アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女

StarFox

文字の大きさ
43 / 64
第三章 中核都市エームスハーヴェン

第四十三話 中核都市エームスハーヴェン

しおりを挟む
 ダークエルフのシグマ・アイゼナハトは、夜の闇の中にその姿を消した。

 ジカイラは、メンバーの状態を確認する。

「みんな、無事か!?」

 ケニーが答える。

「僕は大丈夫」

 ルナも答える。

「私も・・・大丈夫。蹴られただけ」

 ジカイラは、後衛のヒナとティナの方を振り返って見る。

「ヒナ! ティナ!!」

 ジカイラに呼び掛けられたヒナが地面から起き上がる。

「私も・・・大丈夫よ。一撃貰ったけど」

 ティナは、倒れたまま、意識が戻らなかった。

「ティナ! ティナ!!」

 ジカイラはティナの元に駆け寄り、名前を呼びながら両肩を掴んで体を揺するが、ティナはぐったりしたままであった。

 ヒナがティナの頭に掛けられたアイテムに気が付く。

「コレって・・・?」

 ティナの頭に掛けられたアイテムに手を伸ばすヒナをジカイラが制止する。

「待て! 触るな!!」

 ジカイラは、ダークエルフがティナの頭に被せたアイテムをじっくり見分する。

 それは細い銀色の鎖で飾りのついた小さな三角の板を繋いだ額冠がっかんであった。

 額冠がっかんは、被せられたティナの頭の上で妖しい光を放っていた。

額冠がっかん・・・か? 恐らく『呪い』が掛かっている。無闇に触るな」

 ジカイラは、ぐったりとして意識が無く動かないティナを両腕で抱き上げて、幌馬車の荷台に寝かせる。

 ヒナがジカイラに尋ねる。

「どうするの?」

 ジカイラが答える。

「急いでエームスハーヴェンに行って、ラインハルト達に連絡を取る。ハリッシュなら、この額冠がっかんについて、何か知っているかも知れない」

 ヒナもジカイラの案に賛同する。

「そうね。ハリッシュなら『道具アナライズ解析・アイテム』の魔法が使えるから」
 
 ケニーが口を開く。

「あの敵、ダークエルフ・・・だったよね?」

 ジカイラが答える。

「そうだ。まさか、こんなところでダークエルフに遭遇するとは!」

 ジカイラは、海賊時代にダークエルフを見たことがあった。

 ダークエルフは、基本的にアスカニア大陸には生息しておらず、新大陸の未知の区域からやってきたものと思われていた。

 体は華奢で、その数こそ少ないものの、知力は高く好戦的で、闇の魔法とレイピアなどの細身の剣を扱うだけでなく、ゴブリンや食人鬼オーガなどの下位種族を従えて人間と敵対する、危険な種族であった。

 ジカイラ達が戦ったダークエルフ、シグマ・アイゼナハトは、意匠を凝らしたミスリルの鎧などの装備から、ダークエルフの種族の中でも高い身分だと思われた。

(クソッ! これじゃ、ラインハルトに会わせる顔が無いぜ!!)

 ジカイラは焦っていたが、幌馬車の荷台に寝かされ、意識が無くても静かに呼吸するティナの寝顔を見て、少し落ち着きを取り戻す。

 ジカイラは、ティナの手を取って脈を確認し、安堵する。

「脈もしっかりしているし、呼吸も落ち着いている。どうやら、今すぐ命がどうにかなる訳じゃ無さそうだ。ヒナ、ルナ。ティナを診てやってくれ。夜が明けたら、エームスハーヴェンに行こう」

「判ったわ」

 ヒナとルナは、幌馬車の荷台でティナを介抱し、ジカイラとケニーは幌馬車の外で見張りに付いた。

 




--翌日。

 夜が明けると、ジカイラ達は早朝からエームスハーヴェンに向けて幌馬車を進める。

 一晩開けたが、ティナの意識は戻らないままであった。

 ティナは意識が戻らないため食事は取れなかったが、ヒナが少しづつ口に水を含ませると飲み込んでいた。

 ジカイラ達は食事の時以外は幌馬車を止めず、エームスハーヴェンへの道を急ぐ。

 そして、深夜にエームスハーヴェンに到着することができた。






 エームスハーヴェンは、山と海の狭間に作られた城塞港であり、バレンシュテット帝国と、その北のカスパニア王国との国境の街でもあった。

 その城門には煌々と篝火が灯されており、街に入ろうとする者達と、その身分を確認する城門の衛兵のやりとりが続いていた。

 深夜であるにも拘らず、街の周辺には数々の物騒な集団が集まり、街に入る手続きの順番を待って、夜営を行っていた。

 帝国軍によって、デン・ヘルダー、そしてエンクホイゼンを追い出された傭兵団が、エームスハーヴェンに流れ込んでいるためであった。

 街に入る手続き待ちの人の列にジカイラ達も加わる。

 苛立つジカイラが愚痴をこぼす。

「クソッ! 何なんだ? 夜中だと言うのに、この人混みは!!」

 ヒナがジカイラを諭す。

「見た所、傭兵団ね。この街に流れ込んでいるみたい」

「クソッ!!」

 ジカイラは、意識の無いティナの容態を気に掛け苛立っていたが、どうすることもできなかった。

 結局、ジカイラ達が街に入る手続きを終えて街に入ることができたのは、夜明け近くなり、周囲が明るくなってからであった。 

 ジカイラ達は、宿の手配でも苦労した。

 宿屋側が幌馬車の荷台に横たわるティナを見て、一行に「病人がいる」と思われたため、宿屋がジカイラ達の宿泊を嫌がったためである。

 ジカイラ達は、ティナが僧侶プリーストであることを告げ、宿屋の主人に銀貨二枚を多く握らせて、宿屋を確保することができた。

 宿屋側も「巡礼者一行の僧侶プリーストを見殺しにした」という悪評が広まるのは避けたがったのと、ジカイラが握らせた銀貨二枚の「袖の下」が効いたためであった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...