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「風早先輩」
そう声が掛かったのは由貴が俺と勝負をしようと言ってきた五日後の仕事上がりのことだった。
「ああ……。お疲れ、小鳥遊」
「あの……風早先輩……ちょっと、相談したいことがあって……。もしこの後何も予定がなかったら、また『モンドリップ』に行きませんか?」
間違いなく由貴が動いたな、と確信する。
由貴とは、あんな宣戦布告をされたけれど、変わらず接しているし、変わらず身体を重ねてもいる。
今までと変わったことはなかったから、何か俺の悪い聞き間違いだったんじゃないかとすら安穏に過ごしていたのだけれど、どうやら由貴は本気らしい。
「ああ、予定はない。じゃあこのまま一緒に行くか?」
言うと、小鳥遊は嬉しそうに頬を紅くして頷いた。
小鳥遊と連れ立って『モンドリップ』に入店すると、この間と同じ二人掛けの席に着いて、すぐにまたキリマンジャロを注文する。
「――で、相談って?」
小鳥遊がどこか浮かない表情で俺を見つめて、ややしてポツンと「主任のことなんです……」と呟いた。
主任、――すなわち一華 由貴――である。
「主任に何か言われたのか?」
そう問うたタイミングでコーヒーが運ばれてきて、小鳥遊が可愛らしくフーフーと息を吹きかけてコーヒーを口に含んだ。
「はい……。えっと、連絡先を訊かれて、それまでは良かったんですけど……。その、遊ばないかって言われて……。どういう意味ですか?って訊いたら、私に気があるって……。でも私、この間も言いましたけど、風早先輩のことが好きで……。風早先輩、時間をくれっていいましたよね? お返事決まったかなって。主任は女の私よりも綺麗すぎて、ある種……憧憬というか……嬉しいんですけど尻込みしちゃいます」
ここで小鳥遊を手に入れなければ俺は由貴との勝負に負けて、別れなくちゃいけなくなる。
もし俺がフリーだったなら、据え膳で小鳥遊の告白を何の躊躇いもなく受け入れていただろう、そこに気持ちはなくとも適当な情人として。
でも、今の俺は由貴だけを見ていて、由貴は俺だけを見てくれないけれど、それでもアイツを放したくなくて。
だが――。
小鳥遊のこの揺らいでいる気持ちを放置しておくのはまずい。
(俺が付き合えねぇって言ったら小鳥遊は由貴の元へ行くかもしれねぇ……。そして俺にそれを止める権利もない。ホントもうどうすりゃいいんだよ……。何のための勝負か言えよ、あのバカ)
そう声が掛かったのは由貴が俺と勝負をしようと言ってきた五日後の仕事上がりのことだった。
「ああ……。お疲れ、小鳥遊」
「あの……風早先輩……ちょっと、相談したいことがあって……。もしこの後何も予定がなかったら、また『モンドリップ』に行きませんか?」
間違いなく由貴が動いたな、と確信する。
由貴とは、あんな宣戦布告をされたけれど、変わらず接しているし、変わらず身体を重ねてもいる。
今までと変わったことはなかったから、何か俺の悪い聞き間違いだったんじゃないかとすら安穏に過ごしていたのだけれど、どうやら由貴は本気らしい。
「ああ、予定はない。じゃあこのまま一緒に行くか?」
言うと、小鳥遊は嬉しそうに頬を紅くして頷いた。
小鳥遊と連れ立って『モンドリップ』に入店すると、この間と同じ二人掛けの席に着いて、すぐにまたキリマンジャロを注文する。
「――で、相談って?」
小鳥遊がどこか浮かない表情で俺を見つめて、ややしてポツンと「主任のことなんです……」と呟いた。
主任、――すなわち一華 由貴――である。
「主任に何か言われたのか?」
そう問うたタイミングでコーヒーが運ばれてきて、小鳥遊が可愛らしくフーフーと息を吹きかけてコーヒーを口に含んだ。
「はい……。えっと、連絡先を訊かれて、それまでは良かったんですけど……。その、遊ばないかって言われて……。どういう意味ですか?って訊いたら、私に気があるって……。でも私、この間も言いましたけど、風早先輩のことが好きで……。風早先輩、時間をくれっていいましたよね? お返事決まったかなって。主任は女の私よりも綺麗すぎて、ある種……憧憬というか……嬉しいんですけど尻込みしちゃいます」
ここで小鳥遊を手に入れなければ俺は由貴との勝負に負けて、別れなくちゃいけなくなる。
もし俺がフリーだったなら、据え膳で小鳥遊の告白を何の躊躇いもなく受け入れていただろう、そこに気持ちはなくとも適当な情人として。
でも、今の俺は由貴だけを見ていて、由貴は俺だけを見てくれないけれど、それでもアイツを放したくなくて。
だが――。
小鳥遊のこの揺らいでいる気持ちを放置しておくのはまずい。
(俺が付き合えねぇって言ったら小鳥遊は由貴の元へ行くかもしれねぇ……。そして俺にそれを止める権利もない。ホントもうどうすりゃいいんだよ……。何のための勝負か言えよ、あのバカ)
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