アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅲ) 世界大戦

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第三章 空中都市

第七十八話 一夜明けて

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-- 帝国軍による空中都市イル・ラヴァーリ制圧から、一夜明けた翌朝。

 水平線から朝日が昇り、東の空が白み始めた頃、アルとナタリー、次いでアレクとルイーゼが教導大隊の仮設陣地へ戻って来る。

 教導大隊の仮設陣地でトゥルムとドミトリーは、夜通し歩哨に立っていた。

 深夜に空中都市を探検し、教導大隊の仮設陣地へ戻って来たエルザとナディアは、簡易テントの中でぐっすりと眠っていた。
 
 アレク達にトゥルムが声を掛ける。

「皆、戻って来たか。ゆっくり休めたようだな」

 アレクは、夜通し歩哨に立っていたトゥルムとドミトリーを労う。

「おかげさまで。二人とも、ありがとう」

 トゥルムは、アレクにそっと耳打ちする。

「隊長。エルザが寂しがっていたぞ。ヴェネトの女騎士との一騎打ちに勝った事も、褒めてやってくれ」

 トゥルムからの言葉にアレクは苦笑いしながら答える。

「判った。そうするよ」

 ドミトリーが口を開く。

「さて。隊長達も戻って来た事だし。・・・トゥルムよ。拙僧達は、寝るとするか」

 トゥルムも口を開く。

「寝酒もある。そうするとしよう。・・・では、隊長。失礼する」

 そう口にすると、二人は簡易テントへ歩いて行った。





 しばらくすると、朝食の時間になり、ナディアとエルザが起きて来る。

 六人は朝食を済ませるとアルとナタリーが歩哨に立ち、他の四人はくつろぐ。

 アレクとルイーゼは、二人並んで座って紅茶を飲む。

 エルザは木箱に腰掛けて、昨夜、クリスタル・チューブで採って来た三個の黒い植物の実を『お手玉』のように投げて遊ぶ。

「よっ! とっ! ほっ!!」

 右手で上に投げた黒い植物の実を左手で受け取り、また右手に渡すと、再び上に投げる。

 その様子を見たナディアが感心する。

「エルザ。案外、器用なのね」

 エルザは、お手玉を続けながら得意気に答える。 

「へへ~ん。これがユニコーンの獣耳けもみみアイドルの実力よ!」

 四人の元にジカイラとヒナがやって来る。

 ジカイラがアレクに尋ねる。

「昨夜は、ゆっくり休めたか?」

「はい」

「なら、良かった」

 アレクと言葉を交わしていたジカイラが、お手玉を続けるエルザに目を止める。

(あの黒い実。・・・まさか!?) 

 突然、ジカイラは険しい表情でエルザの元に行くと、エルザが投げていた黒い植物の実を手に取り、何かを確認するように観察する。

 ジカイラはエルザに詰め寄ると、睨みながら尋ねる。

「エルザ! これをどこで手に入れた!?」

 エルザが驚きを口にする。

「へ!? ・・・大佐??」

 豹変したジカイラの様子に四人は訝しむ。

 アレクがジカイラに尋ねる。

「突然、どうしたんですか? 大佐??」

 ジカイラは強張った顔をすると、手に持っている黒い植物の実を四人に見せながら告げる。

「お前ら、これが何か、知っているのか!? ・・・こいつは『ハンガンの実』といって、帝国で御禁制の麻薬『天使の接吻エンジェル・キス』の原料だぞ!!」

 ジカイラの言葉に、周囲の者達は驚く。

「「ええっ!?」」

「「麻薬の原料!?」」

 周囲の視線が一斉にエルザに向けられる。

 エルザは、バツが悪そうに答える。

「き、昨日、ナディアとクリスタル・チューブに行った時に、アレクへのお土産にと思って、採ってきちゃったんだけど・・・」

 ジカイラは、手に持ったハンガンの実をエルザの目の前に示しながら告げる。

「エルザ。・・・これを帝国本土に持ち込んだら、問答無用で死刑だぞ?」

 エルザは、涙目でアレクに泣き付く。

「ふぇえええ~ん! ア~レ~ク~! エルザちゃん、知らなかったのよ! どうしよう!! 死刑なんて!!」

 アレクは、泣き付いてきたエルザの両肩を掴んで宥める。

「エルザ、落ち着けって! 死刑は『ハンガンの実を帝国本土に持ち込んだら』だろ? ここは空中都市だ。帝国本土じゃない。すぐ処分しろ!!」

 二人のやり取りを見ていたジカイラが口を開く。

「ハンガンの実は、エリシス伯爵に引き渡すぞ。・・・採ってきたのは、三個で全部か?」

 エルザは、鼻水をすすりながら涙目で頷くと、採ってきたハンガンの実を三個ともジカイラに渡す。

 ジカイラが続ける。

「これがあった『クリスタル・チューブ』ってのは、どこだ? 案内しろ!」

 ナディアが、空中港の方角を指差しながら話す。

「空中港の一番端の埠頭に、下に抜ける通路があって、その先がクリスタル・チューブです」

 ナディアとエルザの案内で、ジカイラとヒナ、アレク達は、ハンガンの実があったクリスタル・チューブへと向かう。

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