アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅲ) 世界大戦

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第四章 聖戦

第八十四話 緊急指令

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-- 一週間後。 ソユット帝国 聖都ビュザンティオン 宮城

 皇帝シゲノブ一世は、君主の間で玉座に座り、肘掛けに片肘を着きながら、重臣達から報告を受けていた。 

 別の重臣が君主の間に駆け込んで来る。

「恐れながら陛下。前線より伝令が参りました」

「聞こう」

「伝令からの報告によると、メフメト王国へ進軍した我が軍は、沿岸部に上陸。十万を誇る我が軍の威容に恐れをなしたメフメト王国は、使者を通じて降伏と恭順を申し出ております」

 重臣からの報告にシゲノブ一世は、上機嫌に答える。

「はっはっは。殊勝な心がけだ。降伏を赦すとしよう。」

 報告した重臣がシゲノブ一世の顔色を伺いながら尋ねる。

「陛下。降伏したメフメト王国の処遇は、如何致しましょうか?」

 シゲノブ一世は、即答する。 

「国王は処刑しろ。王族は聖都へ護送。その他の者は、改宗させ『戦奴』にするように」

 重臣は、恭しく頭を下げる。

「畏まりました」

 シゲノブ一世は、上機嫌で世界地図を眺めると、考える素振りを見せる。

 取り巻く重臣達は、考える素振りを見せた皇帝であるシゲノブ一世が、何を言い出すのか注視する。

 シゲノブ一世が口を開く。

「『戦奴』を先頭に、メフメトの北、・・・トラキアへ兵を進めろ。余も前線へ赴くぞ」

「「おぉ!!」」

 自らの出陣を決めたシゲノブ一世の言葉に重臣達はどよめく。

 シゲノブ一世は、不敵な笑みを漏らす。

「くっくっくっ・・・。『世界最強』などと称するバレンシュテットの実力、見せて貰おうか」

 
 





-- 空中都市イル・ラヴァーリ 一週間後。

 アレク達教導大隊は、飛行空母ユニコーン・ゼロで穏やかな日々を過ごしていた。

 空中都市イル・ラヴァーリも、ヴェネト軍に捕らわれていた市民達が解放されて街に戻り、自治政府による麻薬取引と奴隷貿易の放棄宣言によって、多少の混乱はあったものの、街に元の暮らしが戻りつつあった。

 アレク達は、それぞれ小隊毎に訓練したり、空中都市を観光していた。

 ルドルフは、上級騎士パラディンになるべくジカイラから指導を受けながら鍛錬を続け、フレデリクは、筋トレに勤しんでいた。

 ミネルバは、持ち前の性格と容姿によって、他の平民組の一年生達の中で『姫』と呼ばれるようになっていたものの、ミネルバがアレクを見下したり小馬鹿にするようなことは無くなり、アレクに対するミネルバの接し方は大きく変わっていた。






 アレク達は、ユニコーン・ゼロのラウンジで寛いでいた。

 アレクは、いつも座っているラウンジの窓際にある自分の席から物憂げに外の景色を眺めていた。

 ラウンジの窓から見える空中港の埠頭では、せわしなく港湾荷受の人夫たちが荷物の積み下ろしで埠頭を動き回っていた。

 物憂げなアレクにルイーゼが話し掛ける。

「アレク。どうしたの?」

 心配するルイーゼにアレクが苦々しく答える。

「いや・・・。この街の『貧富の格差』って、酷いなって、思ってね・・・」
 
 ルイーゼがアレクの向かいの席に座ると、再びアレクが口を開く。

「二、三日前に、エルザからせがまれて、二人で軌道シャフト・昇降機エレベーターを通って海上のはしけの街を見に行ったんだ。・・・観光気分でね」

「うん」

「そしたら・・・」



 アレクは、エルザと二人で海上にある艀の街へデートに行った時に、目の当たりにした事をルイーゼに語って聞かせる。

 空の上にある空中都市イル・ラヴァーリの上層部には、商人などの富裕層が居住していた。 
 
 小綺麗な街並みであり、大通りには富裕層向けの高級な飲食店や家具店、ホテルなどが軒を連ねていた。

 しかし、海上にあるはしけの街は、まさに貧民街であった。

 明日の生活の保証も無い、日雇いの仕事に携わる者達が所狭しとひしめき合い、肩を寄せ合って暮らしていた。

 

 ひととおり話し終えたアレクにルイーゼが尋ねる。

「それで・・・。アレクは、どうしたいの?」

 アレクは、考えるように答える。

「貧しい人々を救いたいな、ってね」 

 ルイーゼは、微笑みながらアレクに答える。

「ここ、空中都市イル・ラヴァーリは、自治都市よ。帝国本土じゃないわ。自治政府が彼等の救済に乗り出さない限り、私達には何もできないわ」

 アレクは、自嘲気味に答える。

「・・・判ってるよ」

 ルイーゼは、アレクの隣に席を移すと、そっと語り掛ける。

「アレク。・・・この街の貧しい人々を救いたいと願う、その気持ちは大切だと思うわ。けど、今は何もできない。・・・だから、アレクが帝国第二皇子に戻って、この街の自治政府に貧しい人々の救済を命じれば良いのよ」

 ルイーゼの言葉に、アレクはハッとしてルイーゼの顔を見る。

「そうだ! そうだね、ルイーゼ! その方法があったか!!」

「そうよ」

 いつもの元気を取り戻したアレクに、ルイーゼは微笑み掛ける。

 アレクとルイーゼの会話が一段落した時、ラウンジにルドルフがやって来る。

「アレク。ここに居たのか」

「どうしたんだ?」

 ルドルフは、真剣な顔で答える。

「教導大隊の全小隊長に非常呼集が掛かった。ジカイラ大佐が呼んでるぞ。貴賓室に集合だ」

「判った! すぐ行く! ・・・ありがとう、ルイーゼ」

 ルドルフの言葉にアレクは席を立つと、ルイーゼに御礼を告げ、ルドルフと共に貴賓室へ向かう。


 
 アレク達がジカイラの待つ貴賓室に到着すると、既に他の隊長達は集合していた。

 貴賓室に来て席に着いたアレクとルドルフを見て、ジカイラが口を開く。

「揃ったな。・・・傾注! つい先ほど、帝都より緊急指令が来た。北部同盟に与するソユット帝国が大規模に渡洋して進軍し、メフメト王国を占領。帝国領トラキア南部国境に兵力を集結させつつある! これよりオレ達、教導大隊は、この空中都市イル・ラヴァーリを離れ、帝国領トラキアへ向かう!!」

「帝国領トラキアって・・・」

 ジカイラの言葉にアレクは絶句する。
 
(・・・トラキアには、兄上が!)
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