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第一章 ホラント独立戦争
第十九話 奴隷市場
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足早に歩いて行くアレク達であったが、先頭を歩くアレクにドミトリーが駆け寄り、そっと耳打ちする。
「隊長。どうやら拙僧とトゥルムは目立つようだ。できる事なら馬車を借りた方が良い」
ドミトリーの言葉に、アレクはそっと周囲を観察する。
港湾人夫達やカスパニア兵が珍しそうにアレク達とのすれ違いざま、エルフのナディアや獣人三世のエルザ、蜥蜴人のトゥルム、ドワーフのドミトリーの四人をチラチラと見ていく。
潜入任務であるため、できるだけ目立たないようにする必要があった。
アレクは、ゾイト・ホラント港の港湾事務所に立ち寄り、二台の馬車を手配する。
アレク達は、船での部屋割りと同じ組み合わせで二台の馬車に乗ると、港を出て市街地へと向かう。
今回、アレクが手配した馬車は『御者付き』の箱型馬車であったため、料金は割高であった。
偽装の配役上、奴隷商人主人役のアレクと、その妻役のルイーゼの二人が馬車の御者として手綱を握るのは不自然であり、奴隷役のナディアとエルザの二人が外で馬車の御者として手綱を握るのも不自然であった。
御者は、アレク達の待ち合わせ場所である『白き風亭』へ向けて馬車を進める。
馬車は、港からの通りを進み、高い木の塀で囲まれた区域の中に入っていく。
ルイーゼが馬車の窓から外を眺めながら口を開く。
「アレク。あれ、見て」
アレクはルイーゼに促されるまま、馬車の窓から外を見る。
アレクに続いて、ナディアとエルザもアレクの傍らで馬車の窓から外を見る。
アレク達の目に映ったのは、異様な光景であった。
塀で囲まれた区域の通りは、人混みで混雑していた。
通りの脇で、鉄鎖で繋がれた人達が台の上に引き出され、それを見て商人達が手をかざし、叫び声を上げている。
異様な光景にエルザが顔を引きつらせながら口を開く。
「え!? 何してんの? あれ??」
ナディアが唾棄するようにエルザに答える。
「・・・『競り』ね」
エルザが素っ頓狂な声で返事をする。
「『競り』!?」
ルイーゼが呟くように二人に答える。
「・・・『奴隷の競売よ』」
アレクは馬車の小窓を開けて御者に尋ねる。
「・・・ここは?」
「若旦那。ここは、奴隷市場でさぁ」
御者は、悪びれた素振りも見せず、下卑た笑みを浮かべながらアレクに告げる。
「ホラ、若旦那。若い女の子も売ってますよ? 気に入った娘がいたら、買って楽しんでは如何です??」
アレクは、御者が鼻先で指し示す先に目をやる。
奴隷商人達によって競りが行われている高台の近くに、首を鉄鎖に繋がれた姉妹らしい十二歳くらいの女の子と五~七歳くらいの二人の女の子が寄り添って地面に座り込んでいた。
御者が続ける。
「色々と仕込むには、アレくらいの年齢からが良いらしいですよ。毎日咥えさせれば、二~三年後には、良い情婦になると思いますぜ?」
アレクに情婦として奴隷の姉妹を買う事を勧める御者を、ルイーゼが睨み付ける。
ルイーゼからの視線に気が付いた御者は、首をすくめるような仕草をして会話を切り上げる。
「おおっと! 奥様が凄い剣幕だ。・・・こりゃ、失礼致しやした」
御者は、そう言うと小窓を閉める。
窓越しに奴隷の姉妹を眺めながらナディアが呟く。
「あの娘たち、カルラたちと同じ歳くらいね」
ナディアの言葉にエルザが答える。
「うんうん。カルラたちと同じくらいじゃない?」
アレク達は以前、トラキア戦役の際に鼠人に追われていた幼い姉妹、カルラとその妹を救った事があった。
ナディアとエルザの会話をじっと聞いていたアレクが突然、思い立ったように小窓を開けて御者に告げる。
「馬車を止めろ」
「はっ!」
アレクは馬車を止めて降りると、鉄鎖で繋がれた奴隷の姉妹の元に足早に歩いて行く。
突然、馬車を止めて降りて行ったアレクに、ルイーゼは驚いて声を掛ける。
「ちょっと! アレク! どうしたの!?」
「待ってて!!」
アレクが鉄鎖に繋がれた姉妹の元に行くと、身なりの良いアレクを見て、すぐに奴隷商人が愛想笑いを浮かべながらやって来る。
「いらっしゃい。この姉妹が気に入ったようで。お安くしますよ?」
奴隷商人が続ける。
「端女にするも良し。情婦にするも良し」
奴隷商人はニヤけながらアレクの耳元に顔を近づけて囁く。
「二人とも生娘です。・・・色々と楽しめますよ?」
アレクは、奴隷商人に答える。
「それで・・・。この二人、幾らだ?」
「姉の方は、銀貨二枚。妹は、銀貨一枚と銅貨五枚ってとこで」
「判った」
アレクが奴隷商人に姉妹の代金を支払うと、奴隷商人は鉄の首輪はそのままに、首輪から二人を繋ぎ止める鉄鎖を外す。
奴隷商人が姉妹に告げる。
「ホラ。お前たち、新しい御主人様に挨拶しろ!」
ボロボロの衣服を着た二人の奴隷の姉妹は、鉄鎖を外されても動こうとしなかった。
姉のほうは、幼い妹を傍らに抱いて俯いたまま、死んだ魚のような目で地面を見詰め続ける。
幼い妹は姉の傍らで座ったまま、怯えた顔でアレクと奴隷商人を見上げていた。
「ホラ! お前ら、何してる!? 御主人様に挨拶しろ!!」
そう言うと、奴隷商人は姉妹に向けて鞭を振り上げる。
幼い妹は、自分達に向けて鞭を振り上げる奴隷商人を見て怯え、姉の腕にすがり付く。
アレクは、鞭を振り上げた奴隷商人を制止する。
「よせ! 私が買った、私の奴隷だ」
奴隷商人は、振り上げた鞭を降ろすとアレクに告げる。
「お客さん。奴隷は甘やかすとツケ上がりますよ?」
「構わないさ」
アレクはそう言うと、姉妹の前に片膝を付いて目線の高さを合わせると、姉の手を取って握り、二人に告げる。
「おいで。・・・行こう。二人とも」
アレクは奴隷の姉妹の手を引いて、馬車へ連れて行く。
アレクは、手を引いて連れている姉妹の姿を改めて見る。
ボロボロの衣服を纏い、首に鉄の首輪を嵌められて裸足で歩き、生きる事に対して何の希望も持てない『死んだ魚のような目』をしていた。
(これが、奴隷貿易。カスパニアの支配する世界か・・・)
「隊長。どうやら拙僧とトゥルムは目立つようだ。できる事なら馬車を借りた方が良い」
ドミトリーの言葉に、アレクはそっと周囲を観察する。
港湾人夫達やカスパニア兵が珍しそうにアレク達とのすれ違いざま、エルフのナディアや獣人三世のエルザ、蜥蜴人のトゥルム、ドワーフのドミトリーの四人をチラチラと見ていく。
潜入任務であるため、できるだけ目立たないようにする必要があった。
アレクは、ゾイト・ホラント港の港湾事務所に立ち寄り、二台の馬車を手配する。
アレク達は、船での部屋割りと同じ組み合わせで二台の馬車に乗ると、港を出て市街地へと向かう。
今回、アレクが手配した馬車は『御者付き』の箱型馬車であったため、料金は割高であった。
偽装の配役上、奴隷商人主人役のアレクと、その妻役のルイーゼの二人が馬車の御者として手綱を握るのは不自然であり、奴隷役のナディアとエルザの二人が外で馬車の御者として手綱を握るのも不自然であった。
御者は、アレク達の待ち合わせ場所である『白き風亭』へ向けて馬車を進める。
馬車は、港からの通りを進み、高い木の塀で囲まれた区域の中に入っていく。
ルイーゼが馬車の窓から外を眺めながら口を開く。
「アレク。あれ、見て」
アレクはルイーゼに促されるまま、馬車の窓から外を見る。
アレクに続いて、ナディアとエルザもアレクの傍らで馬車の窓から外を見る。
アレク達の目に映ったのは、異様な光景であった。
塀で囲まれた区域の通りは、人混みで混雑していた。
通りの脇で、鉄鎖で繋がれた人達が台の上に引き出され、それを見て商人達が手をかざし、叫び声を上げている。
異様な光景にエルザが顔を引きつらせながら口を開く。
「え!? 何してんの? あれ??」
ナディアが唾棄するようにエルザに答える。
「・・・『競り』ね」
エルザが素っ頓狂な声で返事をする。
「『競り』!?」
ルイーゼが呟くように二人に答える。
「・・・『奴隷の競売よ』」
アレクは馬車の小窓を開けて御者に尋ねる。
「・・・ここは?」
「若旦那。ここは、奴隷市場でさぁ」
御者は、悪びれた素振りも見せず、下卑た笑みを浮かべながらアレクに告げる。
「ホラ、若旦那。若い女の子も売ってますよ? 気に入った娘がいたら、買って楽しんでは如何です??」
アレクは、御者が鼻先で指し示す先に目をやる。
奴隷商人達によって競りが行われている高台の近くに、首を鉄鎖に繋がれた姉妹らしい十二歳くらいの女の子と五~七歳くらいの二人の女の子が寄り添って地面に座り込んでいた。
御者が続ける。
「色々と仕込むには、アレくらいの年齢からが良いらしいですよ。毎日咥えさせれば、二~三年後には、良い情婦になると思いますぜ?」
アレクに情婦として奴隷の姉妹を買う事を勧める御者を、ルイーゼが睨み付ける。
ルイーゼからの視線に気が付いた御者は、首をすくめるような仕草をして会話を切り上げる。
「おおっと! 奥様が凄い剣幕だ。・・・こりゃ、失礼致しやした」
御者は、そう言うと小窓を閉める。
窓越しに奴隷の姉妹を眺めながらナディアが呟く。
「あの娘たち、カルラたちと同じ歳くらいね」
ナディアの言葉にエルザが答える。
「うんうん。カルラたちと同じくらいじゃない?」
アレク達は以前、トラキア戦役の際に鼠人に追われていた幼い姉妹、カルラとその妹を救った事があった。
ナディアとエルザの会話をじっと聞いていたアレクが突然、思い立ったように小窓を開けて御者に告げる。
「馬車を止めろ」
「はっ!」
アレクは馬車を止めて降りると、鉄鎖で繋がれた奴隷の姉妹の元に足早に歩いて行く。
突然、馬車を止めて降りて行ったアレクに、ルイーゼは驚いて声を掛ける。
「ちょっと! アレク! どうしたの!?」
「待ってて!!」
アレクが鉄鎖に繋がれた姉妹の元に行くと、身なりの良いアレクを見て、すぐに奴隷商人が愛想笑いを浮かべながらやって来る。
「いらっしゃい。この姉妹が気に入ったようで。お安くしますよ?」
奴隷商人が続ける。
「端女にするも良し。情婦にするも良し」
奴隷商人はニヤけながらアレクの耳元に顔を近づけて囁く。
「二人とも生娘です。・・・色々と楽しめますよ?」
アレクは、奴隷商人に答える。
「それで・・・。この二人、幾らだ?」
「姉の方は、銀貨二枚。妹は、銀貨一枚と銅貨五枚ってとこで」
「判った」
アレクが奴隷商人に姉妹の代金を支払うと、奴隷商人は鉄の首輪はそのままに、首輪から二人を繋ぎ止める鉄鎖を外す。
奴隷商人が姉妹に告げる。
「ホラ。お前たち、新しい御主人様に挨拶しろ!」
ボロボロの衣服を着た二人の奴隷の姉妹は、鉄鎖を外されても動こうとしなかった。
姉のほうは、幼い妹を傍らに抱いて俯いたまま、死んだ魚のような目で地面を見詰め続ける。
幼い妹は姉の傍らで座ったまま、怯えた顔でアレクと奴隷商人を見上げていた。
「ホラ! お前ら、何してる!? 御主人様に挨拶しろ!!」
そう言うと、奴隷商人は姉妹に向けて鞭を振り上げる。
幼い妹は、自分達に向けて鞭を振り上げる奴隷商人を見て怯え、姉の腕にすがり付く。
アレクは、鞭を振り上げた奴隷商人を制止する。
「よせ! 私が買った、私の奴隷だ」
奴隷商人は、振り上げた鞭を降ろすとアレクに告げる。
「お客さん。奴隷は甘やかすとツケ上がりますよ?」
「構わないさ」
アレクはそう言うと、姉妹の前に片膝を付いて目線の高さを合わせると、姉の手を取って握り、二人に告げる。
「おいで。・・・行こう。二人とも」
アレクは奴隷の姉妹の手を引いて、馬車へ連れて行く。
アレクは、手を引いて連れている姉妹の姿を改めて見る。
ボロボロの衣服を纏い、首に鉄の首輪を嵌められて裸足で歩き、生きる事に対して何の希望も持てない『死んだ魚のような目』をしていた。
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