アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女

StarFox

文字の大きさ
38 / 64
第ニ章 中核都市エンクホイゼン

第三十八話 素顔

しおりを挟む
 ラインハルトの命令に従って、帝国四魔将が孤児院の正門を守っている。

 アキックス伯爵、ヒマジン伯爵、エリシス伯爵、その副官のリリー、ナナシ伯爵の五人であった。

 アキックスが口を開く。

「もう此処は私とヒマジンで十分だろう。奴等のナイフやダガーでは、陛下に傷一つ付けられないだろうが、万が一ということもある。他の者は陛下の傍に」

「・・・承知」

 ナナシはそう答えるとラインハルトの方へ歩いていく。

「じゃ、イケメンさん達、後は任せたわよ。行くわよ。リリー」

「はい」

 エリシスは被っていた銀仮面を外し、アキックスとヒマジンに投げキッスすると、リリーを連れてラインハルトの方へ歩いていく。





 手下を半分近く失ったジェファーソンは焦燥感を募らせていた。

 ジェファーソンの孤児院襲撃計画では、ジカイラ達の存在は『想定外』であった。

 ジェファーソンが口を開く。

「何なんだ!? あいつらは!! 尋常な強さではないぞ!? 孤児院が軍隊を雇ったのか?」

 チンピラが答える。

「門の前の連中は、帝国軍の軍服を着てましたぜ」

 ジェファーソンが呟く。

「・・・帝国軍か。よし!」

 そう言うと、ジェファーソンは、ジカイラ達の前に出て精一杯の虚勢を張り、大声で話し掛ける。

「お前ら、なかなかやるじゃないか! 孤児院に雇われているのだろう! なら、こっちはその倍の金額を出す! こっち側に就け!!」

 ジカイラが乾いた笑い声を上げる。

「むはははは。オレ達を買収するつもりか? 無駄だと思うね」

 ジェファーソンがいきり立つ。

「何だと!!」

 ジカイラとラインハルトは、無言で互いに目線を合わせると、頷く。

 ラインハルトは、銀仮面を外して素顔を見せると静かに名乗る。

「私は、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。『アスカニアの癌』であるお前達、麻薬組織『ジェファーソン・シンジケート』に即時死刑を宣告する」

 ラインハルトが銀仮面を外したため、他の者達も付けていた銀仮面を外す。

 驚愕したジェファーソンが呟く。

「こ、皇帝・・・」

 ジェファーソンは悟る。

 革命政府を倒したバレンシュテット帝国『救国の英雄』、最強の上級騎士パラディンである伝説の騎士王 皇帝ラインハルト。

 『大帝の生まれ変わり』とも言われる、聡明で誇り高い高潔な人物。

 買収が通じるような相手ではない。





 ジェファーソンが、手下のチンピラ達に向けて必死に叫ぶ。

「皇帝だ!! お前達、殺せ! 皇帝を殺せぇ!!」

 ジェファーソンに命令されたチンピラ達は、ジカイラ達とジェファーソンを交互に見て、狼狽える。

 程なく、エリシスとリリー、ナナシがジカイラ達の元にやって来る。

 ナナシが口を開く。

「・・・陛下。孤児院はアキックスとヒマジンに任せてきました」

 ラインハルトが答える。

「判った。残りはこれだけだ」

「・・・御意」

 ナナシはラインハルトに深々と一礼する。

 ジカイラが斧槍ハルバードを肩に担いでチンピラ達に軽口を叩く。

「お前ら、何か言い残すことはあるか?」

 チンピラ達は、互いに顔を見合わせる。

 ジカイラの言葉の意味がまだ理解できないといった素振りであった。

 ナナシが両手をかざして召喚魔法を唱える。

Я ヤー・ приказываюプリカーズ・ユース・ своемуズィムス・ слуге スー・ギャナー・ на ナ・ основанииヴァニエ・ договораダゴヴォラ・ с ス・ джинном.ジュナム
(我、魔神との契約に基づき、下僕に命じる。)

Вождьボシュ・ дьяволаデアブラ・,Повелителиポィエヴィリティ・ демоновディアモノフ
(悪魔達の長、魔界の諸侯)

Убирайся!ウーヴィライーシャ!  Великийヴェリィーキィ дьявол!!・ディアボロ!! 」
(出でよ!上位悪魔グレーターデーモン!!)

 ナナシの前に四つの大きな魔法陣が現れると、それぞれの魔法陣の中から青黒い大きな悪魔が現れる。

 上位グレーター・悪魔デーモン

 ヤギのような角と黒い穴のような目、蝙蝠のような翼と手足の鋭い爪。

 悪魔族の中でも上位に位置する強力な悪魔である。

 召喚された四体の上位グレーター・悪魔デーモンは、それぞれの魔法陣の中で召喚主であるナナシに向かって跪いている。

 ナナシは、上位グレーター・悪魔デーモンに命令を下す。

「殺れ」
 
 ナナシから命令を受けた四体の上位グレーター・悪魔デーモンは、一斉にチンピラ達に襲い掛かり始める。

「うわぁあああああ!!」

「ぎゃああああ!!」

 上位グレーター・悪魔デーモンの鋭い爪は、次々と非武装に近いチンピラ達の体を簡単に引き裂き、肉片に変えていく。

 ジェファーソンは、手下達を盾にしてジカイラ達や上位グレーター・悪魔デーモンから逃げ出す。

 次元ディメンジョン・牢獄プリズンの中は、阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 



 シンジケートのチンピラ達は全滅し、残るはジェファーソン一人となった。

 走って逃げ回っていたものの、周囲を四体の上位グレーター・悪魔デーモンに取り囲まれる。

「ぐうっ・・・うっ・・・」

 ジェファーソンは鼻水を垂らしながら、必死に逃げ場を探していた。

 ナナシが近寄る。

「待て。殺すな。そいつからは情報を引き出さねばならん」

 二体の上位グレーター・悪魔デーモンはジェファーソンを捕まえると、それぞれジェファーソンの腕を取り押さえる。

 上位グレーター・悪魔デーモンは、ラインハルトの元へ向かうナナシの後ろをついていき、ジェファーソンを引きずっていく。

 ナナシが跪き、ラインハルトに話し掛ける。

「・・・陛下。此奴からはシンジケートの情報を引き出す必要があります。処刑するのは、その後でも良いかと」

 ラインハルトは、二体の上位グレーター・悪魔デーモンに捕まっているジェファーソンを一瞥するとナナシに答える。

「そうだな・・・。卿に任せる」

 ナナシは一礼して答える。

「御意。では、一足先に失礼致します。エリシス。我々は居城へ戻る。転移門ゲートを頼む」

「判ったわ」

 エリシスが転移門ゲートを開くと、ナナシは、ジェファーソンを引きずる上位グレーター・悪魔デーモン達と転移門ゲートの中に消えた。





 ナナシが転移門ゲートで居城に帰る様子を見ていたジカイラがラインハルト達に話し掛ける。

「片付いたな」

「ああ」

「そうね」

 エリシスが次元ディメンジョン・牢獄プリズンを解除すると、黒い壁に囲まれていた周囲の景色は、日常の風景に戻った。

 日常と違うのは、無数のシンジケートのチンピラ達の死体が地面に広がっている事であった。
 
 再びジカイラがラインハルトに話し掛ける。

「・・・この一面に広がっている死体は、どうするんだ? 三百人くらいか」

「死体は、領主にでも片付けさせるさ」

 ジカイラがナナイに話し掛ける。

「どうやら、腕は落ちていないようだな」

「ブランクはあるけどね」

 ナナイは、剣の血糊を拭い鞘に収める。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...