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ダンジョン・マスター第二部
20.魔王達その後
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アース達が去った後、式典の行われた会場で話し合う影があった。
「どうじゃ? あの者は」
皇帝が口を開く。
「正直言って戦い方はなっとりませんな。魔法も得意ではないようですし」
答えたのは大魔王のボイド・デリュージ・アロンゾだ。
竜人族である彼は、三メートルにも届こうかという巨大な体躯を鈍色の鎧で包んでいる。
竜人族は二足歩行をした竜という見た目をしており、鱗で覆われた皮膚、太く強靭な尻尾、そして顔は竜そのもので、鋭い牙の並ぶ口と、頭部からは二本の竜角が生えている。
純血の竜種はどの世界でも超越者として存在しているが、基本的に群れることもなければ、何かの出来事に干渉することもない。自身のテリトリーに侵入するものを追い払うだけだ。
しかし竜人族は遥か過去に何かの偶然で竜種の血が魔界の住人と混ざった混血であり、竜人族として生まれただけで圧倒的な力を誇る存在になる。
現在では隔世遺伝として極稀に発生するだけであり、人為的に産むことは出来ない。
そのため、ボイドの存在は軍の中でもかなり貴重であり、そして強大な力を持つ者である。
魔王達を束ねる大魔王という地位を持つに相応しい人物と言えた。
「ですが魔力の出力とハインドの弱点を見ぬいてみせた機転は中々見所がある。鍛えれば良い戦士となるでしょう」
「ほう、お主程の男がそう評価するか」
にやりと皇帝は笑みを浮かべる。
「陛下が一体あの男のどこが気に入っているのかわかりませんが、あくまでも鍛えればの話であって、現時点では魔王の中でも弱い部類であることは間違いありませんよ」
そんな皇帝にボイドは重ねて評価をする。
「わかっておる。しかしじゃ、それでも試合でハインドに勝ったであろう?」
「ええ、そこに関しては素直に驚いておりますよ」
「それにアースは異世界人じゃ。聞けば肉体的特徴は人間界におる人間と変わらぬという。冥夜族で純血のヴァンパイア、ハインドを相手にするにはあまりにも大きい種族的格差があったはずじゃ」
「ほほう、そうであれば人間界に極稀に発生するという”勇者”のようなものかもしれませんな。奴らは人間とは思えぬ力を振るうそうではありませんか」
「じゃが、アースは勇者ではない。ランドゲルズにより異世界から召喚された者じゃ」
「嘘という可能性はないのですか?」
ボイドは異世界からの召喚などという魔法が本当に存在しているのかと、疑問の声を上げる。
「余はランドゲルズを信じておる」
「陛下は昔からランドゲルズのことがお気に入りでしたからそうかも知れませんが、我らにはそう簡単に信用することは出来ません」
「じゃが、アースには我らも知らぬ技術の知見があるようじゃった。それに人間界の人間なら誰もが持っているであろう、魔族への恐怖も憎しみも持っておらんようじゃったぞ」
皇帝はアースに対する印象を補足する。
「ふむ、そこまで陛下がおっしゃられるのであれば、信じてみるのも良いでしょう。ですが、あの者に対する監視はさせていただきますよ。ただでさえ得体の知れぬ人物が魔王になったということで、軍の内部に動揺が走っている状態ですので」
「わかっておる。自由にするがよい。ただし、殺すようなことをする場合は余を一度通さねば許さぬぞ」
皇帝は鋭くボイドを見つめ、警告する。
「承知しております。我もまだ死にたくはありませんから」
竜人族として生まれ、強大な力を持つボイドでも、今代の皇帝には全く勝てると思わせない強さがあった。
「ならば良い。して、どのように監視を行うのじゃ?」
剣呑な空気を収めると、皇帝はボイドへと訊く。
「そうですな……ランドゲルズが管理していたあのダンジョンには人材が少ないはずですから、子飼いの部下でも送り出してダンジョン運営を手伝わせますかな」
「ほう、それは良い案じゃの、きっとアースは何の疑問も持たずに信用しそうじゃ」
皇帝はくすりと笑う。
「迷宮大将がアレですから、あまりダークエルフに偏見を持たぬものを選出せねばなりませんね」
「ふむ……それだったら余に考えがある」
そう告げた皇帝の顔は、まるで悪戯でも思いついた悪ガキのような表情を浮かべていた。
「陛下……また何かお企みで?」
「失敬な、余は単に人材に心当たりがあると言っただけじゃ」
むすっとした表情を浮かべると、口をとがらせて告げる。その姿だけ見れば、可憐な少女が駄々をこねているようにも見える。
「はぁ、それで、誰なんでしょうか」
「余と連絡の取りやすい者、と言えばわかるか?」
「連絡の……なるほど、彼女ですか」
合点がいったという顔でボイドが頷く。
「うむ、少々性格に問題はあるが、きっと大丈夫じゃろう」
「彼女程の人物を僻地のダンジョンに送るのですか? また大臣達がうるさくなりますよ?」
「良いのじゃ。どうせ皆も使い勝手に困っておるのじゃから、ならば余の役に立って貰わねばな」
「我はあの者に同情しますよ……」
ボイドが嘆息する。
「なあに、きっとメリルがうまくコントロールするじゃろう」
こうしてアース達の知らぬところで、人材派遣が決まったのである。
「どうじゃ? あの者は」
皇帝が口を開く。
「正直言って戦い方はなっとりませんな。魔法も得意ではないようですし」
答えたのは大魔王のボイド・デリュージ・アロンゾだ。
竜人族である彼は、三メートルにも届こうかという巨大な体躯を鈍色の鎧で包んでいる。
竜人族は二足歩行をした竜という見た目をしており、鱗で覆われた皮膚、太く強靭な尻尾、そして顔は竜そのもので、鋭い牙の並ぶ口と、頭部からは二本の竜角が生えている。
純血の竜種はどの世界でも超越者として存在しているが、基本的に群れることもなければ、何かの出来事に干渉することもない。自身のテリトリーに侵入するものを追い払うだけだ。
しかし竜人族は遥か過去に何かの偶然で竜種の血が魔界の住人と混ざった混血であり、竜人族として生まれただけで圧倒的な力を誇る存在になる。
現在では隔世遺伝として極稀に発生するだけであり、人為的に産むことは出来ない。
そのため、ボイドの存在は軍の中でもかなり貴重であり、そして強大な力を持つ者である。
魔王達を束ねる大魔王という地位を持つに相応しい人物と言えた。
「ですが魔力の出力とハインドの弱点を見ぬいてみせた機転は中々見所がある。鍛えれば良い戦士となるでしょう」
「ほう、お主程の男がそう評価するか」
にやりと皇帝は笑みを浮かべる。
「陛下が一体あの男のどこが気に入っているのかわかりませんが、あくまでも鍛えればの話であって、現時点では魔王の中でも弱い部類であることは間違いありませんよ」
そんな皇帝にボイドは重ねて評価をする。
「わかっておる。しかしじゃ、それでも試合でハインドに勝ったであろう?」
「ええ、そこに関しては素直に驚いておりますよ」
「それにアースは異世界人じゃ。聞けば肉体的特徴は人間界におる人間と変わらぬという。冥夜族で純血のヴァンパイア、ハインドを相手にするにはあまりにも大きい種族的格差があったはずじゃ」
「ほほう、そうであれば人間界に極稀に発生するという”勇者”のようなものかもしれませんな。奴らは人間とは思えぬ力を振るうそうではありませんか」
「じゃが、アースは勇者ではない。ランドゲルズにより異世界から召喚された者じゃ」
「嘘という可能性はないのですか?」
ボイドは異世界からの召喚などという魔法が本当に存在しているのかと、疑問の声を上げる。
「余はランドゲルズを信じておる」
「陛下は昔からランドゲルズのことがお気に入りでしたからそうかも知れませんが、我らにはそう簡単に信用することは出来ません」
「じゃが、アースには我らも知らぬ技術の知見があるようじゃった。それに人間界の人間なら誰もが持っているであろう、魔族への恐怖も憎しみも持っておらんようじゃったぞ」
皇帝はアースに対する印象を補足する。
「ふむ、そこまで陛下がおっしゃられるのであれば、信じてみるのも良いでしょう。ですが、あの者に対する監視はさせていただきますよ。ただでさえ得体の知れぬ人物が魔王になったということで、軍の内部に動揺が走っている状態ですので」
「わかっておる。自由にするがよい。ただし、殺すようなことをする場合は余を一度通さねば許さぬぞ」
皇帝は鋭くボイドを見つめ、警告する。
「承知しております。我もまだ死にたくはありませんから」
竜人族として生まれ、強大な力を持つボイドでも、今代の皇帝には全く勝てると思わせない強さがあった。
「ならば良い。して、どのように監視を行うのじゃ?」
剣呑な空気を収めると、皇帝はボイドへと訊く。
「そうですな……ランドゲルズが管理していたあのダンジョンには人材が少ないはずですから、子飼いの部下でも送り出してダンジョン運営を手伝わせますかな」
「ほう、それは良い案じゃの、きっとアースは何の疑問も持たずに信用しそうじゃ」
皇帝はくすりと笑う。
「迷宮大将がアレですから、あまりダークエルフに偏見を持たぬものを選出せねばなりませんね」
「ふむ……それだったら余に考えがある」
そう告げた皇帝の顔は、まるで悪戯でも思いついた悪ガキのような表情を浮かべていた。
「陛下……また何かお企みで?」
「失敬な、余は単に人材に心当たりがあると言っただけじゃ」
むすっとした表情を浮かべると、口をとがらせて告げる。その姿だけ見れば、可憐な少女が駄々をこねているようにも見える。
「はぁ、それで、誰なんでしょうか」
「余と連絡の取りやすい者、と言えばわかるか?」
「連絡の……なるほど、彼女ですか」
合点がいったという顔でボイドが頷く。
「うむ、少々性格に問題はあるが、きっと大丈夫じゃろう」
「彼女程の人物を僻地のダンジョンに送るのですか? また大臣達がうるさくなりますよ?」
「良いのじゃ。どうせ皆も使い勝手に困っておるのじゃから、ならば余の役に立って貰わねばな」
「我はあの者に同情しますよ……」
ボイドが嘆息する。
「なあに、きっとメリルがうまくコントロールするじゃろう」
こうしてアース達の知らぬところで、人材派遣が決まったのである。
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