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ダンジョン・マスター第二部
21.魔王の帰還
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「準備はいいか?」
「問題ありません」
「は、はいっ!」
ヴェイン城を出てからの俺達は、トレンティア商会でティアリスを拾って、人間界と魔界を繋ぐ魔界門まで戻ってきた。
ティアリスはいつ呼ばれても大丈夫なように準備を完了していたらしく、店番の仕事だけ引き継ぐとすぐに合流することが出来た。急いでいる俺達にとってはありがたい。
店の外でスレイプニルに跨っていた俺達を見て、驚きの余り持ってきた荷物をぶちまけたのはご愛嬌である。
ちなみにスレイプニルだが、翼の生えた八本足の灰色の馬という姿だった。通常の馬よりもかなり大きく、二人で跨ってもまだ余裕があるくらいだ。
「じゃあ、行くぞ」
魔界門ではまた衛兵に誰何されたりしたが、やはり今回も魔王会議への招待状を見せたら問題なく通れた。まぁ、相変わらずダークエルフのメリルに厳しい視線が飛んでいたのは少々気分を害したが、今はそれについて衛兵とやりあっている暇はない。
「<<開け人間界への門>>!」
呪文の詠唱を行うと、魔界門が少しずつ開いていく。
魔界に来てから十日程だが、とても長く感じる滞在だった。やはりアウェーであるという印象が自分の中にあったのだろう、どうにも落ち着かない気分だったのだ。
しかし今、こうしてダンジョンに戻ることが出来ると思うとなんだか安心する。この世界に来てからまだ一年も経っていないが<奇人の住処>もまた、自身の故郷みたいなものになってきているのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は魔界門が完全に開ききるのを待った。
結界陣の間に戻った俺達だったが、皆の姿を探す前にいきなり小さな影が飛びついてきた。突然のことだったのでびっくりしてしまう。
「うおっ?」
「魔王様! 魔王様! 魔物さん達が……! ぐすっ、みんなみんな死んじゃった……!」
「リーゼ……?」
視線を下げれば、俺に抱きついているのはリーゼだった。いつもひまわりのような笑顔を浮かべている顔は、今は涙でぐしゃぐしゃになっている。
「リーゼ、気持ちはわかるけど、今はちょっと待ちな」
そう言ってリーゼの頭を撫でたのはセレナである、その顔には疲労が色濃く残っており、元気が無い。
「アーシャ、セレナ、報告を」
普段とは違う雰囲気の中でも冷静さを失わないメリルが現状説明を求める。
「侵入者はぁー、天界兵四名でしたぁー、現在までで増援はありませんー。忌み子やハーフブラッドが混じっていましたのでー、恐らくこれっきりだと思われますー」
こちらはいつも通り間延びしたアーシャの報告である。忌み子やハーフブラッドという単語についてはわからないが、増援がないというのはいい報告だ。
ただ、メリルは報告の中で気になったものがあったのか、眉を一度だけぴくりと動かしたものの、口は開かなかった。
「天界兵は全員倒したよ。今は魔力封じの枷をはめて、牢屋に拘束してある」
続けてセレナの報告である。とりあえず、今この場にいる皆に大きな怪我がないまま無力化出来たようで良かった。とは言え、先ほどのリーゼの様子を見ると魔物達については覚悟決めて聞かなければならないだろう。
「魔物達に関しては、ゴブリン、オークが全滅、リザードマンは一体を残して全滅。アンデッドはほぼ損害無しという状況になっている」
「そんなに……!」
俺はあまりにも大きな被害に一瞬目の前が暗くなった。
そして同時に、この被害をもたらした天界兵へと怒りの感情が沸き上がってくる。
「くそっ」
「正面からやりあったらアタシじゃ多分勝てなかった。犠牲になった魔物達のお陰で勝てたようなもんだ」
セレナが悔しそうに漏らす。
「いや……セレナが無事で良かった。亡くなった魔物達は丁重に葬ってやろう……遺体はどうなってる?」
「今は第一層に並べてあるよ。ただ、一部の魔物は損壊が激しくて回収しきれなかった者もいるけど……」
「そうか……それは仕方ないな。可能な限り集めてくれればそれでいい」
そうセレナと会話をしていると、俺に抱きついたまま泣いていたリーゼが顔を上げて口を開いた。
「ねえ……魔王様、どうしようもないの? みんな死んじゃったなんて嫌だよ……!」
「リーゼ……」
「わがままを言うんじゃないよ、死んじまったら、もうどうしようもないんだよ」
セレナは辛そうな顔をしつつも、リーゼを諭す。
俺だってどうにか出来るならしたい。でもセレナの言うとおり、死んでしまったらもうどうしようもないのだ。現代の日本にだって、死者を蘇生させる術など存在しなかった。医療技術の発達していないこの世界で、どうやって死者の蘇生が出来ようか。
もし、可能性があるとすれば魔法だが、果たして死者を蘇生する魔法など存在するのだろうか。
「……」
だが、メリルに視線を向けてみれば、ただ無言で首を振るだけだった。やはり、死者を蘇生させる魔法などないのだろう。
「なあリーゼ……」
未だ泣きじゃくるリーゼをどうにかなだめようとして、声をかけた俺だったが、一つ、頭の中に閃いたことがあった。
いや、閃いたというよりは、頭の中の何かが教えてくれたというべきか。俺自身、知るはずのない知識だったのだから。
「……アーシャ、セレナ、アンデッド達を使って、魔物達の遺体を結界陣に集めてくれ」
「魔王サマ?」
突然そんなことを言い出した俺に、セレナが疑問の声を上げる。
「いいから頼む。それからメリルは結界陣の調整を手伝ってくれ」
「……わかりました」
メリルも俺が何を考えているのか予想がついていないのだろう、少し間をおいてから返事をする。
これから俺の行うことがうまくいくのかどうかはわからない。だが、それでも死んでいった彼らの意志を受け継ぐことが出来るなら、試してみたいという思いのほうが勝った。
何故こんな知識が俺にあるのかということについては、今は置いておく。きっとじいさん関連だろう。
これで少しでもリーゼの悲しみを取り除くことが出来るのであれば、それに越したことはないのだから。
しばらくして、結界陣に魔物達の遺体が集められた。
結界陣自体もかなりの大きさがあるのだが、並べられた魔物の数が多いため、かなり狭苦しくなっている。
また、乾ききっていない血や臓物の匂いが充満しており、普通の感覚ではとても耐えられるものではない。
そのため、俺はリーゼに自室で待っているように言ったのだが、彼女は頑として俺の側を離れようとしなかった。
リーゼなりに、俺のしようとしていることを見届けたいのだろう。
「メリル、ちょっと陣を弄るぞ」
「しかし、魔物達を魔力に変換するにはこれで問題ありませんが」
そう、俺が今行おうとしているのは魔物達の遺体を魔力に戻す作業で間違いない。だが、それだけではないのだ。
「後で詳しく話すから、今は任せてくれないか」
「……はい」
メリルは納得していない様子だったが、何も言うことはなく俺の自由にさせてくれる。
「ここをこうして……と……」
俺はメリルが調整した陣を、少しずつ変えていく。
周りにいる皆は、何も言わずに俺が作業するのを見ている。
そうして数分、頭の中に浮かんだ知識の通り、俺は結界陣の再調整を行った。
「じゃあ、やるぞ」
俺が声を上げると、皆が固唾を飲み込んでこれから起こることを見逃さまいとする。
「<<我が眷属よ、新しい命となりて甦れ>>!」
呪文を唱えると、キラキラと光を放ちながら、魔物達の遺体が徐々に薄くなっていく。
遺体が魔力へと変換されているのだ。
幻想的なその光景に、皆が釘付けになる。
しかし、変化はそれだけではなかった。
魔物達の遺体が完全に消えてなくなると、今度は結界陣の中央から光が立ち上った。
光は徐々に強くなり、目も眩むような閃光となる。
その後閃光は徐々に収まっていき、光が完全に消えた時、結界陣には三体の魔物がいた。
一体目は茶褐色の肌を持つ二メートル程の魔物。その姿は鍛えあげられた体と、突き出た角、更に凶悪な顔のため、鬼にも見える。
二体目は青白い肌をした二メートル半程はある魔物、顔は人間と豚の中間とでも言うべきか、体つきはでっぷりと太っているが、手足の筋肉は恐ろしいほどに発達している。
三体目は全身に鎧を身につけたトカゲのような魔物。全長は頭部から尻尾までで三メートル程はあるだろうか、不思議な事に全身には傷跡があり、それは素体となったリザードマン達のリーダー格の魔物がその身に負っていたもののようにも見える。
「これは……」
現れた魔物達にメリルが驚きを露わにする。
それも無理はない、恐らくこの魔法はじいさんしか知らないものなのだから。
「お前達は一度死に、そして別の存在として蘇った。また、このダンジョンを一緒に守ってくれるか?」
俺は魔物達に問いかける。
「モチロンデス、マオウサマ」
答えたのは鬼のような、素体となったゴブリン達の特徴が色濃く出た魔物だ。
そして、他の二体も同じ意見なのか頷く。
「ありがとう。またよろしく頼む」
「ゴブリンさんっ!」
そこまで会話をしたところで、リーゼが我慢出来ないとばかりに飛び出していった。
「ゴブリンさんなの……?」
「ハイ、リーゼサマ」
ゴブリン達の記憶をある程度引き継いでいるのだろうか、意外にもゴブリンはリーゼのことを覚えていた。
「っ!」
それを聞いてリーゼの瞳から再び涙が溢れ出す。
それは一体、どのような涙なのだろうか。いなくなってしまった元の魔物達を悼むものか、それとも新しい存在となって蘇ったことを喜んでいるのか。俺がとった手段は果たして正しかったのか。まだそれははっきりとしない。
だが、これが俺に出来る最良の方法だと思ったのだ。亡くなった命をまた蘇らせて戦わせることに抵抗はある、彼らは十分に戦った、それは間違いない。もう自由にさせてやってもいいじゃないかと確かに考えた。しかし、これからもダンジョンを守っていくためには魔物達の力が必要になる。それならば、俺は今まで一緒にやってきた彼らの意志を受け継がせたかったのだ。
「魔王様、あの魔法は……」
自分の考えに浸っていた俺に、メリルが声をかけてくる。
「ああ、どうやらじいさんの知識の一部みたいだ。突然頭の中に浮かんだんだ。何でこのタイミングなのかはわからないけど、な……もしかしたら、今後も何かの弾みでじいさんの知識が浮かんでくることがあるかも知れない」
「やはりそうでしたか、魔王様が結界陣を弄ることなんて、今までありませんでしたものね」
「勝手にこんなことをして、悪かったな」
「いえ、問題ありません。恐らく皆も理解してくれるでしょう」
「そうだといいんだけどな……」
「やってしまったことについて悩んでも仕方ありません。それよりも、今はまだ考えることがありますから」
これでよかったのかと再び考えこんでしまいそうになる俺を、メリルは諭す。
「天界兵達の処遇……か」
「ええ、何故<奇人の住処>に攻め込んできたのかも尋問しなければなりませんね」
「ああ、ここまで好き勝手やってくれたことに、正直腸が煮えくり返りそうだよ」
「奇遇ですね、私もです」
表面上は普段と変わらない表情だが、瞳の奥には隠し切れない激情が見える。メリルもこの事態を引き起こした天界兵達に、怒りの感情があるのだろう。
「それじゃあ、天界兵を拘束してある牢屋へ行くか、メリルも来てくれ」
「はい、承知しております」
「問題ありません」
「は、はいっ!」
ヴェイン城を出てからの俺達は、トレンティア商会でティアリスを拾って、人間界と魔界を繋ぐ魔界門まで戻ってきた。
ティアリスはいつ呼ばれても大丈夫なように準備を完了していたらしく、店番の仕事だけ引き継ぐとすぐに合流することが出来た。急いでいる俺達にとってはありがたい。
店の外でスレイプニルに跨っていた俺達を見て、驚きの余り持ってきた荷物をぶちまけたのはご愛嬌である。
ちなみにスレイプニルだが、翼の生えた八本足の灰色の馬という姿だった。通常の馬よりもかなり大きく、二人で跨ってもまだ余裕があるくらいだ。
「じゃあ、行くぞ」
魔界門ではまた衛兵に誰何されたりしたが、やはり今回も魔王会議への招待状を見せたら問題なく通れた。まぁ、相変わらずダークエルフのメリルに厳しい視線が飛んでいたのは少々気分を害したが、今はそれについて衛兵とやりあっている暇はない。
「<<開け人間界への門>>!」
呪文の詠唱を行うと、魔界門が少しずつ開いていく。
魔界に来てから十日程だが、とても長く感じる滞在だった。やはりアウェーであるという印象が自分の中にあったのだろう、どうにも落ち着かない気分だったのだ。
しかし今、こうしてダンジョンに戻ることが出来ると思うとなんだか安心する。この世界に来てからまだ一年も経っていないが<奇人の住処>もまた、自身の故郷みたいなものになってきているのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は魔界門が完全に開ききるのを待った。
結界陣の間に戻った俺達だったが、皆の姿を探す前にいきなり小さな影が飛びついてきた。突然のことだったのでびっくりしてしまう。
「うおっ?」
「魔王様! 魔王様! 魔物さん達が……! ぐすっ、みんなみんな死んじゃった……!」
「リーゼ……?」
視線を下げれば、俺に抱きついているのはリーゼだった。いつもひまわりのような笑顔を浮かべている顔は、今は涙でぐしゃぐしゃになっている。
「リーゼ、気持ちはわかるけど、今はちょっと待ちな」
そう言ってリーゼの頭を撫でたのはセレナである、その顔には疲労が色濃く残っており、元気が無い。
「アーシャ、セレナ、報告を」
普段とは違う雰囲気の中でも冷静さを失わないメリルが現状説明を求める。
「侵入者はぁー、天界兵四名でしたぁー、現在までで増援はありませんー。忌み子やハーフブラッドが混じっていましたのでー、恐らくこれっきりだと思われますー」
こちらはいつも通り間延びしたアーシャの報告である。忌み子やハーフブラッドという単語についてはわからないが、増援がないというのはいい報告だ。
ただ、メリルは報告の中で気になったものがあったのか、眉を一度だけぴくりと動かしたものの、口は開かなかった。
「天界兵は全員倒したよ。今は魔力封じの枷をはめて、牢屋に拘束してある」
続けてセレナの報告である。とりあえず、今この場にいる皆に大きな怪我がないまま無力化出来たようで良かった。とは言え、先ほどのリーゼの様子を見ると魔物達については覚悟決めて聞かなければならないだろう。
「魔物達に関しては、ゴブリン、オークが全滅、リザードマンは一体を残して全滅。アンデッドはほぼ損害無しという状況になっている」
「そんなに……!」
俺はあまりにも大きな被害に一瞬目の前が暗くなった。
そして同時に、この被害をもたらした天界兵へと怒りの感情が沸き上がってくる。
「くそっ」
「正面からやりあったらアタシじゃ多分勝てなかった。犠牲になった魔物達のお陰で勝てたようなもんだ」
セレナが悔しそうに漏らす。
「いや……セレナが無事で良かった。亡くなった魔物達は丁重に葬ってやろう……遺体はどうなってる?」
「今は第一層に並べてあるよ。ただ、一部の魔物は損壊が激しくて回収しきれなかった者もいるけど……」
「そうか……それは仕方ないな。可能な限り集めてくれればそれでいい」
そうセレナと会話をしていると、俺に抱きついたまま泣いていたリーゼが顔を上げて口を開いた。
「ねえ……魔王様、どうしようもないの? みんな死んじゃったなんて嫌だよ……!」
「リーゼ……」
「わがままを言うんじゃないよ、死んじまったら、もうどうしようもないんだよ」
セレナは辛そうな顔をしつつも、リーゼを諭す。
俺だってどうにか出来るならしたい。でもセレナの言うとおり、死んでしまったらもうどうしようもないのだ。現代の日本にだって、死者を蘇生させる術など存在しなかった。医療技術の発達していないこの世界で、どうやって死者の蘇生が出来ようか。
もし、可能性があるとすれば魔法だが、果たして死者を蘇生する魔法など存在するのだろうか。
「……」
だが、メリルに視線を向けてみれば、ただ無言で首を振るだけだった。やはり、死者を蘇生させる魔法などないのだろう。
「なあリーゼ……」
未だ泣きじゃくるリーゼをどうにかなだめようとして、声をかけた俺だったが、一つ、頭の中に閃いたことがあった。
いや、閃いたというよりは、頭の中の何かが教えてくれたというべきか。俺自身、知るはずのない知識だったのだから。
「……アーシャ、セレナ、アンデッド達を使って、魔物達の遺体を結界陣に集めてくれ」
「魔王サマ?」
突然そんなことを言い出した俺に、セレナが疑問の声を上げる。
「いいから頼む。それからメリルは結界陣の調整を手伝ってくれ」
「……わかりました」
メリルも俺が何を考えているのか予想がついていないのだろう、少し間をおいてから返事をする。
これから俺の行うことがうまくいくのかどうかはわからない。だが、それでも死んでいった彼らの意志を受け継ぐことが出来るなら、試してみたいという思いのほうが勝った。
何故こんな知識が俺にあるのかということについては、今は置いておく。きっとじいさん関連だろう。
これで少しでもリーゼの悲しみを取り除くことが出来るのであれば、それに越したことはないのだから。
しばらくして、結界陣に魔物達の遺体が集められた。
結界陣自体もかなりの大きさがあるのだが、並べられた魔物の数が多いため、かなり狭苦しくなっている。
また、乾ききっていない血や臓物の匂いが充満しており、普通の感覚ではとても耐えられるものではない。
そのため、俺はリーゼに自室で待っているように言ったのだが、彼女は頑として俺の側を離れようとしなかった。
リーゼなりに、俺のしようとしていることを見届けたいのだろう。
「メリル、ちょっと陣を弄るぞ」
「しかし、魔物達を魔力に変換するにはこれで問題ありませんが」
そう、俺が今行おうとしているのは魔物達の遺体を魔力に戻す作業で間違いない。だが、それだけではないのだ。
「後で詳しく話すから、今は任せてくれないか」
「……はい」
メリルは納得していない様子だったが、何も言うことはなく俺の自由にさせてくれる。
「ここをこうして……と……」
俺はメリルが調整した陣を、少しずつ変えていく。
周りにいる皆は、何も言わずに俺が作業するのを見ている。
そうして数分、頭の中に浮かんだ知識の通り、俺は結界陣の再調整を行った。
「じゃあ、やるぞ」
俺が声を上げると、皆が固唾を飲み込んでこれから起こることを見逃さまいとする。
「<<我が眷属よ、新しい命となりて甦れ>>!」
呪文を唱えると、キラキラと光を放ちながら、魔物達の遺体が徐々に薄くなっていく。
遺体が魔力へと変換されているのだ。
幻想的なその光景に、皆が釘付けになる。
しかし、変化はそれだけではなかった。
魔物達の遺体が完全に消えてなくなると、今度は結界陣の中央から光が立ち上った。
光は徐々に強くなり、目も眩むような閃光となる。
その後閃光は徐々に収まっていき、光が完全に消えた時、結界陣には三体の魔物がいた。
一体目は茶褐色の肌を持つ二メートル程の魔物。その姿は鍛えあげられた体と、突き出た角、更に凶悪な顔のため、鬼にも見える。
二体目は青白い肌をした二メートル半程はある魔物、顔は人間と豚の中間とでも言うべきか、体つきはでっぷりと太っているが、手足の筋肉は恐ろしいほどに発達している。
三体目は全身に鎧を身につけたトカゲのような魔物。全長は頭部から尻尾までで三メートル程はあるだろうか、不思議な事に全身には傷跡があり、それは素体となったリザードマン達のリーダー格の魔物がその身に負っていたもののようにも見える。
「これは……」
現れた魔物達にメリルが驚きを露わにする。
それも無理はない、恐らくこの魔法はじいさんしか知らないものなのだから。
「お前達は一度死に、そして別の存在として蘇った。また、このダンジョンを一緒に守ってくれるか?」
俺は魔物達に問いかける。
「モチロンデス、マオウサマ」
答えたのは鬼のような、素体となったゴブリン達の特徴が色濃く出た魔物だ。
そして、他の二体も同じ意見なのか頷く。
「ありがとう。またよろしく頼む」
「ゴブリンさんっ!」
そこまで会話をしたところで、リーゼが我慢出来ないとばかりに飛び出していった。
「ゴブリンさんなの……?」
「ハイ、リーゼサマ」
ゴブリン達の記憶をある程度引き継いでいるのだろうか、意外にもゴブリンはリーゼのことを覚えていた。
「っ!」
それを聞いてリーゼの瞳から再び涙が溢れ出す。
それは一体、どのような涙なのだろうか。いなくなってしまった元の魔物達を悼むものか、それとも新しい存在となって蘇ったことを喜んでいるのか。俺がとった手段は果たして正しかったのか。まだそれははっきりとしない。
だが、これが俺に出来る最良の方法だと思ったのだ。亡くなった命をまた蘇らせて戦わせることに抵抗はある、彼らは十分に戦った、それは間違いない。もう自由にさせてやってもいいじゃないかと確かに考えた。しかし、これからもダンジョンを守っていくためには魔物達の力が必要になる。それならば、俺は今まで一緒にやってきた彼らの意志を受け継がせたかったのだ。
「魔王様、あの魔法は……」
自分の考えに浸っていた俺に、メリルが声をかけてくる。
「ああ、どうやらじいさんの知識の一部みたいだ。突然頭の中に浮かんだんだ。何でこのタイミングなのかはわからないけど、な……もしかしたら、今後も何かの弾みでじいさんの知識が浮かんでくることがあるかも知れない」
「やはりそうでしたか、魔王様が結界陣を弄ることなんて、今までありませんでしたものね」
「勝手にこんなことをして、悪かったな」
「いえ、問題ありません。恐らく皆も理解してくれるでしょう」
「そうだといいんだけどな……」
「やってしまったことについて悩んでも仕方ありません。それよりも、今はまだ考えることがありますから」
これでよかったのかと再び考えこんでしまいそうになる俺を、メリルは諭す。
「天界兵達の処遇……か」
「ええ、何故<奇人の住処>に攻め込んできたのかも尋問しなければなりませんね」
「ああ、ここまで好き勝手やってくれたことに、正直腸が煮えくり返りそうだよ」
「奇遇ですね、私もです」
表面上は普段と変わらない表情だが、瞳の奥には隠し切れない激情が見える。メリルもこの事態を引き起こした天界兵達に、怒りの感情があるのだろう。
「それじゃあ、天界兵を拘束してある牢屋へ行くか、メリルも来てくれ」
「はい、承知しております」
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