異世界のダンジョン・マスター

優樹

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ダンジョン・マスター第一部

2.ダンジョン運営のいろは

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 ダンジョンの中をメリルさんに案内される。ダンジョンと言えばどんなものを想像するだろうか?侵入者を惑わす迷宮?それとも塔?いや、地下墓地なんてのもあるな。
 だが、俺が見たところ、このダンジョンは天然の洞窟を拡張したような、ゴツゴツとした岩肌に申し訳程度に整地された道、曲がりくねった道どころか、むしろ見通しが良い…ついでにいうと外の空気が流れ込んでくる、暑くもなく寒くもないーこれはこの地方の気候かもしれないがーそんな場所だった。
 周りをキョロキョロと見渡しながら、寝室から先代魔王のランドゲルズさん──面倒くさいからじいさんって呼ぶか──が使っていたという執務室へ移動してきた。色んな研究資料っぽいものや、大量の本ばかりだ。
「ええと、メリルさん、とりあえず、何から始めたらいいと思う?」
 ちょっと硬質な美人である彼女に、ついついおっかなびっくり訊いてしまう。
「メリルと呼び捨てで結構ですよ。そうですね、まずはダンジョンの防衛に欠かせない、魔物の召喚からでしょうか」
 メリルさん……いや、メリルが思案しながら言う。
「それはどうやってやるんだ?」
 魔物の召喚ってなんか怖いなと思いつつも、少し興味がある。
「魔王様が召喚された場所、あの場所には結界陣があるのですが、そこで召喚いたします」
「ああ、すぐ気を失っちゃったからよく見てないけど、あそこがそうなんだ。そういえば魔王の仕事に結界陣を守るっていうのがあったけど、どういったものなんだ?」
 微かに覚えがあるのは石造りの祭壇だったということか。
「結界陣は様々な目的に使える汎用的な魔法陣なのですが、魔界にとって重要なのは、結界陣が魔力を収集する力を持っているという点ですね」
「魔力を収集する?」
 そうは言ってもあまりイメージが湧かない。
「はい、元々魔力というのはどこにでも存在するものなのですが、人間界のある一部の場所では、魔力が発生しやすく、魔力の濃い場所があるのです。この場所に遥か昔に存在した魔界の大魔導師が陣を敷き、魔力を集め、様々な用途に使えるようにしたものが結界陣となります。結界陣は先程挙げた魔物の召喚にも使いますし、ダンジョンの維持にも力を使っています。そのため、ダンジョンの心臓部とも言えますね」
 色んな用途に使えて便利そうだ。魔力が電気で結界陣が複合的な家電みたいなもんだろうか。
「ちなみに壊されるとどうなるんだ?」
「そうですね、力の弱い魔物は消滅し、ダンジョンは崩壊するでしょうね。復元も技術が失われているため不可能で、魔界にとっては大きな損失となります」
 結界陣を守るのは確かに重要だな。もし壊されたら家なき子になってしまう上に、魔界からは結界陣を守れなかったことで責任を取らされて処刑されそうだし。
「そういえば魔王様は魔法のない世界から来られたのでしたか」
 思い出したようにメリルが問う。
「あーうん、俺って魔力とかあるのかな」
 地球では普通の人間だったはずだから、そんなものがあるのかちょっと疑問だ。
「私の目には他の魔王と比べてやや少なく感じますが、ちゃんと魔力があるように見えますね」
 おお、あるのか魔力。
「魔法とか使える?」
「練習すれば恐らくは使えるようになるかと思われますが……」
 魔法を使えるなんて胸が躍るな! 早く練習したい!
「……そうですね、魔物の召喚にもダンジョン運営にも魔力が必要ですし、ダンジョン運営の基礎についてご理解いただいた後は、魔力を扱う練習から始めましょうか」
 期待の眼差しを向けていたら、メリルがちょっと呆れたような視線を向けながらそう言ってきた。
「じゃあ他のことも教えて!」
 急にやる気になった俺を完全にスルーして、メリルが続ける。
「次はダンジョン拡張についてです」
「ダンジョン拡張?」
 鉱山みたいに穴でも掘るのだろうか。
「はい、結界陣が魔力を収集する範囲は広げることが可能で、範囲を広げることにより、より多くの魔力を収集することが可能です。範囲を広げるためには、結界陣の主として登録がされている者、このダンジョンでは魔王様になりますが、魔王様が自身の魔力を使ってダンジョンを深く広く開拓していくことで、結界陣の魔力収集範囲が広がります」
 自分の陣地を広げていくようなものかな?
「それは魔力を使って地面を掘ったりすればいいのか?」
「開拓自体は誰がやっても構いません。魔王様の仕事は自身の魔力をその土地に通すことになります。土地に魔力を通すことで、自身の土地であると結界陣に認識させるのです」
「なるほど、マーキングみたいなもんか」
「はい、しかし幾つかの要因により、横方向の拡張は難しく、縦方向、特に下方向には拡張しやすいという特徴があります」
「それは何故なのか訊いても?」
「はい、まず魔力はある程度以上濃い場合、一箇所に集まる性質があるのですが、逆にある程度以上の薄さになってしまうと拡散してしまいます。一箇所に集まろうとする性質のため、横方向に魔力を定着させるにはより多くの魔力を注ぎ込む必要があり、あまり効率がよくありません。しかし、下方向には魔力が流れやすく、ダンジョンの上層で定期的に魔力を流せば、後は時間をかけて浸透していくのです」
 なるほど、下方向は魔力を流すだけでいいけど、横方向は出力を上げて魔力を流さないといけないのか。
「また、侵入者や野生動物などに魔力を乱されると調整する必要がありますので、周囲が森林になっているこのダンジョンでは、地表付近における横方向の拡張は難しいと思われます」
「ふーむ、色々あるんだなあ」
 一度やってみればどんなもんか理解出来るかな。
「最後に天界との戦争に備えた戦力の増強ですが、基本的にはダンジョン防衛と並行で行なっていく事になります。つまり、魔物の召喚ですね」
「防衛のための戦力がそのまま戦争時の戦力になるわけか」
「はい、その通りです」
「天界との戦争ってのは、すぐに起こりそうなの?」
 正直すぐに起こって欲しくはない。平和な日本で暮らしてきたから尚更だ。
「いえ、以前に起きたのは数千年前と聞いております。私も話でしか聞いたことがありませんね」
「ふーん、そうなんだ。ちなみにメリルは何さいっ……!?」
 急な寒気を感じ、最後まで喋ることが出来なかった。
「何かおっしゃいましたか」
「い、イエ、なんでもない、デス」
 メリルから凄まじい殺意が吹きつけてきた、ような気がする。やっぱり女性に年の話はダメだよね。ウン。
「……こほんっ、ちなみに天界との戦争はしばらく起きておりませんが、小競り合いは人間界の各地で起きておりますので、備えはやはり必要になります」
「人間界にも天界の人達がいるんだ」
「はい、やはり魔界と同様に、魔力の溜まっている場所で何かやっているようです。詳しくは知りませんが……」
 メリルが少し眉を潜めながら説明してくれる。彼女にとっては天界の住人が何かをやっているというのは、不安要素なのだろう。
「この周辺には他のダンジョンとか、天界の基地? みたいなものはあるのかな」
 あるとすればかなり厄介なことになる。早急に対応が必要だろう。
「いえ、周辺には人間の村がいくつかあるくらいで、他のダンジョンはありませんね」
 メリルからそう聞かされ、俺はいきなり戦争といったことにならないようで少し安心した。
「そういや辺境の地だったか」
「はい」
 同意するようにメリルが頷く。
「ということはそんなに必死にならなくても大丈夫?」
 別にサボりたい訳じゃないんだけど、あんまり必死なのも疲れてしまう気がする。
「先代の魔王様はその特異な研究でお目こぼしをいただいておりましたが、そういったものがない魔王様では真面目にダンジョン運営をしなければ魔界から目をつけられるかと……」
「あーそっかー、じいさんの研究俺にも理解出来ればなー」
「じいさん?」
 メリルが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「ああ、先代の魔王。ランドゲルズって呼ぶのが面倒くさいからさあ」
「……恐れ多いことを、しかし、魔王様はランドゲルズ様に呼び出され力の継承を行なっているので、それでも良いのかも知れませんね」
「そうそう、それになんかよくわかんないけど、他人って感じがしないんだよね」
 なんというか、不思議な感覚である。しかし異世界に知り合いなどいるわけがないのだけれど。
「ランドゲルズ様がどうして後継者を異世界から召喚されたのかはわかりませんが、何か理由があるのかもしれませんね」
 なるほど、そういう考え方もあるか。でも俺って地球じゃただの人間だったしなあ……特殊能力もないし、特別運動が得意だったり、頭が良かったわけでもない。
「そこら辺はおいおいわかってくるかもしれないな。それで、ダンジョン運営の基礎はこんなところ?」
「はい、そうですね。細かいところについては、その都度ご説明いたします」
「よし、それじゃあ魔法の練習だ!」
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