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ダンジョン・マスター第一部
4.一日目が終わって:SIDEメリル
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この話が来た時、正直乗り気ではなかった。
父に迷惑をかけながらも仕事を斡旋してもらい、その職務を周りに舐められぬよう、責任をもって遂行していたのだ。
生まれが原因で栄達など望むべくもないが、両親を愛している私には、仕事を通じてささやかな恩返しが出来ればと思っているので別に問題はなかった。
周りからの不当な評価、陰口、嫌がらせなど、私にとっては何の障害でもなかったのだ。
そうやって魔界でたくましく生きていたところに父の旧友であるランドゲルズ様が訪れてこう言った。
「わしの跡継ぎを、補佐してもらえぬか」
その話を聞いた時、心底驚いた。
ランドゲルズ様は変わり者ではあるが、人望はある。私のような魔界の爪弾き者など選ばずとも、他に良い人材などいくらでもいるはず。
そう言って断ろうとした私に、ランドゲルズ様はおっしゃった。
「お主がいい。魔界の貴族主義に染まりきっておらず、反骨心を胸に秘めたその瞳がいいのじゃ」
そう言われても、私は納得出来なかった。失礼ながらランドゲルズ様の管理ダンジョンは人間界の僻地。これは甘い言葉で私をうまいこと左遷しようとする、魔界の貴族達の策略ではないのかと。
実際、この話を受けた時に、少なくない数の魔族が、僻地に左遷された私を暗い笑みで見つめていたのを私は知っている。
結局、父にも相談した上で、貴族たちの策略ではなく純粋に私の力を必要としてくれているということがわかり、ランドゲルズ様の話を受けることに決めた。
すると、私の生涯というとてつもない時間をランドゲルズ様は莫大な魔貨で買い上げ、私は晴れてダンジョン<奇人の住処>付きの魔族となったのだ──
ランドゲルズ様からダンジョンの様々な引き継ぎ事項を済ませ、ついに後継者召喚の日となった。
私はなぜ異世界から後継者を召喚するのか尋ねたが、最後までランドゲルズ様はお答えになられなかった。何かお考えがあってのことだとは思うのだけど。
そして後継者──次代の魔王様──が召喚され、私の仕事が本格的に始まった。
彼は黒い髪に黒い瞳を持つ青年だった。女性にしては背が高い私よりも、少し高い身長。体つきは鍛えられているようには見えず、身につけた衣服はこの世界には存在しないような技術で織られていた。
そして話をしてみてまず驚いたのは、魔法が存在しない世界から来たということ。私にとって魔法は生まれた時から当たり前に存在するものであり、魔界の住人ならば大なり小なりある程度の魔法を行使出来るのは当然なのだ。
代わりに科学技術は発展しているということだったが、魔法で大半のことが代用出来てしまうこの世界では、科学技術というものは魔力を持たぬ人間が使うものという認識である。時には便利なものを作り出すとは聞いたことがあるが、私は目にしたことはない。
しかし、彼の身につけた衣服を見ると、この世界の科学技術よりも遥かに発達した技術水準であることが想像出来る。
新しい魔王候補が人間であるというのは事前にランドゲルズ様から聞いていたので、取り乱すことなく接することが出来た。私にとって敵なのは、人間界の人間であって、異世界の人間ではないのである。こういった割り切りの良さが、ランドゲルズ様に選ばれた理由の一つになっているのかもしれない。普通の魔族なら、人間と聞いた時点で嫌悪感を表してもおかしくはないのだ。
ダンジョンの運営について説明している間、魔王様はしきりに頷いて、時には質問をしてきた。召喚された混乱もあっただろうに、適応力と理解力の高さを私は感じた。
また、魔法の話をしているときは、私に期待の眼差しを向けてそわそわとしていたので、子供のようだと内心で面白がっていた。
自分が人間だと言い出した時には、心を鬼にしていかにこの世界の人間どもが卑劣な輩であるか教えこんだ。今後は異世界人だと名乗ってもらうことにする。魔界では年のいった魔族程、人間への憎悪が深いのだ。間違っても自分が人間だと言わせてはならない。そんなことを言えば、その場で八つ裂きにされてもおかしくないのだ。
ちなみに、私が年のいった魔族という意味ではない。
そして、話の流れで私の出自についても話すことになってしまったが、やはりそこは異世界人、ダークエルフだと聞いても私に変な目を向けてくることはなく、安心した。
しかし、魔法の扱いは物心が付く前の子供レベルだった、魔力の操作が安定していない、ダンジョン運営にも関わる部分なので、練習を頑張ってもらうしかない。幸いにも、魔王様自身のやる気はあるようなので、上達は早いと思われる。
その後の魔物召喚も無事に終了したことで、ダンジョン運営も問題がなさそうだと判断出来た。まさか火の魔狼などという最下級の魔物を気に入るとは思わなかったが、まあペットみたいなものとして扱うことにする。
最後に、母の身を案じている姿は、見た目の年相応に見えた。彼からしてみれば、突然召喚されて魔王にされて帰る手段もないというのは、精神に過大なストレスを与えているだろうというのは想像に難くない。両親を愛している私には、もしかしたら永遠の別離かもしれないと考えるだけで胸が苦しくなる。せめて、元の世界と連絡を取る手段くらいはなんとかしてあげたいと思う。手がかりになるのは、やはりランドゲルズ様の研究だろうか。
とりあえず、色々と問題はありそうだが、ダンジョン運営を魔王様と頑張っていこうと思う。
そう言えば、私の年齢を訊いてきた時にはつい殺気を向けてしまったが、あれは仕方のないことだ。
父に迷惑をかけながらも仕事を斡旋してもらい、その職務を周りに舐められぬよう、責任をもって遂行していたのだ。
生まれが原因で栄達など望むべくもないが、両親を愛している私には、仕事を通じてささやかな恩返しが出来ればと思っているので別に問題はなかった。
周りからの不当な評価、陰口、嫌がらせなど、私にとっては何の障害でもなかったのだ。
そうやって魔界でたくましく生きていたところに父の旧友であるランドゲルズ様が訪れてこう言った。
「わしの跡継ぎを、補佐してもらえぬか」
その話を聞いた時、心底驚いた。
ランドゲルズ様は変わり者ではあるが、人望はある。私のような魔界の爪弾き者など選ばずとも、他に良い人材などいくらでもいるはず。
そう言って断ろうとした私に、ランドゲルズ様はおっしゃった。
「お主がいい。魔界の貴族主義に染まりきっておらず、反骨心を胸に秘めたその瞳がいいのじゃ」
そう言われても、私は納得出来なかった。失礼ながらランドゲルズ様の管理ダンジョンは人間界の僻地。これは甘い言葉で私をうまいこと左遷しようとする、魔界の貴族達の策略ではないのかと。
実際、この話を受けた時に、少なくない数の魔族が、僻地に左遷された私を暗い笑みで見つめていたのを私は知っている。
結局、父にも相談した上で、貴族たちの策略ではなく純粋に私の力を必要としてくれているということがわかり、ランドゲルズ様の話を受けることに決めた。
すると、私の生涯というとてつもない時間をランドゲルズ様は莫大な魔貨で買い上げ、私は晴れてダンジョン<奇人の住処>付きの魔族となったのだ──
ランドゲルズ様からダンジョンの様々な引き継ぎ事項を済ませ、ついに後継者召喚の日となった。
私はなぜ異世界から後継者を召喚するのか尋ねたが、最後までランドゲルズ様はお答えになられなかった。何かお考えがあってのことだとは思うのだけど。
そして後継者──次代の魔王様──が召喚され、私の仕事が本格的に始まった。
彼は黒い髪に黒い瞳を持つ青年だった。女性にしては背が高い私よりも、少し高い身長。体つきは鍛えられているようには見えず、身につけた衣服はこの世界には存在しないような技術で織られていた。
そして話をしてみてまず驚いたのは、魔法が存在しない世界から来たということ。私にとって魔法は生まれた時から当たり前に存在するものであり、魔界の住人ならば大なり小なりある程度の魔法を行使出来るのは当然なのだ。
代わりに科学技術は発展しているということだったが、魔法で大半のことが代用出来てしまうこの世界では、科学技術というものは魔力を持たぬ人間が使うものという認識である。時には便利なものを作り出すとは聞いたことがあるが、私は目にしたことはない。
しかし、彼の身につけた衣服を見ると、この世界の科学技術よりも遥かに発達した技術水準であることが想像出来る。
新しい魔王候補が人間であるというのは事前にランドゲルズ様から聞いていたので、取り乱すことなく接することが出来た。私にとって敵なのは、人間界の人間であって、異世界の人間ではないのである。こういった割り切りの良さが、ランドゲルズ様に選ばれた理由の一つになっているのかもしれない。普通の魔族なら、人間と聞いた時点で嫌悪感を表してもおかしくはないのだ。
ダンジョンの運営について説明している間、魔王様はしきりに頷いて、時には質問をしてきた。召喚された混乱もあっただろうに、適応力と理解力の高さを私は感じた。
また、魔法の話をしているときは、私に期待の眼差しを向けてそわそわとしていたので、子供のようだと内心で面白がっていた。
自分が人間だと言い出した時には、心を鬼にしていかにこの世界の人間どもが卑劣な輩であるか教えこんだ。今後は異世界人だと名乗ってもらうことにする。魔界では年のいった魔族程、人間への憎悪が深いのだ。間違っても自分が人間だと言わせてはならない。そんなことを言えば、その場で八つ裂きにされてもおかしくないのだ。
ちなみに、私が年のいった魔族という意味ではない。
そして、話の流れで私の出自についても話すことになってしまったが、やはりそこは異世界人、ダークエルフだと聞いても私に変な目を向けてくることはなく、安心した。
しかし、魔法の扱いは物心が付く前の子供レベルだった、魔力の操作が安定していない、ダンジョン運営にも関わる部分なので、練習を頑張ってもらうしかない。幸いにも、魔王様自身のやる気はあるようなので、上達は早いと思われる。
その後の魔物召喚も無事に終了したことで、ダンジョン運営も問題がなさそうだと判断出来た。まさか火の魔狼などという最下級の魔物を気に入るとは思わなかったが、まあペットみたいなものとして扱うことにする。
最後に、母の身を案じている姿は、見た目の年相応に見えた。彼からしてみれば、突然召喚されて魔王にされて帰る手段もないというのは、精神に過大なストレスを与えているだろうというのは想像に難くない。両親を愛している私には、もしかしたら永遠の別離かもしれないと考えるだけで胸が苦しくなる。せめて、元の世界と連絡を取る手段くらいはなんとかしてあげたいと思う。手がかりになるのは、やはりランドゲルズ様の研究だろうか。
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