【完結】元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい

綴つづか

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オルクス公爵領ダンジョン調査

101.元社畜とお疲れ様

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「ああ、生きててよかった……! この味を知らずして、死ねないね……!」
「無限に食べられてしまう……肉が溶ける……」
「っあ、こんな旨いの食べてしまったら、安い肉が食べられなくなるぞ……」
「清貧とは……? 美味しいものを前にして、清く生きる必要などないのでは……?」

 以上、各々がドラゴンステーキを食して発した一言である。
 みんな、美味しさに魂飛んでる。それと、だいぶ発言が酷い。いや、でもそのくらい美味しいから、気持ちはわかる。ほっぺたが落ちるってやつだ。

 どちらかというとサシの少ない牛のヒレ肉みたいな、柔らかく一番良い部位を選んだので、思ったよりあっさり食べられる。希少価値の高いシャトーブリアン的な感じといいますか。そりゃあ、レアだよねえ。
 みんなの収納鞄アイテムボックスに食べきれないくらいぱんぱんにお肉が詰まっていて、結構な量をギルドに流す予定なので、最高級な部位は、我々が討伐した褒賞ということで。あとは各個人で欲しければって感じだったから、みんな食べきれる程度にばっちりいただいた。リオナさんに食べさせたいしね。
 それでもかなり余るので、公爵家の財源としてディランさんがにっこにこだ。多分、北方商業ギルド統括のフラガリアさんも、にっこにこになると思うわ。

「この肉に酒を合わせないだなんて、絶対に冒涜だ。僕の秘蔵の赤を出すぞ!」
「あっ、ディランダル様、またそんなものを勝手に持ち込んで!」
「ええい、仕事あがりだよ、無礼講無礼講!」
「そっ、それは……! 幻のオルクスヴィンテージでは……!? 王族献上葡萄酒ワインの中で、一番出来がよかったと言われている15年ものの!」
「おっ、よくわかったねぇ、ヒースさん!」

 ディランさんは自らの収納鞄から、えいやと高そうな葡萄酒を出した。瓶を見ただけで、何だかどえらい葡萄酒だとわかるヒースさんもどうかと思う。
 マリーが苦笑しながら、こんなこともあろうかと、とそっとワイングラスを取り出した。ねえ、何でそんなに準備いいの? マリーも、もしかしてお酒実は好きだったりするの??
 唯一、額を押さえて眉間に皴を寄せているシラギさんのほうが、おかしい感覚になっている。

「よーし、火竜討伐を祝しまして、乾杯!」
「「「「カンパーイ!」」」」

 お高くレアな葡萄酒を惜しみなく振舞ったディランさんは、グラスを盛大に掲げた。まだ、飲んでないのにテンション高いなあ、おい。
 でも、なんだかんだ、最高級な葡萄酒の芳醇な味わいと薫りは、ドラゴンステーキの美味しさを更に引き立て、みんなを唸らせるのだった。






「やー、スープもステーキも最高だよ、カナメ」
「絶対公爵家のシェフが焼いたほうが美味しいと思いますけどね~、お粗末さまでした」
「公爵家だと、もっと格式張った感じになるからね。それはそれでいいけれども、やっぱりマナーを気にせず、みんなでワイワイやるのがいいんじゃないか」
「わかります。私も、野外訓練につきそうとき、ちょっとだけ外での食事が楽しみですもの。たまにしかできないからか、青空の下や焚き火の前で食べるご飯は、美味しいですよね」
「だよね~、さすがマリー嬢、わかってるぅ!」

 どうやら、高位貴族の2人は、バーベキューがお気に召しているらしい。割とこういうのは珍しいタイプだよね。
 確かにダンジョン探索の最中、私の調理方法やレシピにも興味をあれこれ持たれることが多く、自領にもあれこれ取り込みたいと柔軟性が高かったし。

 わいわいと会話を楽しんでいると、ワイングラスを傾けながら、ディランさんがふと小さく笑った。

「それにしても、まさかここまで軽々とダンジョンの目的階層まで攻略できてしまうとはねぇ……。本当、キミたちにお願いして良かった」
「私たちにとっても、凄く良い経験になりました。ありがとうございました」
「無事ダンジョン開きができるといいですね」
「それな~」

 ヒースさんの言葉に、ディランさんががっくりと肩を落としながら苦笑を見せる。
 この後多少レポートの作成を手伝ったら、残りはオルクス公爵家の領分だ。周辺を整地し、街道を作り、ギルドや宿屋、食堂、武器・防具屋、魔道具屋などなど、必要な店を誘致してダンジョン街を作っていく必要がある。公爵家がやらなくちゃならない仕事は山積みだ。
 とはいえ、このイレギュラー調査を進めている間にも、着々とディランさんのお兄様が、きっちり下準備を終えているらしいのだけれども。地のオルクスだし、街道整備なんかはお茶の子さいさいだろうしね。
 竜の住むダンジョンということで、希少価値がついて、きっとここは栄えるだろう。完全踏破は、訪れたベテランの冒険者パーティに頼むことにするらしい。

「ところでカナメ、公爵家のお抱えになる気はない? 料理人コックとしてでも、魔石職人としてでも。報酬弾むけど。もちろん僕の嫁としてでも大歓迎」
「お断りします」
「くあー、また間髪入れずにフられたぁ!」
「相変わらずカナメさんは、気持ちいいくらいバッサリいきますね……」

 うえーんと泣き真似をしながら、ディランさんがぱたりと地面に突っ伏す。本当に貴族か、ちょっと怪しい行動だ。
 この人一応身分と肩書きだけはあるんですよと、シラギさんがディランさんを指さす。シラギさんも、大概ご主人様の扱いが酷いと思うんだけどどうよ。
 そんなディランさんの隣に座っていたヒースさんが、忌々しげにツッコミのチョップを食らわせて、ディランさんが食って掛かっている。うーん、珍しい構図だ。いつの間にこんなに仲良くなったのかな、この2人。気が付いたら遠慮がなくなった感じだよね。

「何はともあれ、この数か月、楽しかった。お疲れ様でした。またの機会にでも、キミたちと一緒に遊べると嬉しいなぁ」
「遊びって言っちゃったよ、この人……」

 締まらないディランさんに、突っ込む私。どっと沸く場。
 一歩間違えれば死を迎える危険な場所だったけれども、終始和やかに、嫌なことなど感じず、緊張もなく過ごせたのは、みんなの笑顔や、暖かな雰囲気、優しさに溢れていたからだ。
 うーん、これもディランさんの人徳なのかな?言ったら調子に乗りそうだから、言わないけれども。



 そんな感じで、数か月に渡る楽しかったダンジョン探索は、無事完了と相成ったのだった。






 その後、魔女の屋敷に戻り、ドラゴンステーキをリオナさんに振舞った際、うっかり葡萄酒の話をしたら、「私もレア酒飲みたかった!!」と盛大に拗ねられてしまったのは後の話である。








---------------


これにて5章ダンジョン編は終了です。長らくお付き合いありがとうございました。
のんびり投稿ですが、引き続きよろしくお願いします!


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