【番外編完結】元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい

綴つづか

文字の大きさ
65 / 130
誘誘

65.元社畜とノーエン伯爵家の双子・2



「正確には、できないわけじゃないんです。ただ、今の私が施術すると、妹さんに激しい痛みを与えることになるので、お勧めできないんです」
「ふ、ふざけるな!!」
「ふざけてなんていませんよ」

 希望が空ぶることになったキシュアルア君が激昂するが、怒られたってどうにもならない。
 だって、彼らは付与調律師ヴォイサーのスキルのデメリットを知らなすぎる。全部が全部便利に、都合よくできているわけじゃないのだ。

 4日前。私は王家から打診を受けたご令嬢に、≪調律ヴォイシング≫を行った。継続的な治療の一環だ。
 この時、魔力を混ぜ合わせている関係で、私にも影響が出て、彼女の魔力に若干だが染まっている。

 これは、効率を考えて数人まとめて調律しようとして、発覚した事実なんだよね。
 そのため、魔力がフラットに戻るまで約1週間程度、私もご令嬢以外の他の人と、魔力の波長が合わなくなるのだ。
 私の調律とて、万能ではないのだとわかったのは、短いながらもこの2ヵ月でできる限りの治験を行った結果である。私が1ヵ月に1人、最高でも2人しか治癒をできないと制限をかけたのはそのためだ。経過観察を含めて、次の安全な調律のために、時間をあける必要がある。

 ということを丁寧に説明すると、キシュアルア君はちっと舌を打った。

「フン。ならば、あと3日過ぎれば、お前が再び≪調律≫を使えるということだろう。そのくらい待つさ」
「それは構いませんが……。私がここで妹さんに調律を行うと、今クラリッサにて私が治療を行っているご令嬢がお亡くなりになる可能性があります」
「はあ!?」
「えっ!?」

 キシュアルア君から素っ頓狂な声が上がり、アルアリアさんは両手で口元を押さえる。

「それだけ、重篤な患者さんを今診ている真っ最中なんですよ……」

 調律と魔石による治癒が始まって、まだ日が浅い。だけど、魔力の瑕疵の影響は待ってくれない。だから、王家の調律対象リストの中で、命を脅かす危険のある者を優先して、処置している。
 クラリッサに来てもらっているご令嬢が患っているのは、魔力枯渇のレアケースだ。調律をしたものの、体質なのか相性なのか魔力は漏れ、珍しく一度で治らず、私も対応に手こずっていた。

 私は、アルアリアさんをこそっと魔力視してみる。間違いなく、魔力枯渇を起こしている。魔力の器に、わかりやすく針ほどの穴が開いていた。
 枯渇症状に陥る最大の要因は、この穴がほとんどである。
 ただ、体内の魔力生成量は、ギリギリ最低値を保っているので、悪化しない限りこれが原因で亡くなることはないという見立てだ。
 どちらが急ぎかといわれると、圧倒的にクラリッサに滞在しているご令嬢である。

「言いたくはないですけれども、妹さん一人だけが、魔力の瑕疵に苦しんでいるわけじゃないんです。あなた方は、誰かの命を背負う覚悟があって、私を攫ってきたのではないのですか?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「兄様、サーディー、攫ってきたって、一体どういうことなんですか……!?」

 私の物言いに、キシュアルア君が動揺を見せる。
 反対に、アルアリアさんは、きっときつく彼を見据えた。声が怒りに震えている。

「ア、アリア……」
「わ、私はそんなことをしてまで、治りたくなんてありません!!」
「だが、アリアだって、ずっとずっと苦しんでいたじゃないか。せっかくのチャンスなのに!」
「だからと言って!」
「お嬢様、落ち着いてください。お身体に障ります」
「サーディーも、兄様を何故止めなかったの!!」

 アルアリアさんは毅然と男性二人を叱るものの、妹をどうしても治したい兄と、兄に犯罪を犯させたくない妹では、口論は平行線だ。

「お、俺はただ……調律スキルを持つ人間が、ふらふらしていると聞いたから……! 何故力があるのに、使わないのだと……!!」

 あ、矛先がこっちに来た。
 いや、私だって、仕事もしないで遊び歩いていたわけじゃないんだけどね、決して。むしろ、もっと仕事をさせてもらっても良いくらいだ、切実に。
 ただ、無茶はしないって、約束しているからね。
 レオニード殿下に調律をした時点で、噂が一人歩きするかもなあとは思っていたけれども、どういう経緯で捻じ曲がったのか気になるところではある。
 調律が連続稼働できないから、何もしていない風に見えているのかもなあ。切ない。シリウスさんに、報告上げておかなくちゃ。

「……そうですね。私は、たまたま付与調律師のクラスを授かったというだけの、一般人です。もちろん、困っている人には、できる限り手を差し伸べたいとは思っていますよ。でも、私は≪調律≫のスキルがある限り、自分の意にそぐわない思いや、滅私奉公をしなければいけないということなんでしょうか?」
「……」

 多分、私も社畜のままだったら、何も考えず誰にでも彼にでもスキルを使いまくっていたに違いない。自分を省みることなく。

 大げさな言い方だろうか?
 でも、私はもう、そうは思わなくなった。何事にも、線引きは大事だ。
 魔力疾患は、流行病などとは違い、撲滅できる病ではないのだから。

「例えば、私じゃなく妹さんが付与調律師のスキルを持っていて、そのせいで妹さんが頼られ酷使されたとして、≪調律≫が使えるのだから仕方ないと笑顔で許せるんですか、貴方は」
「そんなことあるはずが!!」
「貴方がやろうとしていたのは、そういう身勝手なんですよ」
「……」

 私が窘めるように言うと、キシュアルア君はぐっと黙り込んだ。
 こういう問題は、本当に難しい。特に命がかかわってくるし、闘病を見守るしかできない家族だって、気が気じゃないだろうからね。
 助けてほしい、縋りたい、救って欲しい、誰か。大切な人だからよりいっそう希望を求めてしまう。

 ただ、申し訳ないけれども、私は何らかの使命や志を持って、調律を与えられたわけじゃないし、調律をしているわけでもない。貴族でもなければ、権力もない、上に立つような人間でもない。『界渡人わたりびと』という立場で、ある程度尊重されてはいるものの、異世界転移は私が望んだ形ではないのだ。
 聖女様とやらも、似たような立ち位置じゃないかなとお察しする。
 特殊で、問題解決のできる能力を持ちえた者は、それを世に幅広く使えという気持ちはわからないでもないけれども、度が過ぎれば傲慢にも搾取にもなってしまう。

 もちろん、ノブリス・オブリージュ……というよりも相互互助って大切だと、この世界の人たちに触れて身に染みた。
 リオナさんやヒースさん、クラリッサの人たちに助けられ、優しくしてもらったからこそ、私も自分のできる範囲で恩返しをしたくて、手を貸している。
 強制される謂れは、本来ならばないのだ。

 天魔石についてもそうなんだけど、後世への影響も考えて、技術は世に出さねばならない。
 付与調律師が何人もいるならともかく、安直にすぐ治せるものに飛びついて、一過性の効果だけを得て、私が死んだあとは元の木阿弥という状況は、避けるべきなのだ。
 特に、魔法が普遍的なこの世界では、治療や治癒に対して、人々の感覚が鈍化している気がする。
 ≪調律≫がなくとも、魔力疾患の影響が最小限になっていけるよう、どうやって国として体制を整えていくのかを、協力して検討しなければならない。

 だから、こういった無理を通されるのを回避するために、私はアイオン王国とスキル利用について交渉したのだ。落としどころや配慮は、大事だからね。

 まあ、今回の場合、まだその辺の情報が遠方にまで浸透しなかったせいで、事案にまで発展しちゃったわけだけど。

「それに、無理やり攫われた人間が、どうして素直に治療に応じるとお思いで?」
「どういう……」
「考えなかったのですか? 付与調律師が、魔力操作のエキスパートなのは、ご存じでしょう? 妹さんの魔力を完全に枯渇させて、殺してしまうことだって、できなくはないんですよ」

 魔力を治せるということは、逆に魔力を壊せるということでもある。
 まあ、私だってそんな真似やりたくはないし、絶対に破壊のためにスキルを使用しないと誓っているけれどもね。

 私が目を細めくすりと笑って雰囲気を出すと、双子は顔を青ざめさせてひっと息を呑んだ。サーディーさんが二人を守るように、私の前に立ちふさがる。眼光が鋭い。

 ……ちょっと脅しが効きすぎただろうか。


感想 8

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される

希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。 しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。 全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。 王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。 だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。