異世界のダンジョン・マスター

優樹

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ダンジョン・マスター第一部

12.とある侵入者の転機

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 アタシはツイてない。本当にツイてない。
 運を天に見放されたとでも言うのか、これまで生きてきた短い人生で、いいことなんてほとんどなかった。
 世の中は理不尽だ、うまくいかないことのほうが多い。
 努力した人間が必ず救われるなんてことはない、命は平等でもない。
 持つべきものの場所に財や権力は集まり、持たざるものは搾取され続ける。
 幼少の頃に両親は死んだ。幼い妹と二人、隙間風が吹き込む家屋で震えていた。
 そして数日後には家も奪われた。両親には借金があったらしい。それを返済するために二人共無理に働き、体を壊し、また借金が増え、という悪いサイクルに陥っていた。
 家を追い出されてからの日々は地獄だった。街のスラム街に住み着いて、やれることはなんでもやった、窃盗や物乞いに始まり、冒険者として登録して、魔物が出る危険地域に薬草を取りに行ったりもした。十代になろうかと言う少女が、何の武器も防具も持たずにだ。
 戦争があれば死体漁りだってやったし、金になるなら糞尿の後片付けだってやった。
 そうやってなんとか生きてきた。生きる希望は妹だけだった。
 そして今、その希望もまた、失われる危険性に瀕している。

 きっかけは盗賊ギルドの依頼だった。アタシは実入りのいい仕事を選んでやっていたので、表の仕事よりも裏の仕事をよくやっていた。妹は心配していたが、保護者のいないアタシ達姉妹が誰にも頼らず生きていくには、とにかく金が必要だった。
 幸いにもアタシには魔術の適正と、悪くない運動神経があった。どちらも一流の使い手には及ばないが、それでも金を稼ぐ手段として役立った。
 とは言え誰もアタシに魔術を教えてくれる人はいなかったし、戦いの方法を教えてくれる人もいなかった。だから他人の技術を盗もうと、仕事で誰かと組むときには目を皿のようにして動きを学んだ。
 動きを盗むだけでは魔力の扱いや陣の敷き方などはさっぱりわからなかったので、魔術師を殺す仕事を受けた時に、そいつの家から魔術書をかっぱらって独力で学んだ。
 そうやってなんとか自分の力をつけ、命を繋いできた。しかし、アタシは馬鹿だった。仕事をもう少し選ぶべきだった。もはや後悔に意味はないが、今に至るまで度々そう思う。
 その日アタシは貴族に嵌められて偽の依頼を掴まされ、これまで敵でも味方でもなかった盗賊ギルドの他の人間に襲われることになる。
 必死で戦ったものの、多勢に無勢で徐々に傷は増え、最終的には半死半生になって動きが鈍ったところで捕らえられた。
 そうして血まみれで依頼主の貴族の前に転がされたアタシを待っていたものは更なる絶望。
 スラムの自宅にいるはずの妹がアタシの前に連れだされ、薬か何かで眠らされていたのだ。
 そして今……妹は貴族の人質に取られ、アタシは妹の安全と引き換えに命の危険がある仕事ばかりをこなさなければならない日々だ。
 アタシが死ねば妹の命は保証されない、アタシと違い線が細く儚げな魅力を持つ妹は、アタシが死ねば貴族のおもちゃにされるだろう。そしてアタシが死なないなら、便利な捨て駒として汚れ仕事をこなしてくれるという寸法だ。
 この時代、どこにでもあるような不幸な話で、たまたまアタシ達がその登場人物として選ばれた訳だ。
 ああ、全くツイてない。アタシは妹を守るために、決して死ねないのだ。
 妹と共に生きることだけが全てだったのに、アタシのせいで妹を危険にさらしてしまった。
 きっと妹はアタシを責めないだろう。むしろ、アタシに罪悪感すら抱いているはずだ。
 こんなつもりではなかったのに。
 いくつもの「こんなつもりではなかった」を積み重ねて、社会の底辺を這いまわり続けたアタシの最後がこんなことになるとは。
 神に祈る気力も失せた。
 信じたことなどなかったが、本当に……神様など糞食らえだ。

 そして今日もまた仕事だ。内容は巷で噂になっている辺境のダンジョンに突入してこいとの話だった。
 どうやら辺境都市リドルの冒険者達が攻略に乗り出しているようなのだが、魔物のレベルは低い割に用兵のうまい幹部がいるらしく、中々先に進めないらしい。
 しかし、今まで発見されていなかったダンジョンなので宝物にも期待がかかっているのだろう、冒険者達は躍起になって攻略しようとしている。
 そして、国に先をこされまいと、アタシもそこへ投入されるわけだ。
 どういうことか?
 まず、ダンジョン制圧というのは国の責務である。
 ダンジョンがどんな理由で作られているのかは伝わっていないが、作られてから時間を置くとどんどん拡張していくことは知られている。どこまでも大きくなるという訳ではないようだが、それなりに大規模な土地を魔物に占領されてしまう訳だ。国としては厄介な侵略者という位置づけになる。
 更に、拡張しきったダンジョンからは魔物が溢れだし、野生化することでダンジョン外の人間にも被害を与えることになる。ダンジョン内に保持出来る魔物の数に制限があるとか、単に居住地が足らないからだとか色々言われているが、どっちにしても危険なことに変わりはない。
 ある程度以上大きくなったダンジョンを人間の力で制圧することは難しく、後はもうダンジョン外に溢れ出す魔物を間引くことしか出来なくなる。百年に一人現れるかどうかという確率の勇者と呼ばれる逸材は、少数精鋭で魔王を倒すことによりダンジョンの制圧を成し遂げることもあるが、それも確実ではない。そして、それを待つだけでは国の威信は守れない。当然国としてもダンジョン対策を怠るわけにはいかないのだ。
 そうなると出来たばかりと噂されるダンジョンにどのような対策を取るかは決まってくる。まずは調査団を派遣し、魔王のいるダンジョンであることを確認する。魔物が外に溢れだしている状態でないことも確認し、ダンジョンがまだ拡張を続けている状態か判断する。その後大規模な魔王征伐軍を結成し、ダンジョンを物量で制圧するのだ。
 ここで今回の仕事が関わってくる。アタシを脅して働かせている貴族は、ダンジョンに調査団が派遣される前にダンジョン内にあるだろう様々な品を国に知られず確保したいのだ。
 ダンジョン内にある品は貴重だ。膨大な魔力を秘めた宝石類に、人間では作り出せない魔道具、強力な魔物の死骸も使える部位を剥ぎとって、様々な品に加工される。どれをとっても大金となるそれらのために、冒険者達は一攫千金を夢見て、命をかけてダンジョンに潜るのだ。
 そんな中にアタシも投入されることになる。貴族にとっては元々捨て駒の命だ。前情報無しの博打であっても、当たれば運が良かった程度に思っているのだろう。くそったれ貴族め。
 補佐としてつけられた他の人間も、どいつもこいつも後ろ暗い仕事をしている奴らや、貴族に弱みを握られているような奴らばかりだ。きっと全員死んでも貴族の懐は何も痛まないに違いない。
 だが、アタシは必ず生き残ってやる、アタシ達姉妹のために。

……

ここ最近度々訪れる侵入者達の対応に追われているメリルは、今日もまた一つのグループが侵入してきたことに気づいた。
 切れ長の目がそのグループの人間達を一人ひとり確認していき、茶色の髪をショートにした一人の女性で止まる。
 若いながらも鋭い目付きをしており、そこらの冒険者よりは腕の立ちそうな印象だ。
「……これは使えそうですね」
 そうメリルは独りごちて、魔王に情報を伝えること無く、一人で魔物達に指示を出すため動き出した──

……

 ダンジョン内に突入したアタシ達は、どうにも様子がおかしいと感じていた。
 まず、第一層に突入してからまだ一度も魔物に出会っていないのがおかしい。魔法トラップらしきものはいくつかあったが、踏まなければ発動しないものがほとんどだったため、回避は容易だった。
 代わりに特に宝らしい宝も見つかっていないが、それよりもキリネ村で聞いた話とは異なるのが気になる。
 ダンジョン内に入った冒険者達から聞いたのは、第二層に到達するどころか第一層すら突破出来ていないという話だった。
 日毎に変わるトラップの配置に、まるで人間が中に入っているかのような魔物達の連携。
 単体では大した強さのない魔物であることは確かなのだが、このダンジョンにいる魔物達は他のところにいる魔物とは明らかに練度が異なるという。
 それらに翻弄され、冒険者達は手傷を負わされたり、仲間を失ったりしてダンジョンの奥まで行くこと無く撤退していった。
 そう聞いていた、それなのに、もう第一層の探索はほとんど終わってしまった。この通路を下れば、次はもう第二層になる。
 本能が罠だと警鐘を鳴らすが、何の成果も出さずに帰れば妹がどうなるかわからない。アタシには進むしか道はないのだ。
 気が乗らないまま、アタシ達は第二層へと足を踏み入れ……やはり引き返せばよかったと後悔することになる。

……

「ようこそ侵入者の皆様、そしてほとんどの人はここでさようならです」
 冒険者達の前方から、メリルがまるで知人に声をかけるような感じで手を挙げる。
「罠だ!引け!!」
 それを見たアタシが即座に撤退の意志を伝える。
「もう、手遅れです」
 メリルの言葉を無視して退路を確保しようと動き出したアタシ達だったが、それはすぐに止まることになる。
「セレナ!後ろからスケルトン共が!!」
 そう、仲間の一人が背後から近寄るスケルトン達の姿を捉えていた。
「くそっ!仕方ない、前の奴をどうにかして止めろ!」
 前方の魔族に後方のスケルトン。どちらに挑むか一瞬考えたアタシだったが、すぐに前方へ向かうことを決めた。スケルトン達は数こそ多いものの、そこまで強い魔物ではない。しかし、前方の魔族に魔法を使われてしまえば、それで恐らく自分達は終わりだ。
「無茶だ! ありゃ幹部だぞ!!」
 仲間から制止の声が上がるが、それでもアタシは指示を変更するつもりはない。
「無茶でもやるんだよ! 死にたくなけりゃあな!」
 ダガーを構え、アタシは魔族―メリル―へと向く。
「<<拘束する鎖>>」
 しかし、メリルが魔法を使うのはアタシ達が考えていたよりも早かった。唱えられたのは無属性下級魔法バインドの呪文、人間が使う似た魔術では相手の手足を一二箇所拘束するに過ぎないものだが、メリルの唱えたバインドは侵入者達の体をがんじがらめに鎖が絡みつく。
「おや、素早いですね」
 パーティの皆がバインドに捕まった状態だったが、アタシだけは辛くも回避に成功していた。
「それくらいが取り柄でねっ!」
 アタシはダガーを振りかぶってメリルへと斬りかかる。
「ですが、捕まえました。<<生あるものの自由を奪え、囚われし氷の棺>>」
「はぁ!? なんだそりゃ!」
 メリルに当たったと思われたダガーの切っ先は、服を貫く寸前でメリルの手のひらから生まれた氷に飲み込まれていた。氷はそのままセレナの右腕を肘まで飲み込み、セレナをがっちりと固定する。
 使われた魔法は水属性中級魔法アイスコフィン、通常であれば全身を氷の棺に収めるものだが、水属性が得意ではないメリルが使うとこのような中途半端な結果になる。まあ、元より手加減するために使っているのだが。
「少々眠ってもらいましょうか<<眠りへと誘う子守唄>>」
 続いて発動されたのは無属性下級魔法スリープ、人間の使う魔術と違い、痛みや衝撃で起きることはなく、魔力供給を断つまで起きることのない死の眠りを相手に与える。
「くっそ……アタシは……死ねないんだ……」
 だが、抵抗しようと伸ばされた左腕は、メリルに到達することなく力を失う。
「他の皆様は残念ですが死んでください」
 意識を失った女性冒険者を地面へと横たえて、メリルは死刑宣告をする。
「待て! 待って……、ぎゃあああ!」
 命乞いをしようとしていた侵入者達の言葉は一切聞かず、スケルトンウォリアーに止めを刺させる。
「あなた達はいつも通り死体を処理しなさい。その後は通常の配置に戻ること」
 今すぐ側で行われた殺戮に眉一つ動かさず、メリルはスケルトン達へ指示を与える。
「「「「カタカタカタカタ」」」」
「さて、うまくいくといいのですが」
 メリルはそう呟いてから、女冒険者を担いで運んでいった。

……

 武器と防具、それに魔術を発動するのに必要な道具類を奪い拘束し、魔法を解除して女冒険者を起こす。意識を取り戻した彼女は頭を二度三度振ってから、メリルを睨み上げる。
「あなたには二つの道があります」
 まず言葉を発したのは、メリルだ。
「アタシをどうするつもりだ!」
「それを今から説明しましょう」
 声を荒げるセレナとは対称に、メリルの声は落ち着きを払っている。
「殺すつもりならさっさと殺せよ! くそったれ!」
「私はそうしても構わないのですが、こちらにも事情がありましてね」
「くそっ、どうせ殺されるなら何を聞いたって答えないぞ!」
「ピーチクパーチクとうるさいですね、敗者は黙って話を聞きなさい」
 メリルが殺気を込めて女冒険者ーセレナーを睨む。その一瞬でセレナの体が硬直し、湧き上がる恐怖心に口をつぐんだ彼女の体がガタガタと震える。
「静かになりましたね、それでは訊きます。あなたは人間側に就くのを辞めて我々の仲間になるか、ここで死ぬかを選びなさい」
 告げられた内容はセレナにとって驚きのことだった。
「なんだと!?」
「ああ、魔界側に就いたからといっても、別にあなたを魔物にしようなどとは考えていませんよ」
「何のためにそんなことをする!」
「それは話を受けた時に説明してあげましょう、ただ、あなたにとってそこまで悪い話ではないと思いますよ? 身の安全も保証します」
 セレナはメリルの真意を測りかねているようだったが、生き延びる道があることに僅かな希望を抱いたようだった。だがまだ情報が足りていない。仲間になってみたら意思を奪われて操り人形にされる可能性などもあるのだ。
「……お前等の仲間になったらどうなる」
「そうですね、あなたが知っている人間共の情報を引き出して、その後はダンジョンの防衛に手を貸してもらいましょうか」
 メリルの返事はセレナにとって意外とも言えるものであり、逆に簡単に答えられたが故に怪しいという印象を持つことになる。
「お前みたいな奴がいるなら、アタシなんて必要ないだろ」
 事実、セレナ達は全く手が出ないまま全滅させられた。
「私も暇ではないのです、蟻のように集ってくる侵入者の相手など、いちいちしていられません」
「……なんでアタシなんだ」
 これまでに幾人もの冒険者がこのダンジョンに侵入してきたはずだ、その中にはセレナより強い人物も当然いただろう。セレナ自身は達人というわけではないのだから。
「それも、仲間になったら教えてあげましょう」
 しかし、それについてメリルは答えない。セレナでなければならない理由について、仲間になる前に教えるつもりはないということなのだろう。どうせ、仲間になることを断ったら殺すくせに、随分と念の入ったことだ。
「……」
「あなたは、死ねないんでしょう?」
 これは堪えたのか、セレナはギリッと歯ぎしりをする。
「……一つ、条件をつけたい」
「なんでしょうか」
「アタシには妹がいる、その妹もここに住まわせてやってほしい。そして、絶対に危害を加えないことを約束しろ。それが出来ないならこの話は無しだ、今すぐアタシを殺すなりなんなりしろ」
 何の因果か偶然にも助かる道があるのだ、それならば、何よりもまずは妹の生活と安全を保証しなければならない。
 だが、任務に失敗したアタシを貴族は許さないだろう。ならば、妹を貴族の元から助けだして、どこかに匿う必要がある。最悪は、今提案したようにダンジョン内に一緒に住むことだ。
「ふむ、妹……ですか、別に構いませんよ」
 メリルは顎に手を当てて僅かに思案すると、特に嫌がる素振りも無く承諾する。むしろ歓迎しているような雰囲気すらある。
「それと、例えアタシが死んでも妹のことを引き続き守ってやってほしい」
 受け入れられるとは思っていないが、とりあえずは提案をしてみる。
「随分とわがままをいいますね、ですがまぁ、それもいいでしょう。それで、妹さんとやらはすぐに連れてこられるのですか?」
 だが、メリルはこれにも文句は言わず、承諾する。
「……商業都市チャントにいる貴族の人質になっている」
「まさか助けに行けと? それは流石に図々しいですね」
 そこまではやってられないと、メリルが呆れたように返す。
「そうは言わない、アタシが迎えに行ってくる」
 とは言えセレナも、元より助けに行ってくれるとは思っていない。後はこのダンジョンから出ることを許されるかどうかだが……
「わかりました、ですが保険をかけさせていただきますよ」
 しかし、メリルは特に嫌な素振りも見せず、代わりに提案をした。
「保険?」
「ええ、魔法で制約をさせます。裏切れば貴方は死にます」
「……っ」
「いいですか? 制約を受け入れてもらいますよ?」
 メリルはセレナへと意思を確認する。
「……わかった、やってくれ」
 その言葉に頷いたメリルは、懐からナイフを取り出し指先を少し切った。そして珠のように溢れでた血を、セレナの口元に持っていく。
「飲みなさい」
 セレナは口を開け、メリルの血を一滴飲む。
「<<制約、彼の者を縛る血の縛鎖となれ>>制約内容は<<我々の不利益になる行動をしない>><<一ヶ月以内に必ず戻ってくる>><<破った場合は死ぬ>>。さあ、誓いなさい」
 特殊な魔法を使い、制約を刻みこむ。
「……誓う」
 瞬間、セレナの胸から紅い光が立ち上る。そして光が収まった時、セレナの心臓の位置には茨の紋章が入っていた。
「これで制約は成されました、詳しい話はあなたが戻ってきてからにしましょう。それと装備はあそこにまとめてあります、後はご自由にどうぞ」
 そう言いながらメリルはセレナの拘束を解く。
「……妹の安全について、アンタが約束を違えないという保証が欲しい」
 しかし、セレナは装備を身につける前にメリルへと言葉をかける。
「……わがままですね、私に制約をかけたいと?」
「アタシにそんな魔法は使えない、だけど、妹の……リーゼの安全が完全に保証されない限り、アタシは安易に動くわけにはいかないんだ」
 強い決意を込めた視線がメリルを射抜く。それにたじろぐようなメリルではないが、明確な意思の込められたその視線に何か思うところがあったのか、代わりの提案をする。
「そうですね……では、これでいかがですか?」
 メリルは顎に手を当てると、少し間をおいてから姿勢を正し、口を開く。
「私、メリル・フェアリード・フレイは、セレナの妹に危害を加えず、彼女の身を守ることを、貴族の名において誓う」
「なっ……!?」
 セレナが驚いたのはメリルが貴族の名において誓ったことだ。プライドの高い魔界貴族は、家名を何よりも重んじ、それを傷つけられることを嫌う。その家名において誓われた言葉は重い意味を持ち、誓いを破った場合には一族から追放されることもあるという。
 セレナがかけられた制約のように行動を縛る強制力はないが、実質的な効果は同じようなものである。
「これで良いですか?」
「わ、わかった、信用しよう」
 まさか人間相手に魔族が誓いの言葉を言うとは思わなかったセレナは、非常に動揺していた。だが、これがきっかけとなりメリルのことを信用してもいいのかもしれないと、少しずつ思い始めることとなる。
 そしてセレナは今度こそ、体をほぐしながらダンジョンを出る準備をする。まずは鎖帷子を着こみ、その上に軽鎧を装着する。そして腰にダガーを挿し、幾つもの投げナイフが差し込まれたベルトを防具の上から装着する。
 その時、そんなセレナの姿を見ながらメリルが一言発した。
「何かの助けになるでしょう。これを持って行きなさい」
 取り出したのは、黒く輝く小石程の結晶
「な、なんだこれ、凄い魔力だ……」
「……私からすると大した魔力ではないのですが、それは魔力結晶と言って、あなた方人間の魔術程度なら準備なしで五回は発動出来るでしょう」
「そうなのか、凄い物だな……ありがたく頂戴する」
「いえいえ、無事に帰ってきてもらわねば困りますからね」
 魔王様のためにも、という言葉は口の中でのみ、呟いていた。
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