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第三章 空中都市
第七十九話 麻薬農場
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ナディアとエルザの案内で、ジカイラとヒナ、アレク、ルイーゼ、アル、ナタリーは、ハンガンの実があったクリスタル・チューブへと向かう。
トゥルムとドミトリーは、昨夜、夜通し歩哨に立っていたため、仮設陣地で眠っていた。
徒歩の一行が空中港に着いた時には、既に昼近くなっており、一行はナディアとエルザに先導されながら、クリスタル・チューブに入った。
目の前に広がるクリスタル・チューブの中の風景に一行は、息を飲む。
ガラス状の外壁を通して、遥か遠くに見える南大洋の水平線。
眩しく降り注ぐ陽の光。
街の外周に沿って伸びるクリスタル・チューブの中に、見渡す限り続くブドウ棚のような木柵と、それに枝を這わせる植物。
石畳の通路と綺麗な芝生。
何も知らない者が一見すれば、透明な円筒状の外壁の中に続いている美しい庭園であった。
風景を見たナタリーが呟く。
「・・・綺麗」
「・・・ああ」
ナタリーの言葉にアルも同意する。
ガラス状の外壁を通して、目の前に広がる南大洋を眺めながら、アレクも呟く。
「・・・凄い。南大洋を一望できるのか」
ルイーゼは、アレクの言葉には反応せず、周囲を警戒していた。
ジカイラは、ブドウ棚のような木柵と、そこに枝を這わせて伸ばしている植物。その植物の枝にぶら下がる黒い実『ハンガンの実』を見て、顔を強張らせる。
ジカイラは、植物の枝にぶら下がる『ハンガンの実』を手に取ると、傍らのヒナに語り掛ける。
「・・・ヒナ。見ろ。ハンガンの実だ。お前も革命戦役の時に『狼の巣』で見ただろ?」
「ええ・・・」
ジカイラと一緒にハンガンの実を見るヒナも、顔を強張らせる。
アレクがジカイラに尋ねる。
「大佐。これは・・・?」
ジカイラが続ける。
「・・・この街の外周を取り囲むクリスタル・チューブ。一見、庭園に見えるその中は、実は『天使の接吻』の原料、ハンガンの実を栽培している麻薬農場だとはな!」
ジカイラの言葉にアレク達は驚く。
驚きを隠せないルイーゼが呟く。
「・・・この延々と続いている綺麗な庭園が、全て麻薬農場だなんて・・・」
ヒナがルイーゼに告げる。
「空中都市は、雲の上にあるから陽当たりも良いし、鳥や虫も防げる。荒天で実が落ちる事も無い。ここから一段、高い位置にある都市の住民の目には、・・・上からは、ここは『ブドウ棚』のようにしか見えない。・・・麻薬の原料を栽培するのに、このクリスタル・チューブは理想的な場所ね」
アレクがジカイラに尋ねる。
「この広大な麻薬農場は、誰が・・・?」
ジカイラが唾棄するように答える。
「・・・この規模の麻薬農場。・・・恐らく、これを作ったのは、イル・ラヴァーリ自治政府だろう」
アルは、信じられないといった顔であった。
「オレたちが助けた自治政府が、麻薬農場を作っていたなんて・・・」
ジカイラが続ける。
「恐らく、ヴェネト軍は、この麻薬農場を狙って侵攻して来たんだろう」
ヒナがジカイラに尋ねる。
「ヴェネト軍がここを?」
ジカイラが答える。
「金貨がギッシリ入った箱より、遥かに価値があって金になる。・・・これが、あの二人の女騎士が言っていた「金のなる木」だ」
ヒナは、納得したように答える。
「・・・確かに」
ジカイラが尋ねる。
「ナディア。エルザ。クリスタル・チューブの入り口は、ここだけか?」
ジカイラから尋ねられ、二人は困惑する。
エルザが答える。
「恐らく・・・」
ナディアが答える。
「・・・判りません。私達の知る限りでは、ここだけですけど。・・・もしかしたら、奥に他の出入り口があるかも・・・」
ジカイラが口を開く。
「判った。・・・アレク。オレとヒナがエリシス伯爵を連れて来るまで、ユニコーン小隊で埠頭にあるここの入り口の小屋を見張って誰も入れるな。・・・それと、決してクリスタルチューブの中には入るな」
「判りました」
ジカイラが続ける。
「もし、ハンガンの実を採集しに来た奴等と鉢合わせしたら厄介だ」
アルがジカイラに尋ねる。
「オレたちが採集に来た奴等を捕まえたら、マズいのかな?」
ジカイラが答える。
「もし、戦闘になれば、自治政府の奴らより、お前達の方が強いだろう。・・・だが、お前達に敵わないと知った敵がクリスタル・チューブの中に火を着けたり、毒霧を使ってきたらどうする? ・・・このチューブの中は逃げ場が無いぞ? ・・・エリシス伯爵率いる帝国南部方面軍の不死者達に対処して貰った方が良い。火災による酸欠も、毒霧も、不死者達には効かないからな」
「なるほどなぁ・・・」
ジカイラの答えを聞いたアルは、納得したようであった。
ジカイラとヒナ、そしてアレク達は、クリスタル・チューブの中から出て、通路のある埠頭まで戻って来る。
ジカイラが口を開く。
「オレとヒナは、一旦、仮設陣地に戻ってトゥルムとドミトリーにここに来るように伝え、エリシス伯爵に連絡を付ける。お前達、後を頼むぞ」
「「了解!!」
そう告げると、ジカイラとヒナは、空中港から仮設陣地へ戻って行った。
アレク達は、ジカイラとヒナを見送ると、埠頭の小屋の周囲を取り囲むように警戒に当たる。
陽が傾き始めた頃、エルザがナディアに尋ねる。
「・・・ねぇ、ナディア」
「ん?」
「そう言えば、エリシス伯爵って、昨夜、私達を仮設陣地から、この空中港に転移門で送ってくれたわよね?」
「・・・そう言えば、そうね」
「大佐は、「エリシス伯爵に連絡を付ける」と言って仮設陣地に戻って行ったけど、ひょっとして、エリシス伯爵は、まだ、この空中港に居るんじゃない?」
「・・・そうよね」
エルザは、苦笑いしながらナディアに告げる。
「ねぇ、ナディア。・・・大佐がエリシス伯爵に連絡を付けるのって、明日以降になりそうな気がするんだけど・・・」
ナディアも苦笑いしながら答える。
「私も、そんな気がする・・・」
トゥルムとドミトリーは、昨夜、夜通し歩哨に立っていたため、仮設陣地で眠っていた。
徒歩の一行が空中港に着いた時には、既に昼近くなっており、一行はナディアとエルザに先導されながら、クリスタル・チューブに入った。
目の前に広がるクリスタル・チューブの中の風景に一行は、息を飲む。
ガラス状の外壁を通して、遥か遠くに見える南大洋の水平線。
眩しく降り注ぐ陽の光。
街の外周に沿って伸びるクリスタル・チューブの中に、見渡す限り続くブドウ棚のような木柵と、それに枝を這わせる植物。
石畳の通路と綺麗な芝生。
何も知らない者が一見すれば、透明な円筒状の外壁の中に続いている美しい庭園であった。
風景を見たナタリーが呟く。
「・・・綺麗」
「・・・ああ」
ナタリーの言葉にアルも同意する。
ガラス状の外壁を通して、目の前に広がる南大洋を眺めながら、アレクも呟く。
「・・・凄い。南大洋を一望できるのか」
ルイーゼは、アレクの言葉には反応せず、周囲を警戒していた。
ジカイラは、ブドウ棚のような木柵と、そこに枝を這わせて伸ばしている植物。その植物の枝にぶら下がる黒い実『ハンガンの実』を見て、顔を強張らせる。
ジカイラは、植物の枝にぶら下がる『ハンガンの実』を手に取ると、傍らのヒナに語り掛ける。
「・・・ヒナ。見ろ。ハンガンの実だ。お前も革命戦役の時に『狼の巣』で見ただろ?」
「ええ・・・」
ジカイラと一緒にハンガンの実を見るヒナも、顔を強張らせる。
アレクがジカイラに尋ねる。
「大佐。これは・・・?」
ジカイラが続ける。
「・・・この街の外周を取り囲むクリスタル・チューブ。一見、庭園に見えるその中は、実は『天使の接吻』の原料、ハンガンの実を栽培している麻薬農場だとはな!」
ジカイラの言葉にアレク達は驚く。
驚きを隠せないルイーゼが呟く。
「・・・この延々と続いている綺麗な庭園が、全て麻薬農場だなんて・・・」
ヒナがルイーゼに告げる。
「空中都市は、雲の上にあるから陽当たりも良いし、鳥や虫も防げる。荒天で実が落ちる事も無い。ここから一段、高い位置にある都市の住民の目には、・・・上からは、ここは『ブドウ棚』のようにしか見えない。・・・麻薬の原料を栽培するのに、このクリスタル・チューブは理想的な場所ね」
アレクがジカイラに尋ねる。
「この広大な麻薬農場は、誰が・・・?」
ジカイラが唾棄するように答える。
「・・・この規模の麻薬農場。・・・恐らく、これを作ったのは、イル・ラヴァーリ自治政府だろう」
アルは、信じられないといった顔であった。
「オレたちが助けた自治政府が、麻薬農場を作っていたなんて・・・」
ジカイラが続ける。
「恐らく、ヴェネト軍は、この麻薬農場を狙って侵攻して来たんだろう」
ヒナがジカイラに尋ねる。
「ヴェネト軍がここを?」
ジカイラが答える。
「金貨がギッシリ入った箱より、遥かに価値があって金になる。・・・これが、あの二人の女騎士が言っていた「金のなる木」だ」
ヒナは、納得したように答える。
「・・・確かに」
ジカイラが尋ねる。
「ナディア。エルザ。クリスタル・チューブの入り口は、ここだけか?」
ジカイラから尋ねられ、二人は困惑する。
エルザが答える。
「恐らく・・・」
ナディアが答える。
「・・・判りません。私達の知る限りでは、ここだけですけど。・・・もしかしたら、奥に他の出入り口があるかも・・・」
ジカイラが口を開く。
「判った。・・・アレク。オレとヒナがエリシス伯爵を連れて来るまで、ユニコーン小隊で埠頭にあるここの入り口の小屋を見張って誰も入れるな。・・・それと、決してクリスタルチューブの中には入るな」
「判りました」
ジカイラが続ける。
「もし、ハンガンの実を採集しに来た奴等と鉢合わせしたら厄介だ」
アルがジカイラに尋ねる。
「オレたちが採集に来た奴等を捕まえたら、マズいのかな?」
ジカイラが答える。
「もし、戦闘になれば、自治政府の奴らより、お前達の方が強いだろう。・・・だが、お前達に敵わないと知った敵がクリスタル・チューブの中に火を着けたり、毒霧を使ってきたらどうする? ・・・このチューブの中は逃げ場が無いぞ? ・・・エリシス伯爵率いる帝国南部方面軍の不死者達に対処して貰った方が良い。火災による酸欠も、毒霧も、不死者達には効かないからな」
「なるほどなぁ・・・」
ジカイラの答えを聞いたアルは、納得したようであった。
ジカイラとヒナ、そしてアレク達は、クリスタル・チューブの中から出て、通路のある埠頭まで戻って来る。
ジカイラが口を開く。
「オレとヒナは、一旦、仮設陣地に戻ってトゥルムとドミトリーにここに来るように伝え、エリシス伯爵に連絡を付ける。お前達、後を頼むぞ」
「「了解!!」
そう告げると、ジカイラとヒナは、空中港から仮設陣地へ戻って行った。
アレク達は、ジカイラとヒナを見送ると、埠頭の小屋の周囲を取り囲むように警戒に当たる。
陽が傾き始めた頃、エルザがナディアに尋ねる。
「・・・ねぇ、ナディア」
「ん?」
「そう言えば、エリシス伯爵って、昨夜、私達を仮設陣地から、この空中港に転移門で送ってくれたわよね?」
「・・・そう言えば、そうね」
「大佐は、「エリシス伯爵に連絡を付ける」と言って仮設陣地に戻って行ったけど、ひょっとして、エリシス伯爵は、まだ、この空中港に居るんじゃない?」
「・・・そうよね」
エルザは、苦笑いしながらナディアに告げる。
「ねぇ、ナディア。・・・大佐がエリシス伯爵に連絡を付けるのって、明日以降になりそうな気がするんだけど・・・」
ナディアも苦笑いしながら答える。
「私も、そんな気がする・・・」
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