異世界のダンジョン・マスター

優樹

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ダンジョン・マスター第一部

11.懸念

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 最近魔王様の調子が良くないようだ。食欲は減り、明るい顔を見せなくなった。睡眠も十分にとれていないようだ。まだ目に見えて変化は現れていないが、このままの状態が続けばまずいのは火を見るよりも明らかだ。
 原因はわかっている、理由はともあれ、人間を殺したことが、魔王様を苦しめているのだ。
 私は以前、魔王様は人間ではなく魔王、人間ではなく異世界人と言ったが、所詮は方便である。
 魔王様は人間との殺し合いを、人間対人間と認識しているのだ。
 ……以前聞いた話によれば、魔王様は非常に平和な国に居たらしい。そのため、人と争うことをほとんどしたことがなく、殺し合いなどもってのほかだった。
 それでも、魔王様はダンジョンを守るために人間同士で争うことを選び、しかしその結果として、人を殺したという自責の念にとらわれている。
 自らが苦しむと恐らくわかっていながら、何故魔王様はダンジョンを守るために戦うことを選んだのか。
 これまで私は魔王様の行動を制限することはしなかった。良い関係を築くためにはそんなことをしてはならないと思っていたからだ。だから、正直いつでもこの場から、このダンジョンから逃げ出すことが可能だっただろう。
 しかし、魔王の職務がどうとか、裏切ればどうなるかとか、そういった言葉で魔王様の心を縛ったのは事実である。
 だが、魔王様はそんな言葉とは関係なく、私達のことを信頼してくださっているようだった。
 その結果が今の状況と言える。魔王様は、自分の身を守るためだけではない、私達を守るために戦うことを選択したのだろう。
 この知り合いが誰もいない異世界で初めて言葉を交わした人物である私を頼るしか、魔王様に選択肢はなかったのかもしれない。
 かねてより家族への思いが垣間見えていただけに、その気持ちは痛いほどにわかる。わかってしまう。
 魔王様の精神は、強くない。
 意識的か無意識的かはわからないが、自分の心を安定させるためにも、一番身近にある寄る辺をなんとしても守ろうとしたのか。
 私は、自分でも気づかぬうちに、魔王様の心を利用していたのだろうか。
 ダンジョンを運営していくためには当然の行為だったと頭では理解しているが、気持ちの上では受け入れられるものではない。

 あれからも度々訪れる侵入者達、私も殺し尽くすのではなくなるべく追い払うように注意をしているが、それでもお互い殺し合っているのだ、敵味方共に死ぬものはどうしたって出てくる。そして、その度に魔王様は苦しみと悲しみを味わっている。
 最初に侵入者が来てから数週間。
再び食料問題が浮上している。侵入者から奪う食料はあまりにも少なく、私達の生活を維持するために補給は必須だ。だが魔王様を人間と接触させていいものか、私には判断しかねる。
 ダンジョンの開拓がもっと進み、魔界とのゲートを月に一回開くことが出来るようになれば、私が持っている大量の魔貨で食材の確保は容易になるのだが、現状ではまだそこまで進んでいない。
 自分の力が足らないのが歯がゆい、アーシャだって普段は変わりないように過ごしているが、内心は魔王様の体調に気を使っている。
 このままでは魔王様が倒れてしまう。そうなる前にどうにか手を打たなければ……しかし、私やアーシャでは、魔王様の気持ちを完全に理解して、それを癒してあげることは出来ない。エルフの血が混ざっているといっても、私は生まれてからずっと魔界で暮らしていた、その考え方は魔界の一般的なものと大差ない。
 魔王様の心を安定させるためにも、誰か他の人物の協力が必要だ。それが私の、魔王様の心を利用したくないという気持ちを無視する結果になったとしても。
 私やアーシャは物理的な強さとは関係なく、存在が強い、それは魔王様よりもはるかに長命だからだ。人間として若年である魔王様とは比べ物にならないほどの年月を、私達はもう過ごしてきている。簡単なことでは動揺などしないのだ。
 だから、魔王様は私達を守らなくてはならないという思いがありながらも、その力を振るう場面に遭遇することはない。
 それがより魔王様の精神に、閉塞感をもたらしているのではないか。
 なれば魔王様の庇護下に弱き者を置き、それによって魔王様の皆を守らなくてはという思いをより強いものとする。
 使命感は人の心を強くする。
 それを私は、魔王様の心を自分の都合のいいようにしているとわかっていながら利用するのだ。
 いずれ魔王様に恨まれることになっても。
 全てをこのままにすることは出来ないのだから。
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