アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち

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第三章 辺境派遣軍

第二十八話 出陣式

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--翌朝。

 ルイーゼは、熟睡していたこともあり、いつも通りの早朝に目覚める。

 傍らでは、ルイーゼに腕枕をしたまま、アレクが眠っていた。

 アレクは、明け方まで眠れずに起きていたが、睡魔に勝てずに眠っていた。

 ルイーゼは、眠っているアレクの額にそっとキスする。

 想い人の腕の中で、その穏やかな寝顔を眺めていたい衝動を絶ち切ると、ルイーゼはアレクを起こさないように静かに起きあがり、服を着て部屋を出ると、入浴しに行く。

 ルイーゼが部屋を出ると、ちょうどナタリーとエルザ、ナディアも起きてきて、入浴しに行くところであった。

 女の子四人は連れ立ってラウンジに行き、係員に浴場の場所を教えて貰い、入浴しに行く。

 エルザは、歩きながら口を開く。

「凄いね、飛行空母って。あちこち豪華な造りで快適に暮らせそう」

 ナディアがエルザに同意する。

「高級ホテルみたいね」

 飛行空母は、長期の作戦行動が可能なように作られており、飛行戦艦と違って主砲などの大火力兵器を搭載していない分、格納庫や居住区は広く作られ、快適に過ごす事が出来るようになっていた。

 浮遊フローティング水晶クリスタル技術により、飛行空母の運行には海上艦ほどの人員を必要としない事も、居住区を広く取れる要因であった。

 女の子四人が朝の入浴を済ませてラウンジで寛いでいると朝食の時間になり、アレクたちが起きてくる。




 ユニコーン小隊の八人は、窓際の長円卓の席に集まって外の景色を見ながら朝食を取る。

 朝日は、雄大な山々と広がる海と共に、地上に住んでいる人々の日々の営みを照らし出していた。

 ナタリーがアルに話し掛ける。

「アル、馬車があんなに小さく見える」

「それだけ、この空母は高い高度を飛んでいるんだよ」

 ルイーゼがアレクに尋ねる。

「今、どれくらいの高さを飛んでいるの?」

「高度三千ってところかな」

 エルザとナディアは、揃ってカウンターに行くと食後のデザートを頼んでいた。

 程なく二人は、それぞれが頼んだデザートを持って席に戻ってくる。

 ルイーゼがエルザに話し掛ける。

「エルザ。朝からそんなに食べると太るわよ?」

 エルザは、デザートの果物を摘んで頬張るとルイーゼに答える。

「大・丈・夫。甘い物は別腹よ! それに、朝はしっかり食べないと、エルザちゃんみたいなプロポーションになれないわよ?」

 そう言うとエルザは、両手で自分の胸を押し上げて見せる。

 エルザは、自分で自慢するだけあって、スタイルは良く、胸も大きかった。

 早速、ナディアがエルザにツッコミを入れる。

「胸は単に大きいだけじゃダメよ。形が美しくないとね」

 二人のやり取りを見て、アルが呆れる。

「巨乳が良いか、美乳が良いか。それって、男の側の好みの問題じゃないの?」

 エルザとナディアの二人は口を揃えてアルに尋ねる。

「じゃあ、アルはどっちが良いの?」

「え!?」

 二人の言葉に、アルはギクリとして、思わずナタリーを見る。

 すかさずエルザがアルにツッコミを入れる。

「ああっ 今、ナタリーのおっ●い見たでしょ!?」

 ナディアは、ニヤけながらアルを冷やかす。

「あは。アルは、ナタリーの胸が好みってことね!」

 言い当てられて焦るアルは、赤くなって、しどろもどろに答える。

「いや……なんというか……つい……」

 アルの反応に、ナタリーは両腕で胸を隠し、照れて赤くなる。

 アルとナタリーの反応を見て、小隊の皆が笑う。




 アレクたちユニコーン小隊とは別の小隊が、朝食を食べにラウンジにやってくる。

 以前、補給処前で乱闘したルドルフたちであった。

 ルドルフは、アレクとルイーゼの元にやって来ると、口を開く。

「……この前は、済まなかった。助けてくれて、ありがとな」

 アレクが答える。

「いいよ。もう、済んだことだ」

 ルイーゼがルドルフに答える。

「貴方は、どこの小隊なの?」

 ルドルフは、自慢気にルイーゼに答える。

「グリフォン小隊さ。ちなみに小隊長はオレ。ルドルフ・へーゲル」

 アレクが口を開く。

「グリフォン小隊か。ここにいる皆はユニコーン小隊。小隊長はオレ。よろしくな」

 そう言うとアレクは立ち上がって、ルドルフに向き合い右手を差し出す。

「お互い初陣だ。頑張ろう!」 

 ルドルフはそう答え、アレクと握手した。

 さほど時間を置かずにセイレーン小隊、フェンリル小隊もラウンジに現れ、朝食を取り始める。

 アレクとルドルフは、セイレーン小隊、フェンリル小隊の小隊長に挨拶して回る。




 アレクたちが食後のお茶を飲んで寛いでいると、ラウンジにチャイムの音が鳴り響き、ユニコーン以外の各小隊は、足早にラウンジから立ち去っていく。

 ルドルフが帰り際にアレクに耳打ちする。

朝食の時間は終わりだ。厄介な連中が来る。早めにズラかろう」

 アレクたちが使った食器を片付けて帰ろうとした時、ラウンジに入ってくる者達がいた。

 甲高い声が響く。

「どけ! どけぃ! 賤民せんみんの分際で! 身の程を知れ!」

 先頭に立って入って来たのは、オカッパ頭、瓶底眼鏡びんぞこめがね、出っ歯で小柄のネズミのような、神経質そうな小男。

 ヨーイチ男爵家の跡取り、キャスパー・ヨーイチ三世であった。

 キャスパーがアレクを見上げて口を開く。

「貴様! 恐れ多くも皇太子ジークフリート殿下の側近である、この私の前に立ち塞がるとは何事だ! さっさと道を開けろ! この賤民せんみんが!」

 そう告げるとキャスパーは、アレクを睨み上げる。

(……お前が兄上の『側近』であるはずがない。兄上は、お前のような雑魚など相手にしない)

 アレクは、そう言い掛けたが、口には出さずに貴族組に道を譲り、ユニコーン小隊の他のメンバーと共にラウンジを後にした。

 



 朝食を終えたアレクたちは、各自の部屋に戻り、到着までの時間を自由に過ごす。

 飛行空母は、定刻通りに帝都ハーヴェルベルク郊外の帝国軍基地飛行場へ到着した。

 飛行空母から下船した教導大隊は、小隊当たり二台の馬車に分乗して皇宮前の広場に移動し、整列する。

 出陣式が始まる時間が近付いてくると、帝国政府高官と帝国軍の高官達が現れて皇宮前広場に整列し、見物に来た市民達が皇宮前広場外縁部に集まり、見物し始める。

 


『出陣式』の開始時刻になる。

 皇帝ラインハルトが皇妃ナナイを伴って皇宮から皇宮前広場の壇上に現れると、皇宮前広場に集まった市民達が一斉に歓呼し始める。

皇帝、万歳ジーク・カイザー!」

皇帝、万歳ジーク・カイザー!」 

皇帝、万歳ジーク・カイザー!」 

 皇帝ラインハルトは、市民達からの歓呼に右手をかざして答える。

 皇宮前広場で整列するアレクは、遠くから壇上に立つ父ラインハルトを見詰める。

(……父上)



--時間を少し戻した帝都ハーヴェルベルク郊外。

 出陣式のため、帝都ハーヴェルベルク郊外で皇太子ジークフリートは、護衛の二人の女ソフィアとアストリッドを伴って、四人乗りのパレード用オープン・キャリッジ型の馬車に乗る。

 ジークたちの乗る馬車は、ヒマジン伯爵が率いる帝国機甲兵団を引き連れて、街の大通りを皇宮前広場を目指してゆっくりと走り始める。

 出征するジークたちを見送るべく沿道に集まっていた帝都ハーヴェルベルクの市民達は、ジークたちと帝国機甲兵団に喝采を贈る。

帝国、万歳ジーク・ライヒ!」

帝国、万歳ジーク・ライヒ!」
 
勝利、万歳ジーク・ハイル!」

勝利、万歳ジーク・ハイル!」

 帝都の市民達は、革命戦役以来、十五年振りに現れた若き英雄ジークフリートに熱狂していた。

 ジークは、熱狂的に喝采を贈る沿道の市民達に右手をかざして応え、ソフィアはうっとりと傍らのジークを見上げる。

 ソフィアの目に映るジークは、まさに次世代の皇帝カイザーであり、市民達の熱狂振りにソフィアの気持ちも高揚してくる。

(……ジーク様。唯一、私に勝ったひと。世界最強の帝国を受け継ぐひと。やがて私とジーク様の子に帝国は受け継がれる) 

 ジークは、苦笑いしながら傍らのソフィアとアストリッドに話し掛ける。

「まるで『凱旋式』だな。まだ、戦ってもいないというのに。気の早いことだ」

 ソフィアは神妙な面持ちで答える。

「ジーク様の勝利は決まっているも同然です」

「当然だ。敵は未開の蛮族だが、侮ってはいけない」

「はい。ジーク様」

 想い人のジークにたしなめられ、ソフィアは素直に聞き入れる。





 やがてジークたちの車列は、ラインハルトの待つ皇宮前広場に到着する。

 ジークたち三人は馬車を降りると式典会場の階段を登り、壇上のラインハルトに最敬礼を取る。

 ジークの後ろに、帝国四魔将が並んでジークと同じように最敬礼を取って控える。

 ラインハルトは、傍らの剣を鞘ごと手に持って演説する。

「皇太子ジークフリート! 勅命である! 帝国辺境を侵す未開の蛮族共を駆逐せよ! 帝国への挑戦には、その対価を払わせるのだ!」

「畏まりました」

 ジークは両手でラインハルトから鞘ごと剣を受け取ると、会場の壇上で剣を鞘から抜いて天に掲げる。

 ジークは、号令を掛ける。

「全軍、出立!」

 ジークの号令により、帝国東部方面軍と教導大隊からなる『帝国辺境派遣軍』は、帝都を出立する。

 ヒマジン伯爵が率いる帝国機甲兵団は兵力十万。それを含めた諸兵科からなる帝国東部方面軍は、総勢二十五万の大軍であった。

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