アスカニア大陸戦記　皇子二人（Ⅲ）　世界大戦

StarFox

文字の大きさ

大中小

20 / 149

第一章　ホラント独立戦争

第二十話　白き風亭

しおりを挟む

「ゴメン。ルイーゼ。・・・放っておけなかったんだ」

　白き風亭に向かう馬車の中で、アレクは奴隷市場で姉妹を買ってきたことをルイーゼに謝る。
　
　アレクの向かいの席に座るルイーゼは、既に諦めているように答える。

「・・・しょうがないわ。その優しさがアレクの良いところだもの」

　馬車の中は、新たにアレクが奴隷市場で買ってきた姉妹二人が増えたため、アレクの隣に二人の姉妹が座り、向かいの席にルイーゼとナディア、エルザが座る。

　姉は死んだ魚のような目のままでアレクの隣に座ったまま俯き、幼い妹は姉の隣で怯えたように自分の向かいに座るエルフのナディア、獣人ビーストマン三世・クォーターのエルザの二人を見ていた。

　エルザは、自分の荷物からゴソゴソと菓子袋を取り出すと、菓子袋の中からクッキーを取り出して姉妹に渡す。

「二人とも、お腹空いて無い？　クッキー食べる？？　お姉ちゃんの名前は、エルザっていうの。よろしくね」

　姉妹は、よほど空腹だったようで、エルザから貰ったクッキーを夢中で食べ始める。

　その様子を見たエルザが呟く。

「よほど、お腹が空いていたのね・・・」

　二人の様子を見たナディアは、自分の荷物から白パンを取り出して二人に渡し、微笑み掛ける。

「お腹が空いているのなら、お菓子より、こっちのほうが良いかも。・・・二人とも、食べなさい」

　姉妹はナディアからパンを受け取ると、それも夢中で食べ始める。

　アレク達に自分達に敵意が無い事を察して安心したのか、パンを食べ終えた幼い妹は、姉に寄り掛かって眠り始める。

　姉が口を開く。

「あの・・・。食べ物、ありがとうございました。・・・御主人様」

　アレクは、苦笑いしながら答える。

「アレクでいいよ。御礼なら、エルザとナディアに言ってあげて」

「はい。ありがとうございました。エルザ様。ナディア様」

　エルザも苦笑いしながら答える。

「私に『様』は要らないわよ」

　ナディアも苦笑いしながら続く。

「私も。『様』は要らないわ」

　ルイーゼが尋ねる。

「貴女。名前は何ていうの？」

　姉が答える。

「私は、エステルと言います。妹は、エミリー」

　ルイーゼも笑顔で答える。

「そう。可愛らしい名前ね。私は、ルイーゼ。よろしくね」

　アレク達は、エステル姉妹の生い立ちや奴隷にされた経緯について話を聞く。

　二人は、住んでいた村が人狩りに襲撃されて両親は死に、人狩りに捕まって奴隷商人に売られてしまったとことであった。

　アレク達の馬車は奴隷市場を通り抜けて、街外れにあるホラント独立派との待ち合わせ場所である宿屋の『白き風亭』に到着する。

　アレク達は馬車を降りて、宿屋『白き風亭』の中に入っていく。

　宿屋の中は、食堂と酒場を合わせたような作りになっており、薄暗く寂れていた。

　宿屋の主人が愛想笑いを浮かべながらアレク達を出迎える。

「いらっしゃい」

　宿屋の主人がアレクに話し掛ける。

「街を覆う霧がいつか晴れると良いね」

　ホラント独立派の『合言葉』であった。

　アレクは『合言葉』を答える。

「霧は必ず晴れる。白き風と共に」

　アレクの『合言葉』を聞いた宿屋の主人は、愛想笑いを辞めて真顔になると、アレク達に答える。

「どうぞ。こちらです」

　宿屋の主人は、アレク達を宿屋の裏側にある大きな納屋へと案内する。

　アレク達は、奴隷の姉妹に宿屋の食堂に居るように告げると宿屋の主人の後に続き、納屋の二階へと上がっていく。

　

　納屋の二階は、野戦指揮所のような造りになっており、詰めているホラント独立派の志士達の熱気に満ちていた。

　アレク達の前にホラント独立派であるホラント王国国民会議のリシー議長とホラント王国親衛隊隊長のマイヨ大尉、その副官のケーニッヒ少尉達が歩み出てアレク達を出迎える。

「帝国軍の皆さんですね。帝国の力添え、感謝致します」

　アレクは、自分の官姓名を名乗り、リシー達と握手する。

「バレンシュテット帝国　中央軍　教導大隊　ユニコーン小隊隊長のアレキサンダー・ヘーゲル大尉です」

　リシーが答える。

「諸君らが最後らしい。他の帝国軍部隊は、既に到着しているようだ」

　そう告げると、リシーは部屋にある円卓を鼻先で示す。

「そうでしたか」

　アレクがリシーの指し示す先の円卓を見ると、グリフォン小隊やフェンリル小隊、セイレーン小隊などの教導大隊の小隊長達が集まっていた。

　リシーが続ける。

「黒い剣士殿が到着したら、我々はホラント全土で一斉に蜂起するつもりだ」

　マイヨが口を開く。

「一斉蜂起の具体的な計画については、黒い剣士殿が到着してから打ち合わせよう。今日はここで休むと良い」

　アレク達は、再び宿屋の主人に連れられ、宿屋の二階に案内される。

　

　宿屋の部屋は、二人部屋であった。

　部屋割りは、アレクとルイーゼ、アルとナタリー、ナディアとエルザ、トゥルムとドミトリーであり、エステルとエミリーにも部屋が与えられた。

しおりを挟む