テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

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風早かざはや、本気で言ってるのか?」

 結局仕事を二日休んでしまった挙句に出勤するなり退職願を出した俺に課長が目を丸くしていた。

「本気です。すみません。今月いっぱいで大丈夫ですか?」

「何か仕事に不満でもあるか? 人間関係か?」

 そこで、課長のすぐそばに座る主任の由貴ゆきにチラリと視線を流してみたけれど、由貴は俺の方を見ようともしなかった。

「いえ……。仕事に不満はないんすけど、ちょっと他にやりたいことが見つかって……」

「……そうか。まぁ、無理には引き留めないがもう少し時間はあるんだから、これはとりあえず預かっておく。本当に辞めるんだったら送別会を開かないとな」

 ひっそり辞めさせて欲しいがそういうわけにもいかないようだ……と、思わず溜め息を吐きそうになる。

「すみません。よろしくお願いします」

 それだけ言って自席に戻ると隣の席の小鳥遊たかなしが何か言いたげにこちらを見つめていることに気付いたが、俺は気付かない振りをした。

 なのに――。

 昼食を食い終わって喫煙所で一服しているとやっぱりというか案の定というか小鳥遊が入ってきて。

「風早先輩、何で仕事辞めちゃうんですか?」

「お前がそれを訊くか? 主任から聞いた。小鳥遊、アイツを誘ったんだって? 俺がアイツに未練があることを話したんだって? そこまでされて、俺は主任とお前がいる職場で安穏あんのんと仕事をしろっていうのか?」

 小鳥遊が、不服そうに唇を噛み締めた。

「……私、主任と勝負しています。主任が、風早先輩と何を思って別れを切り出したのか聞きましたよ。風早先輩が、それに気付いたら元に戻りたいとも言っていました」

(由貴が俺と戻りたい……?)

「由貴は……主任は何て?」

「私がみすみす風早先輩と主任のりを戻すようなことを言うと思いますか? でも――風早先輩が私と関係を持ってくれたら考えてもいいですけど?」

「小鳥遊はどうしてそんなに俺にこだわる? お前なら男なんて選び放題だろ」

「だから、風早先輩を選んだんです」

 思わず煙と一緒に溜め息も吐き出して。

「もういい。主任の話はするな。小鳥遊はただの後輩。俺が辞めるまでもう少しよろしくな」

 ヒラヒラと手を振って、俺は喫煙所を後にした。

 もう由貴と小鳥遊に振り回されても疲れるだけだ。

 俺が全部忘れてしまえばいい。
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