー様には冥界の方々も、それはそれは手厚くもてなされておりまして大事にされておりました。
しかし、だからこそ私は面会も許されませんでした。
ここで私が冥界まで迎えに来た事を地上で思い出さない様にとのご配慮でした。
冥界で初めての舟で冥府宮まで移動された様で随分と向こうの方とも慕われたご様子でしたよ。
私が訪れた折はコレー様はおやすみになっており、お元気そうで眠ってらっしゃる気配だけ確認させて頂きました。
そのお部屋も随分と頑丈な結界で守られておりました。間違っても悪意を持ってコレー様が傷つけられるような事はないと思います。」


そう報告したが
やはり、二人には伝わってしまう。
お二人とも何を心配されているのかを。
黙ったままさっきよりも顔色が悪くなったデーメテール様に伝えた方が良いのか迷っていたが、
ゼウスがヘルメスに尋ねた。

「 兄さんは何て言ってたの? 」
 
それはここで言っても良いのと事だよね?と確認しながらヘルメスは答える。

「 冥界の王は、『ゼウスには、しばらく預かるが大事にもてなすから心配するなと 伝えてくれ。』と仰せでした。」


ゼウスがデーメテールの震える肩を抱いて安心する様に少し力を入れる。

「 大丈夫!兄さんがそう言うならきっと帰って来るよ。兄さんが約束を破った事は一度もないだろ?」

そうゼウスが言い聞かせると、反対にデーメテールは泣き出しそうな顔をする。



「 そうね、ハデスは約束を破らない。約束を守らないのはいつも私の方だわね 」

だから、そんな心配しなくちゃいけなくなる。

もしかしたら、ひょっとすると、




『  私の身代わりにコレーを取られるんじゃないかと  』



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