異世界のダンジョン・マスター

優樹

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ダンジョン・マスター第一部

1.魔王になった!?

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 なぁ、突然魔王になれって言われたら、アンタはどうする?
 そんな出来事が、自分に降りかかるわけがないと思うだろうか、それとも、異世界なんて羨ましいと思うだろうか。以前の俺は…いや、もはや今更考えても詮無きことか。
                          -辺境の魔王の手記-

 呼ばれている……? 誰だろう、俺を呼ぶのは……?
 寝ているはずの体が底なしの穴に落ちていくような、そんな浮遊感と共にどこかへと引っ張られていく。
 そして数秒とも数時間ともしれぬ時間を過ごし、どこかへとたどり着く。

 俺が目を覚ますと、全く見知らぬ場所にいた。
 あれ? 俺は昨日自室のベッドで寝たはずなんだけど、なにこれ? ひょっとして夢の続き?
 訝しげに思いながらも周囲を見渡してみれば、岩肌がむき出しになっている洞窟の中のような場所にいるようだった。天井は高く、また洞窟は広い。踏みしめている地面は大理石のような石で出来た祭壇になっており、俺はその中心地に立っている。
 そして正面には見覚えのないやや腰の曲がった白髪の老人おり、何やら呟いている。
「……! ……!」
 全く聞き取れない。日本語でも英語でもなく、俺の知らない言語のようでもある。
「あのー……っ!!」
 とりあえず話しかけてみようと思い声を発したところ、急に感じる全身への圧迫感、そして体の中に何かが流れ込んでくるような感覚。同時に息の詰まるような苦しさを感じ、目覚めたばかりの俺の意識は急速に闇に飲み込まれていった……
 意識を完全に失う直前、正面の老人が俺と同じく崩れ落ちるのを見た──

 俺が再び目を覚ますと、今度はベッドの上だった。
「知らない天井だ……って、えぇ!?」
 しかし、またしても自分の部屋ではなかった。
「おや、魔王様、お目覚めになりましたか?」
 混乱する俺のすぐ側から女性の声が聞こえたので、無意識にそちらへと向く。そこには黒いパンツスーツのような服をきっちり着込んだ、真っ赤な髪と目、褐色の肌をした美女がいた。そして驚くことに耳が長い。これはなんだろう、特殊メイクってやつか? 全体を見ると、雰囲気はまるでコスプレでもしているような感じである。
「うおお誰だ!? っていうか魔王!?」
「はい、お初お目にかかります、私は先代魔王様の命により、貴方様の補佐をさせていただくメリルでございます」
「だから魔王って何!? そしてここはどこ!?」
 慌てるあまり「ここはどこ? 私は誰?」的な質問をしてしまう俺。
「ひとつずつご説明いたしましょう。まずここは辺境の地フェニアの一角にあるダンジョン、名前は<奇人の住処>、そして貴方様は先代の魔王様が寿命を迎えるにあたり、次代の魔王として異世界より召喚された方でございます」
 言っていることはわかる。しかしあまりにも突飛すぎるその内容に、俺の理解はまるで追いつかなかった。ダンジョンとか魔王とか異世界とか召喚とか、失礼ながらひょっとして彼女はリアル厨二病なのだろうか。
「ちょ、ちょっと待って、ダンジョンとか魔王とか召喚とか、ふざけてんの? どうやって俺のことを誘拐したのかは知らないけど、うちは中流家庭だから身代金とかは出せないよ? それに、誘拐は成功率が低いって言うし、馬鹿なこと言ってないで自首したほうがいいよ?」
 あまりにも風変わりだが寝ている間に誘拐されたというのが一番現実的な考えだろう、ということで決めつけてかかる。
「冗談ではございません。突然の召喚で混乱なさるのも無理はないと思いますが、全て事実でございます」
 親切心から忠告してやったのに、彼女は全く取り合うつもりがないらしい。話にならない、こんな子供でもしそうにない言い訳で俺のことを騙せると思っているのだろうか。
「いやいや信じられるわけないじゃん。身代金目的じゃないなら一体何のためにさらったんだよ、もう十分驚いたから帰らせてくんないかな」
「重ねて申し上げますが、全て真実です。そして、私では魔王様を元の世界に送り届けることは不可能です」
 元の世界? そういえば辺境の地フェニアとか言っていたけど、そんな場所が日本にあっただろうか。少なくとも俺は知らない。
「ここは、日本だよね?」
「ニホンとは魔王様が召喚される前に住んでいた場所でしょうか?」
「しらばっくれなくてもいいから、流石に国外はありえないでしょ」
「ですから、ここは辺境の地フェニアでございます」
「だからさぁ……」
 どうやってこの誘拐犯から情報を引き出したらいいものか、俺がわずかに思案していると、メリルと名乗った彼女がしばし顎に手を当てて何事かを考えた後に、手を上げて俺に声をかけてきた。
「わかりました、どうしても私の言うことが信じられないようですので、魔王様にご納得いただくため、ここが異世界であるという証拠をご覧にいれましょう」
「はい?」
「<<虚ろなる距離を視る>>」
 彼女がそう唱えた途端、俺の視点がどこからかの上空から見下ろすものに切り替わった。
「はあ!? なんじゃこりゃあ!?」
「遠視の魔法でダンジョン上空からの視界を御覧頂いております」
「ま、ま、魔法?」
「はい、周りを見てください、いかがでしょうか? 魔王様の住んでいた世界とは違いませんか?」
 確かに俺が住んでいたコンクリートジャングルな街からはかけ離れた風景が広がっている。都市では見ることが出来ないほどの自然、森があり泉があり洞窟がある……遠くには現代日本ではもはや無いだろう、木の柵で囲まれた村っぽい物が見える。
 しかし周りの景色よりも、ここが異世界であるということを決定づける要素が他にもあった。それは無論、魔法である。あんな技術は地球にはなかった……と、思う。一言何かをつぶやいただけで、自分の視点が上空からのものに切り替わるなんて、まるでSFの世界だ。
「信じていただけたでしょうか?」
「あ、ああ、わかった、全然実感出来ないけど、とりあえず話を聞かせてくれ……」
 頭を振りながら彼女に応じる俺だったが、色々なことが一斉に起こったため、俺の頭は既にパンク寸前だ、とりあえず落ち着いたほうがいいだろう。
 しかし、俺は一体どうなっちまうんだ?

場所は戻ってベッドのある部屋。
「とりあえずここが異世界だってのは正直納得出来ないけど、魔法なんてものがあるんじゃ信じざるを得ないというかなんというか、わかった。そういう前提で話を進めよう」
「魔王様の世界には魔法はなかったのですか?」
「ああ、科学は発達してたけどな……ってそうだ、その魔王様ってのはなんなんだ?」
「先程も軽くご説明しましたが、先代の魔王様より貴方様には魔王としての力が継承されました。それによって、先代の魔王様は寿命を迎えられ、貴方様が今代の魔王となったのです」
 そういえば一度意識を失う前に出会った白髪の老人が何かを呟いた途端、体に”何か”を流し込まれた気がした、あれが力の継承とやらだったのだろうか。
「先代の魔王って、ひょっとして白髪のおじいちゃん?」
「そうでございます。名前はランドゲルズ、変わり者の魔王だったため、魔界ではちょっとした有名人ですね」
 やはりあの老人が魔王とやらだったらしい。っていうか魔界? 
「まず、魔界ってなんだ、ここがそうなのか? 後、ランドゲルズ……さんが魔王だったってのはわかったけど、そもそも魔王が何なんだ?」
「この世界には魔界、天界、人間界と三つの世界があります、現在我々がいるのは人間界ですね。そして、魔界にいる魔族の中から選ばれた者が魔王となり、人間界にあるダンジョンを管理する責務を負うのです。魔王が人間界で課せられた役目は三つ、まず一つ目は先程も言ったように、人間界にあるダンジョンを管理すること。二つ目はダンジョン最奥にある結界陣を守ること。三つ目は来るべき天界との戦争に備え、人間界での戦力を充実させることです」
 三つの世界……? 一体、どういうものなのだろう、本当の意味で、地面や海で繋がっていない別の世界ということか? それに、ダンジョンの管理というのはともかく、結界陣というものの存在は何なのか、更には天界との戦争とか、今恐ろしい言葉を言わなかったか?
 俺は頭のなかで様々な疑問を抱えながらも、まずは魔王についてメリルへと質問をする。
「魔王って、魔界の王様じゃないのか? 今の話からすると、魔界はほうっておいて、わざわざ人間界に出張してくるのか?」
 考えてみれば変な話である、普通は部下とかにやらせるもんだろう。
「ああ、魔王とは言っても、魔界を支配しているわけではないのです、実態は人間界における役職のようなものでしょうか。魔界には皇帝陛下がおり、その方が魔界全ての最高責任者になっておりますね。王と言えば、実際はその方になるでしょうか」
 なるほど、俺が抱いている魔王のイメージとは、結構違うんだな。
「次はダンジョンの話をしましょうか。まず、ランドゲルズ様の直轄地であるこのダンジョンですが、人間界における辺境に存在しており、ほとんど人目に触れることがないため侵入者は稀でした。敵対している天界からもマークされていなかったようです。そのため維持、運営には手間がかからず、侵入者を相手にするための戦力を増強する必要性もあまりありませんでした。そもそもランドゲルズ様はダンジョンの運営に熱心な方ではなく、自身の研究を人間界ですることに注力していました。これら研究には医療魔法などが含まれており、少なくない数の魔族がランドゲルズ様の研究に助けられたため、ダンジョン運営に従事させるよりは、研究に力を注いでもらったほうがいいという魔界側の思惑もあり、この辺境の地が与えられたのです」
「なるほどなあ、って、そうだ、今は俺が魔王……なんだよな? ひょっとして、ダンジョンの運営は今後俺がやらなきゃいけないのか?」
「その通りでございます。しかし、勝手のわからぬ異世界人では魔王としての職務を全うするのは難しいだろうというランドゲルズ様の配慮により、私が魔王補佐としてお手伝いさせていただくことになっております」
「え、えーと、ちなみになんだけど、魔王とかやらないで家に帰りたいなー……とか言ったら、どうなります?」
「申し訳ございません、異世界人を召喚する術式は、ランドゲルズ様独自のものでして、私には再現はおろか理解することも叶いません。そして、基本的に魔王としての職務を放棄することはできません。もしそういった行動をした場合、魔界から兵が送られて、捕まれば処刑となるでしょうね」
 ああ、ダメだろうなとは思っていたが、処刑までされちまうのかよ。なんてこった。
「この場合、魔王様の凶行を止められなかったということで、私も処刑されることになるでしょうね」
 連帯責任ってやつか、それに処刑なんて言葉が簡単にでてくるとは、魔界ってのは恐ろしいところのようだな……
 もちろん俺はまだ死にたくない。家族には心配をかけることになるが、どうやら今すぐ帰るっていうのは諦めたほうが良さそうだ。まぁ、そもそも帰る方法がわからない上に、魔王の職務を放棄したら彼女も巻き込まれて死んじゃうなんて流石に申し訳ない。
 とはいえだ、いつか地球に帰るために、その手段は探しておきたい……まずは先代の魔王だったという、ランドゲルズさんの研究を理解するのが先決か? 正直魔法というものを理解することすら難しいと思うけど。
 ……異世界に呼び出されたというのに俺は思っていたより落ち着いているようだ。召喚された直後は確かに混乱したものの、自分が考えていた以上に順応性が高かったのかもしれない。
 まぁ、そんなことよりも、今はとにかく情報を集めることが重要だ。そうしなければ何も始まらない。
 今まで彼女に聞いた話が全て真実であるという保証はどこにもないのだが、今の俺には彼女以外に頼る人物がいないのもまた事実、だから、色々なことを聞いておかなければならない。
 とは言え、これまで話をしてきた感じではそこまで悪い人には見えないし、当面は彼女を信用して行動していき、徐々に自分でも周りの状況を理解していくという方向でやっていくしかなさそうだ。
「わかった、とりあえず魔王としてやってみるよ」
「とりあえず?」
 ぴくりと、メリルさんの眉が動いた。
「い、イエ、誠心誠意、頑張らせていただきマス」
 なんだ今の圧力は、ちびるかと思った。やはり彼女もただの人間(耳が長いけど)ではないということか。
「はい、よろしくお願いいたします」
 こうして俺は魔王として<奇人の住処>というダンジョンの主になったのである。

 
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