冥界の愛

例外

　システムとして
　転生前に記憶が残ってはいけないからと、地上に再び帰れる事が決まった転生前の死者とは、冥界に住む者たちは、もう接触を出来るだけ避ける様になってる。

　もちろん、この冥界でやり直してる間のお手伝いはこの冥界の者がしている。いわゆる地獄の修行だな。
　でもそれ以外の修行なんて必要ないもの、修行の段階が終わったもの、既に転生するために忘れ水を飲んだもの、などには冥界に住む者達を目に映らない様にしてる筈だ。それは人であろうと、地上や天上に戻る神であろうと。あのゼウスの使者として冥界にやって来たヘルメスでさえ、冥界での行動制限を受けいれていた。

　例外は、ただあのお嬢さん、ペルセフォネ様だけだった。
　一緒にここに来て、この景色を見て、この景色の中で微笑むハデス様に見惚れない訳はないと思うんだな。

　それ、デートでしょ？
　あのお嬢さんが、地上の様子で落ち込んでいるからと散歩に連れ出すと言って。全く。そんな事すれば、必ず、惚れてしまう。何もわかってないのは主だけだろう。









♪～♪～♪～♪～♪～♪～♪～♪～





　うっすらと輝くエリュシオンの野原でのハデス様とペルセフォネ様のデートの絵画。
古い寂れたどこかヨーロッパの古城の天上から、偶然見つかる。
　何を誰を描いたものなのか、画家のサインも不明で価値がある物ではなかった。
しばらくは、そのまま借金と同じに流れていたが、ある老齢なご婦人が「面影が亡くなった旦那様に似ている」と購入され、ご家庭の暖炉の上の壁に飾られ長く大切にされていた。幼い孫たちの中には、成長して画家を志す者もいており、祖母の大切な絵を世話になっている画商に、その絵画の写真を見せた。


　祖母が亡くなり、その絵は自称将来有望な画家の孫が、「これだけは私が欲しい」と遺産として譲り受けた。
　誰も住まなくなった祖母の家の暖炉が取り壊される事になり、画商が是非にと美術館に飾られる事になった。

　多くいた孫たちが、その美術館に恋人や配偶者を連れて行き、祖母の家での幸せの思い出を、この絵の前で、「こんな風に愛される愛し合う様になりたい」と願っていたと告白した。孫の中には、この絵の前でプロポーズを受けた者がいて、そのエピソードが有名になり、しばらくはデートスポットになったりもした。




♪～♪～♪～♪～


　『ねぇ？　ハデス様。何か不思議な夢をみたわ。私達がキューピッドになってるの。可笑しな夢でしょ？』

　甘えるペルセフォネに向ける表情は、地獄の王とは信じられない穏やかな顔をしていた。