アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅲ) 世界大戦

StarFox

文字の大きさ
68 / 149
第三章 空中都市

第六十四話 破戒

しおりを挟む
「ウワァアアアア!!」

 帝国南部方面軍の不死者アンデッド達とヴェネト共和国軍ブラックサレナ団の第二陣との戦闘が始まり、大通りには悲鳴が響き渡る。

 一方的な殺戮が始まった事にジカイラは短く舌打ちする。

「チッ! 始まったか!!」

 ヒナもジカイラに続く。

「ジカさん、マズいわ。不死者アンデッド達は、相手が子供でも容赦しない。何とかしないと!!」

 ジカイラが口を開く。

「アレク! 子供達を守れ!!」

 アレクは、教導大隊に指示を出す。

「総員、防御円陣! 投降した子供達を囲め! 対不死者アンデッド防御!!」

 教導大隊の者達が動き始める中、ミネルバは両手で剣を持ったまま、目の前で行われている殺戮と惨劇に呆然として自我を失い、立ち尽くしていた。

(何なの!? これは現実なの??)

 呆然自失となっているミネルバをアレクが怒鳴りつける。

「ミネルバ!!」

 アレクの怒声でミネルバはハッとして我に返り、他の教導大隊の者達と円陣を組んで神聖魔法を唱える。

 教導大隊は、投降した子供達を取り囲むように円陣を組むと、各小隊の僧職や神職の者達が神聖魔法を唱える。

 ドミトリーも両手をかざして神聖魔法を唱える。

拡大ワイド・アンチ・不死者アンデッド・防御殻コクーン!!」

 巨大な法印が地面に表れ、不死者アンデッドに対する光の防壁が教導大隊を囲う。

 教導大隊は、不死者アンデッドの軍団に取り囲まれる。





 子供達を狙う不死者アンデッド達は、神聖魔法による光の防壁によって教導大隊に近付けないため、その周囲を取り囲んでいた。

 アルは斧槍ハルバードを肩に担ぎ、光の壁によって近付けない骸骨スケルトン動死体ゾンビを見て口を開く。

「どうやら、こいつらは、この光の壁に近付けないみたいだな」

 ナディアとエルザは、周囲を取り囲む不死者アンデッド達を見て怯える子供達をなだめていた。

「みんな。お姉ちゃんの傍に集まって」

「目を閉じて、屈んでジッとしているのよ」

 トゥルムも口を開き、アレクに尋ねる。

「隊長、どうする? 仮に戦って突破する血路を開こうにも、相手の数が多すぎるぞ??」

 ナタリーが呟く。

「帝国不死兵団で十万、南部方面軍はその倍以上の二十万以上よ。とても勝ち目無いわ」

 ドミトリーが口を開く。

「隊長! 今は良い。・・・だが、拙僧達だけで、『いつまでも』は持たんぞ!?」

 ジカイラが口を開く。

「帝国南部方面軍の指揮官と話す。・・・ヒナ! 行くぞ!!」

「判ったわ!!」

 ジカイラとヒナは、教導大隊の防御円陣を出て、帝国南部方面軍の不死者アンデッド達の中へ歩み出て行く。

「アル! ルドルフ! フレデリク! 後を頼む!!」

 アレクは、そう口にすると、ジカイラ達の後を追って教導大隊の防御円陣を出て行く。

「アレク!!」

 アレクの後をルイーゼも追って行く。

「アレク! まさか、帝国南部方面軍と戦うつもりか!?」

 アルは慌ててアレクに声を掛けるが、アレクとルイーゼは、教導大隊の防御円陣を出て行ってしまう。




 

 

 ジカイラとヒナ、アレクとルイーゼは、帝国南部方面軍の不死者アンデッド達の中を歩いて行く。

 アレクが口開く。

「エリシス伯爵は?」

 ルイーゼが答える。

「はるか後方。まだ空中港に居るらしいわ!!」

 ジカイラが口を開く。

「前線指揮官はどこだ?」

 ジカイラから問われても、不死者アンデッド達は、四人に対して何の反応も示さず、無視していた。

 四人は、帝国南部方面軍の前線指揮官を探して周囲を見回す。

 ヒナが指差しながらジカイラに告げる。

「ジカさん、あれ!!」

 ヒナが指差す先には、紫色の妖しいオーラを放ちながら二メートルほどの空中に浮き、黒いローブを纏った不死者アンデッドの姿があった。

 ジカイラが呟く。

死者のエルダー・魔導師リッチ! あいつが前線指揮官だ!!」

 四人は、不死者アンデッド達の中を死者のエルダー・魔導師リッチに向かって進んで行く。


 



 死者のエルダー・魔導師リッチの前に、ジカイラ、ヒナ、アレク、ルイーゼの四人が並ぶ。

 ジカイラが口を開く。

「お前が南部方面軍の前線指揮官だな?」

 ジカイラからの問いに、殺戮を楽しんでいた死者のエルダー・魔導師リッチは、不機嫌そうに答える。

「如何にも。われに何の用だ? 黒い剣士殿」

 ジカイラが告げる。

「相手は子供だ! 不死者アンデッド達に戦闘を中止させろ!!」

 死者のエルダー・魔導師リッチは、右手の人差し指を立てて左右に振り、笑いながら答える。

「ヒャヒャヒャヒャ。ジカイラ大佐。帝国南部方面軍は、帝国中央軍教導大隊の指揮下ではない。われに指図したければ、エリシス伯爵を通すが良いぞ」

「ちっ・・・!!」

 ジカイラ達の教導大隊と南部方面軍では指揮系統が違っており、帝国中央軍に属するジカイラはエリシス伯爵指揮下の南部方面軍に対して直接の指示はできなかった。

 死者のエルダー・魔導師リッチの言葉は、筋が通っていた。

 その様子を見ていたヒナが死者のエルダー・魔導師リッチに手をかざして告げる。

不死者アンデッド達を止めなさい!!」

 自分に向けて手をかざすヒナを見て、死者のエルダー・魔導師リッチは、再び笑い声をあげる。

「ヒャヒャヒャヒャ。それで脅しているつもりか? われに氷結魔法は効かぬぞ? 氷の魔女よ」

 ジカイラとヒナのやり取りを見ていたアレクが死者のエルダー・魔導師リッチの前に歩み出る。

 アレクが死者のエルダー・魔導師リッチに向けて告げる。

「戦闘を中止しろ!!」

 死者のエルダー・魔導師リッチは、アレクを一瞥すると鼻で笑う。

「フッ・・・。教導大隊の大尉風情が、何を言うか」

 アレクは、首から下げているお守りを左手で取ると、死者のエルダー・魔導師リッチの眼前にかざす。

 それはアレクが士官学校に入学する際に、母である皇妃ナナイがアレクに持たせた帝室の紋章が入ったブローチであった。

「そ、その紋章は!? なぜ、お前がそれを持っている??」

 帝室の紋章を眼前に突き付けられ、死者のエルダー・魔導師リッチは狼狽える。

 アレクは、格調高く死者のエルダー・魔導師リッチに告げる。

「私は、バレンシュテット帝国 第二皇子 アレキサンダー・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。帝国第二皇子の名において、帝国南部方面軍に命じる! 殺戮を止めろ! 今すぐ!!」

「げぇっ!? 帝国第二皇子だとぉおおお!!」

 死者のエルダー・魔導師リッチは、眼球の無い眼窩をアレクがかざすブローチに向けたまま、口を開いて驚愕する。







 死者のエルダー・魔導師リッチは、天を仰ぐように両手を振り上げると、全身から紫色の光を放つ。

 その光は一瞬、戦場全体を通り抜けた。

 紫色の光が戦場を通り抜けた後、帝国南部方面軍の不死者アンデッド達は動きを止め、彫像のように動かなくなった。

 自分達を取り囲む不死者アンデッド達が動かなくなった事に教導大隊の者達も驚く。

 周囲を見回しながら、アルが呟く。

「なんだ? 動かなくなったぞ? こいつら??」

 ルドルフも口を開く。

「どうした? 何か起きたのか??」

 フレデリクが答える。

「判らん。・・・何なんだ??」






 教導大隊の者達が立ち尽くす中、帝国南部方面軍の不死者アンデッド達が再び動き始める。

 不死者アンデッド達は、アレクに近い者から順にアレクの方を向くと、アレクに対して跪いて最敬礼を取っていく。
 
 一斉かつ順番に十万を超える不死者アンデッド達がアレクに向けて最敬礼を取っていく姿は、異様であり、荘厳でもあった。

 最後に、空中に浮いていた死者のエルダー・魔導師リッチが地上に降り、アレクに対して跪いて最敬礼を取る。

 跪いた死者のエルダー・魔導師リッチがアレクに告げる。

「・・・知らぬ事とはいえ、第二皇子殿下に対する無礼の数々、ひらに御容赦賜りたく・・・」






 アレクは、帝国南部方面軍による殺戮を止めることが出来た。

 しかしそれは、父である皇帝ラインハルトから懲罰として課せられた戒めを破る『破戒』でもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...