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二人で会社に戻ると、来栖先輩が近付いてきた。
「お疲れ様。椎名、日高くん」
僕はペコリと頭を下げて、暖人は来栖先輩と目も合わせない。
暖人の目の前で、来栖先輩がポンと、また大きな手の平を頭に乗せてくる。
「日高くん」
「なんすか?」
暖人が、どこまでも感情のこもっていない声を出した。
来栖先輩が焚きつけるような視線を暖人に向けて、僕は来栖先輩が何を言い出すんだろうとソワソワしてしまう。
「俺、昨日、椎名を抱いたよ? もう椎名は日高くんのものじゃないよ? 椎名は俺のことが好きなんだ。ちょっかいかけるのは、日高くんがやめてくれない?」
暖人がチラリと僕を横目に見遣った。
何故か、後ろめたい気持ちがしてしまうのは何故だろう。後ろめたいことをしたのは暖人なのに。僕は、報われたはずなのに。
「そっすか。まぁ、来栖先輩が葵晴をどうしようと、俺が葵晴を好きな気持ちまでは左右できないんで。人の気持ちまでは左右できないんで。そんくらいは、わかりますよね?」
来栖先輩がどこか勝ち誇った顔で僕の肩に手を置いた。
わざと、暖人に見せつけるように僕の耳朶に口元を寄せて囁いた。
「じゃあ椎名、今日も帰りにね」
僕はコクリと頷いて、暖人は何も言わず自分のデスクに戻った。
その背を縋るように見つめてしまう僕はなんだ。
どうしよう──。
僕の気持ちは宙ぶらりんだ。
暖人の元へも、来栖先輩の元へも行けていない。
身体は、来栖先輩のものになったけれど。
心は、ずっと宙ぶらりんだ。
二人から離れて、一人になれば楽になれるんだろうか。
やっぱり僕は、一人で生きていくしかないんだろうか。
誰かに孤独を埋めてもらおうなんて、甘えなんだろうか──。
「お疲れ様。椎名、日高くん」
僕はペコリと頭を下げて、暖人は来栖先輩と目も合わせない。
暖人の目の前で、来栖先輩がポンと、また大きな手の平を頭に乗せてくる。
「日高くん」
「なんすか?」
暖人が、どこまでも感情のこもっていない声を出した。
来栖先輩が焚きつけるような視線を暖人に向けて、僕は来栖先輩が何を言い出すんだろうとソワソワしてしまう。
「俺、昨日、椎名を抱いたよ? もう椎名は日高くんのものじゃないよ? 椎名は俺のことが好きなんだ。ちょっかいかけるのは、日高くんがやめてくれない?」
暖人がチラリと僕を横目に見遣った。
何故か、後ろめたい気持ちがしてしまうのは何故だろう。後ろめたいことをしたのは暖人なのに。僕は、報われたはずなのに。
「そっすか。まぁ、来栖先輩が葵晴をどうしようと、俺が葵晴を好きな気持ちまでは左右できないんで。人の気持ちまでは左右できないんで。そんくらいは、わかりますよね?」
来栖先輩がどこか勝ち誇った顔で僕の肩に手を置いた。
わざと、暖人に見せつけるように僕の耳朶に口元を寄せて囁いた。
「じゃあ椎名、今日も帰りにね」
僕はコクリと頷いて、暖人は何も言わず自分のデスクに戻った。
その背を縋るように見つめてしまう僕はなんだ。
どうしよう──。
僕の気持ちは宙ぶらりんだ。
暖人の元へも、来栖先輩の元へも行けていない。
身体は、来栖先輩のものになったけれど。
心は、ずっと宙ぶらりんだ。
二人から離れて、一人になれば楽になれるんだろうか。
やっぱり僕は、一人で生きていくしかないんだろうか。
誰かに孤独を埋めてもらおうなんて、甘えなんだろうか──。
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