テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

文字の大きさ
42 / 58

42

しおりを挟む
 馬乗りになった小鳥遊たかなしが、そのまま口接くちづけて来た。

 この間、最後に由貴ゆきがしてくれたキスが小鳥遊のそれで上書きされてしまったことに少しだけ胸が痛む。

 だが――。

 ここまで俺に執着しているなら、俺も由貴に執着する苦しみがわかっているから、なりふり構っていられない小鳥遊の気持ちもわからなくもない。

(だったらもう――)

 俺は身体を起こし、ぐるりと小鳥遊の身体を反転させ、フローリングに縫いとめてやや性急にその唇を己のそれで塞いでやった。

 掠めるだけで離した唇が、吐息が触れる距離にあるまま思い切り胸を鷲掴んでやれば「あっ」と小鳥遊が短い嬌声きょうせいを上げて身じろいだ。

 ――こんな気分か?

 心の底から愛してる奴がいながら気持ちもない奴を抱こうとするのはこんなにやるせない気分になるのか?

 由貴も、俺を愛していたならこんな気分だったのか?

 こんな、どこまでも虚しい気分になったのか?

 そこまでして俺に変わって欲しいと願っていた、俺に抱いていた不満って一体何だったんだよ。

 そっと小鳥遊の上から身体を退けた。

風早かざはや先輩?」

「悪いな。どうやら俺はもうアイツ以外に欲情しねぇみてぇだ。帰れよ。それとも由貴の思ってる不満とやらを教えてくれるか?」

 小鳥遊が悔しそうに唇を噛み締めて、その瞳を少しだけ潤ませて俺に険しい表情を向けて来た。

「そんなに主任が好きですか? 主任なんて……ただ綺麗なだけじゃないですか。あんな……あんなちっぽけな理由で風早先輩を裏切り続けて別れを切り出すような人ですよ? 私なら、ちゃんと風早先輩だけを見ます」

「主任は……由貴はただ綺麗なだけじゃねぇんだよ。確かにモラルはねぇけど、俺はそんなところも目を瞑ってもいいくらいアイツを愛してる。遅すぎる初恋なんだ。そんな奴を簡単に忘れられるわけがねぇだろ。どんなちっぽけな理由かは知らねぇけど……俺がアイツを傷つけてたなら、悪いのは俺だ。そういう訳だから……小鳥遊が俺にどう迫ってこようが俺はお前とはどうこうなるつもりはない」

 そう、由貴はただ綺麗なだけじゃない。

 確かに俺も最初はそのハッとしてしまう、一目見たら惹きつけられてしまう美貌に絡め取られていった。

 でも、由貴が(行動はどうあれ)こんな素直じゃない俺に『好きだ』、『愛してる』と根気強く囁いてくれた気持ちは本物だった。

 別れてからも何かと俺のことを気にかけてくれていたのも紛れもない事実だったから、こんなにもまだ由貴が愛おしい気持ちが残っている。

 もしかしたら、俺はもう由貴以外を愛せないかもしれないな――。

 小鳥遊が黙って部屋を出て、俺は煙草をくわえた。

 もし今ここに由貴が居てくれたら火なんて点けないのに。

 キスして欲しいから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

明日の君は俺を知らない。

マジ卍
BL
幼なじみの蓮と悠人。 一緒に生きていくはずだったふたりの関係は、ある日突然崩れた。 病気、記憶喪失、そして──再会。 「俺を……置いていかないで」 切なくて、優しい。再び心をつなぐ、純愛BLストーリー。 ストックの方は完結済みです。

処理中です...