冥界の愛

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私の声は届きません。

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 三柱とも、とりあえず解散!


 ヘルメスから報告を受けて、それぞれの心に影を落としたのだが。

 とりあえず。

ゼウスは、天界へと帰って行った。いつまでも、姿をくらませていては妻ヘラーがまた誤解するかもと、ヘルメスに言われて溜息を吐きながら帰った。

 ヘルメスも、デーメテールに気を使い  「 また冥界に様子を見に行きますよ 」と言ってくれてから、アポロンの元に向かった。

 デーメテールは、まだ気持ちの整理がつかなくて いつも落ち込んだ時に向かう森の湖に向かった。




=○


 ここは、あれからまるで何も無かったかの様に時が止まってる。

深い森の中でも急に木が少なくなり開けて、キラキラと差し込む光に湖面は輝いている。
鳥の囀りが時折り聞かれ、羽ばたく羽音が静かさを際立たせている。

 デーメテールは、いつもの岩に腰を降ろした。





 幼い私達は、ハデスとデーメテール

いつもここで二人で座ってお喋りをしたわ。いいえ、喋っていたのは私だけね。ハデスはいつも黙って聞いてくれてた。

『 私達、これからも一緒にいようね 』

私の この素敵な場所を見つけたことが嬉しくて言った言葉に、ハデスはほんのすこーしだけ微笑んで頷いてくれた。
でもその後はずっと黙ったままキラキラの湖面を見つめながら考え込んでいた。


ねぇ あの時、何を考えていたの?

やっぱり弟のゼウスだけが、母に働かされている事を気にしていたの?

ハデスは最後まで、ゼウスにだけクロノスと戦わせて自分達を救ってくれた事を気にしていたものね。

でも、その後の大戦では誰よりも危険な戦いで自ら危険な所に行ったわ。
いつも先陣切って傷だらけで、休みなく戦っていた。
何度ゼウスをかばって毒矢を受けたか。剣の前では盾になったことか。
 何よりハデスの圧倒的な力が無ければ数の差で私達が負けてしまうのは必然だったわ。
 オリュンポスの勝利は間違いなくハデスの力よ。
 あの後皆の見る目が変わったでしょう?やはり父王クロノスを倒す宿命の子はハデスだったのだと、本来は凄まじい力だと、皆、あなたを恐れ始めた。

誰にそんなに罪の意識を持っていたの?
母に言われてクロノスに毒を飲ませたゼウスに弟だけ戦わせて悪いと思っていたの?
 私は、アレは本当に私達を救う為の毒だったのかと、疑ってさえいたわ。
だって毒によって苦しんだのはクロノスだけでは無かったでしょう?私達も命懸けの脱出だったよね?


それに、生まれてすぐの赤ん坊の時の事よ。私たちに何ができたと言うの?
ハデスに罪は無いわ。悪いのはクロノスであってそれを選択したのは母レアよ。

私が怒り狂って大地を荒らしたのも、あの母レアの仕打ちを理解したからよ。
本当は母と言うのも凄く嫌だわ。
でも、レアがいなければオリュンポスの神々も成り立たないし、あの大戦の勝利もなかった。何よりクロノスから救ってくれたのがあの母レアだと、そう感謝をしろと、皆彼女の前で傅く。



 かつてと変わらず、キラキラと輝いている景色だが、今では湖面を幸せそうに笑いあって集っていたニンフ達の姿は見られない。




ますます 沈み込んだデーメテールには森に入れずに外から呼びかけるニンフの声は届かなかった。



「 デーメテール様! ダメですよ。それ以上落ち込んだら。また吹雪になってますよ~ 」

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